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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第三章】サイキック・バトル編 『ジプシーダンス』
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第51話 ほーりゅう

 木曜日、今日の四時間目の授業は体育だった。

 その時間って、一番お腹が空くときなんだよね。

 そのうえ、体育館でバスケットボールだなんてさ。


 わたしたち女子は数人の班に分かれて、ボールをくるくる投げあう練習をする。

 あんまりわたしは球技が得意じゃないけれど、体育の女の先生は厳しくないから、和気あいあいとしていてけっこう楽しい。

 ちょっとくらい雑談が入っても、手が止まっていなければお咎めもなくて大丈夫だ。


 逆に、体育館の半分を使って同じようにバスケをしている男子たちは、かなり厳しい男の体育の先生が指導している。

 授業の進むスピード感が違うし、男子は皆黙々と言われたメニューをこなしていっているみたい。


 その男子のなかで、身体を動かすことがいかにも好きそうな京一郎が、一番楽しそうに練習している。


「ねえ、ほーりゅう」


 ソバージュ頭の明子あきこちゃんが、くりくりっとした眼を男子たちへ向けながら、わたしのほうへ近寄ってきてささやいた。


「やっぱり城之内じょうのうちって、運動神経いいよねえ。背が高くて顔もいい。あれで暴走族に入っていなきゃ、クラスの女子にモテるんだろうねぇ」

「そお? でもさ、京一郎って話をすると、そんなに不良って感じがしないけれど?」

「いやいや、彼は充分怖いって。――ほーりゅう、あなたの感覚が他人と違っているんだって」


 そうかなぁ?

 皆は最初から見た目で怖がって、まともに京一郎と話をしたことがないだけだと思うんだけれどなぁ。


 わたしと明子ちゃんは、改めて京一郎を目で追いかけた。

 生まれつきだという茶髪が、彼へ、周囲からそんな先入観のある目を向けさせているのだろうか。

 意外と他人より真面目な性格で、とっても頭も良いのに。


 ――そうそう。

 そういえば、ウチのクラスにはもうひとり、京一郎以上にスバ抜けた運動神経の持ち主がいるじゃない!


 そう考えたわたしは、ぐるりと見渡してジプシーの姿を探してみた。




 ジプシーとひそかに呼ばれている彼は、江沼聡えぬまさとしという名前だ。

 わたしのクラスメートで、学級委員長をしている。

 高校一年としては少々身長が低く、黒髪で黒ぶち眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな優等生だ。

 そのうえ、普段から感情表現が薄く、付き合いが深くなればなるほど、腹黒さが滲みでてくるという、厄介な男でもある。

 そんな彼は、実は陰陽術使いだという。

 さらに警察黙認で拳銃を所持しており、極秘で任務を請け負っては、警察の手助けをしているらしい。


 その彼と、わたしはこの高校へ転入してきた早々、ささいな関わりを持った。

 似たようなロザリオを持っているという理由で、彼の請け負った仕事の現場へ、わたしが乱入してしまったのだ。

 それが縁となり、わたしは彼と、友人と呼べるような関係となった。


 ここだけの話、なんとわたしは超能力というものを持っている。

 ただし、自分で制御のできない、爆発をするかのごとく発動するという困った念力なんだけれどね……。




 バスケをする男子のコート内で、わたしはすぐに、ジプシーの姿を発見した。

 ただ、見つけたけれど、なぜだろう?

 なんだか今日は、いつもと雰囲気が違う。

 どこか違和感がつきまとっている。


 シュートの練習をしているのだろうか。

 ゴールに向かってボールを投げていた。

 低めだったせいかリングに当たり、はじかれて転がったボールを拾いに走る。

 また右手で持って左手は直角に支え、基本通りの投げ方でゴールを狙ってはふたたび入らず、またボールを拾いにいく、その繰り返しをしていた。


「ジプシーって、いつもあんな感じだったっけ?」


 無意識に、わたしは、すぐそばに立っていた明子ちゃんへ声をかけていた。

 わたしの言葉に反応した明子ちゃんの目が、きょろきょろっとジプシーの姿を探す。


「委員長? あんな感じって? そういえば今日は珍しく授業にでているねぇ。身体が弱いから、体育は見学が多いのに」


 明子ちゃんの言葉を聞いて、わたしは改めて気がついた。


 そうか。

 ジプシーってば、いつも学校内では、目立ちたくないから身体が弱いフリをしているって前に言っていたっけ?

 男子との体育は、普段は別の場所だから、あんまり見たことがないせいで忘れていたよ。


「でられる種目にはでないと、単位が取れないからでしょ。でもまあ、けっこう離れた距離から投げているわりにはリングに当たってんだから、そんなにひどくはないんじゃない? 試合になったら、すぐ息があがりそうだけれどねぇ」


 わたしの考えに気づかない明子ちゃんは、苦笑いを浮かべながら続ける。


 わたしは、もっとすごい技を期待してジプシーを眺めていたから、拍子抜けに感じたのだろうか。

 きっと普段は、あんな感じなんだな。


 そう考えながらもなんとなく見つめていると。

 ふと、ジプシーが朝からいつもとイメージが違うと思う理由が、もうひとつ思い当たった。


 なんていうんだろうか、――俺に近寄るなオーラ? っていうものが、今日はいつもよりも増して、でている気がする。

 なにかあったのかな?




 男子側の練習終了の笛が鳴り、二手に分かれての試合がはじまった。

 ジプシーは京一郎と同じチームになっているようだ。

 京一郎は正真正銘ポイントゲッターだけれど、みずからコート中を走り回ってボールを集め、どんどんポイントを入れている。

 まさしく水を得た魚状態だ。

 対するジプシーは、ほとんどコートの真ん中あたりで動かない。

 でも、よく見ていると、京一郎がゴールを入れるたびに相手側から投げ返されるボールを、ことごとく取って京一郎に回していた。

 えっと、あれって?


「インターセプトっていうのよ」


 わたしのそばで見ていた夢乃が、そっとささやいてきた。


「疲れないように走り回らずチームに貢献。いかにも校内で目立ちたくないジプシーらしいやり方よね」


 ああ、そうそうそれよ。

 なるほど!


 わたしはポンと手を打った。

 それって、疲れなくってうまい方法ってものじゃない?




 そのときちょうど、女子のほうでも笛が鳴って集合がかかった。

 わたしもさっそく、試合にでることになる。


 同じチームになったバスケも上手な夢乃が、華麗にゴールを決める。

 そのあとに飛んで返ってくるボールを、コートの中央に立ったわたしはジプシーの真似をして狙ってみた。

 けれど、取れない。

 何度かチャレンジする機会があったのに、手をだすタイミングが遅いのか、ボールに届かなかったり。

 取れそうでも、先に別の子に受け止められたり。

 わたしの狙った反対側をボールが通ったり。


「ほーりゅう、あなた、インターセプトを狙っているでしょう?」


 見かねた夢乃が、息を整えながら近寄ってきた。


「インターセプトって、勘やボールの読みやそれに伴う運動神経などが必要な、けっこう高度な技だと思うわよ。ジプシーだから目立たなく簡単そうにやってのけるけれども」


 なんだ、全然だめじゃん!

 難し過ぎる。

 結局、普通に地道に走り回ってやれってことなのかぁ。


 そう気がついたわたしは、大きなため息をついた。



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