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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第三章】サイキック・バトル編 『ジプシーダンス』
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第54話 ジプシー

 高速がすいていたため、俺は予定通り、待ち合わせの時間前に戻ってきた。

 さすがに、バイクでの移動中や今日向かった先では、ここ数日の変な視線はついてこない。

 こうなると、俺につきまとう例の気配は、学校帰りとそのあとに続く、寝るまでの生活限定ってことになる。


 俺にしては珍しい待ち状態だ。

 相手の正体がわからず、こちらから先制攻撃を仕掛けられないというのは、けっこう辛いものだ。


 近くの駐車場にバイクを置き、伊達眼鏡をかけながら校舎に入ると、授業がない土曜日のはずなのに、やたらと生徒が多かった。

 少し考えて思いだす。

 そうか。

 そういえばテニス部とバレーボール部が、他校との交流試合でコートを使うと言っていたな。

 そのせいか。


 俺は、待ち合わせ場所に指定した生徒棟一階の階段下に着くと、ちょうど角度的に見えるテニス部の試合をそれとなく眺めながら、壁を背に腕を組んで立つ。

 時々、待ち合わせ予定の二時を腕時計で確認しながら待っていると、突然、人の気配を感じた。

 なにげなく視線をあげる。

 すると、階段上に、この学校の制服ではない女の子がひとり、うつむき加減で立っていた。


 その姿に、見覚えがある。

 その少女に、どこかで会った気がする。

 ――ああ、数日前に街で絡まれているところを助けた、あの彼女ではないだろうか?


 そう思い当たった、その瞬間。


「お待たっ!」


 ほーりゅうが、ふわりと俺の目の前へ飛びこんできた。

 急にほーりゅうが視界に入ったため、不意を突かれた俺は、反射的に言葉がでる。


「遅い」

「だってさぁ」


 慌てて俺は、視線を戻して階段の上を見る。

 しかし、先ほどの彼女は幻だったかのように、もう姿がなかった。


「ジプシー、どうした?」


 ほーりゅうより遅れてやってきた京一郎と夢乃が、不思議そうに俺へ声をかける。


「――いや。いまそこに、このあいだ助けた女の子が、立っていた気がしたんだ」

「本当? でも、他校の人でしょう?」

「今日は、テニス部とバレーボール部が交流試合をしている。たぶん、どちらかの応援についてきたんだと思う。――まあ、向こうは俺のことに気がついてもいないだろうが」


 ふぅんと、ほーりゅうがうなずく。

 そんな彼女を見て、俺は思いだした。

 そういえば。


「おまえ、二時の待ち合わせに遅れたな」

「だって……。学校にくる途中に、すてきな喫茶店があって、そこで新作のパフェがでていたのよ! ついついメニューを眺めちゃってさ」


 言いわけがましく口にしながら、ほーりゅうは上目づかいで唇を尖らせた。

 なるほど。

 理由がいかにも、ほーりゅうらしいか。

 それに、喫茶店に新作パフェとは、ちょうどいいかもしれない。


「わたしたちも遅れてごめんなさい。かなり待ったかしら?」


 夢乃がそう聞いたので、俺は試合が終わったらしいコートを振り返った。


「待っているあいだに、テニス部の試合を見ていた。――うちのテニス部は思った以上に強いな。圧勝だ」

「おまえなあ」


 あきれたように京一郎が口をはさんできた。


「このあいだの、俺と市営のテニスコートで待ち合わせをした日、そのテニス部の主将とおまえで互角に打ち合っていたじゃねぇか。なんて苗字だったか――下の名前が、たしかカオルとかいう二年と」

「ああ、そうか。向こうは俺のことを、同じ学校の一年だと気づかなかったようだがな」


 そうつぶやきながら、俺は時間を確認した。

 予定通りだ。

 そろそろいくか。


 俺は、夢乃と話をしているほーりゅうへ視線を向けた。

 彼女の容姿を、上から下までざっとチェックする。

 制服姿のほーりゅうは、ふんわりとした柔らかそうな長い髪を、無造作に背中へおろしていた。

 最初に目をひく大きな瞳が、会話に合わせて、くるくると表情豊かに動いている。


 俺の視線を感じたのだろうか。

 その彼女の瞳が、ふいに俺のほうへと向けられた。

 無意識らしく小首をかしげてくる。


 そんな彼女に向かって、俺は口を開いた。


「ほーりゅう、付き合おうか」


 そのとたんに、ほーりゅうは、瞳をさらに大きく見開いて黙りこんだ。

 なにかを警戒でもしているのか、そのあとは眼を細め、俺の様子をうかがうように見つめてくる。

 その不審な態度に、俺は疑問の言葉を投げかけた。


「どうしたんだ?」

「それって、どういう意味?」


 どういう?

 俺は、なにか特殊な言い方でもしたのか?


 今度は、俺のほうが首をかしげた。


「変な言い方だったか? おまえがパフェを食べたいなら、いまから付き合おうかということだが。そうだな……。別の言い方で詳しく説明をするなら、いままでまともに、おまえとふたりきりで腹を割って話をしたことがないから、話をしがてら、さっきおまえがメニューを眺めていたという喫茶店へ、これからパフェを食べにでもいこうか。おごってやるから――って意味だが」 

「OK!」


 俺の説明の途中で伝えたい意味が通じたらしく、とたんに破顔したほーりゅうは即答する。

 こういうところは、素直で単純だ。

 俺は、京一郎に目配せをしながら、借りていたバイクの鍵を放って返す。

 夢乃のほうは心配そうな顔をしたが、京一郎は鍵をキャッチしながら無言でうなずいた。


「それじゃ、いまから、ほーりゅうを借りていく」


 ふたりにそう告げて、俺は先に歩きだした。

 気持ちがもう、パフェにいっているのだろう。

 俺の後ろを嬉しそうに、ほーりゅうがついてくる。


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