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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第二章】 文化祭編
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第42話 ほーりゅう

 呆気にとられた表情のまま、わたしは動けなかった。


 わたしの力がでる瞬間に階段側へ隠れた夢乃。

 教室内で頭を抱えて伏せた京一郎。

 姿勢を低くして爆風を避けつつもわたしから視線を外さなかったジプシー。

 窓の外へ吹き飛ばされた男に気づいたジプシーが、すぐに窓際へと駆け寄り、眼下を一瞥する。

 そして、血相を変えて、猛然と階下へ続く階段に向かって走りだした。

 その様子に気がついた京一郎も、教室から飛びだして、あとを追いかける。

 落ちる瞬間を見ていなかった夢乃が、わたしのほうへと駆け寄ってきた。


 そんな情景を、わたしは座りこんだまま、呆然と見つめていた。




 わたしは半泣きになりながら、夢乃と一緒に階段をおりていった。

 先に走りだしていたジプシーと京一郎は、とっくに姿が見えない。

 もう、男が落ちた場所へ着いているんだろうか?


 直接手をくだしていないとはいえ、わたしは、四階の窓から人間をひとり、落としてしまったんだ。


 一階までおりて、校舎から中庭へでる。

 職員室棟と向かい合っている生徒棟では、盛りあがっている文化祭の賑やかさが伝わってきた。

 その反対側へと回り、さらに窓の真下となるほうへと向かう。

 その角を曲がるとき、さすがにわたしの足が鈍くなった。

 この先にあるであろう光景が、まざまざと目に浮かぶ……。


「あ~ん! わたしだけのせいじゃないもん! ジプシーのばかぁ!」


 覚悟を決めて叫びながら、わたしは夢乃と角を曲がり、思い切って現場へと走りだした。


 けれど。

 その異様な光景に、思わずわたしも夢乃も立ち止まる。

 先に着いていたジプシーも京一郎も身動きできずに、無言でそれを見守っていた。


 そこでは四階から地上へ叩きつけられたと思われた男が、仰向けに倒れていた。

 倒れているように見えて。

 ――だが、浮いていた。

 男の身体全体が十センチほど、地面から浮いていたのだ。


 そう認識した瞬間。

 無言で見つめているわたしたちの目の前で、急に男の身体はどさっと地面まで落ちた。

 わたしと夢乃は、びくっとして、お互いに寄り添い合う。

 落ちたとたんに、ジプシーは男のほうへと駆け寄った。

 すばやく顔を寄せ、首の脈や呼吸などを確認する。


「――意識を失っているだけだ。外傷もないし、あの状況から、おそらく頭も打っていない。命に別状はないと思う」


 ジプシーの言葉に、わたしはほっとして胸をなでおろした。


 ――人を殺さずに済んだんだ。

 そう安堵したわたしは脱力して、ぺたんととその場にへたりこむ。

 ジプシーも、心底安堵したような表情を浮かべた。


「でもさ、間違いなく空中に浮いていたよな。これも、おまえがやったの?」


 男を指さしながら、京一郎が、わたしに向かって聞いてきた。

 もちろんわたしは、顔をぶんぶんと横に振る。


「こんな器用なマネ、わたしにできるわけない」

「ということは、偶然の産物か……」


 考える表情となりながら、ジプシーがささやくように口にする。

 京一郎も、ようやく軽口をたたける余裕がでてきたらしい。

 そして、その矛先を、わたしへと向けた。


「そういえば。ほーりゅう、おまえ、なにか叫びながら走ってこなかったか? 誰々がばかとかなんとかさぁ」


 その言葉が聞こえていたらしいジプシーが、ちらりと流し目をわたしへ送ってくる。


 ――その目つき、あとでいろいろと締めあげようとする気?

 非常に怖いんですけれど!


「まあ、とりあえず結果オーライってことで? ――こいつは意識を取り戻しても、たぶん、おまえのことをずっと女だと思っているだろうなぁ」


 今度はジプシーへ向かって、笑いながら京一郎が言った。


「あ? ――ああ」


 引っかかるところがあるのか、まだなにかを考える顔をしつつも、ジプシーは夢乃へ指示をだした。


「夢乃、そろそろ桜井刑事が校門前に到着しているはずだ。連絡をとってくれ」




 さっきからジプシーって、なにを考えているんだろう?

 やっぱりわたしの締めあげ方法なのだろうか?

 ――まさかね。


 夢乃が駆けていく後ろ姿を見ながら、わたしはもうひとつ気になることがあって、ぐるりと周りを見渡した。

 でも、なにが気になるのかは、口にださない。

 この場ではなんだか、とくにジプシーの前では、言っちゃいけない気がするから。


 ――さっきまで、なぜなのか、たしかに確信を持って感じたんだけれど。


 会ったことがないはずの、我龍の存在。


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