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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第二章】 文化祭編
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第40話 ジプシー

 文化祭で賑やかな校内のはずだが、使用されていない建物の四階までは声が届かず、静かさを保っていた。

 俺は神経を集中させながら、廊下をゆっくりと進む。

 着替える時間がなかったため、いまだに俺はジュリエットの衣装の格好のままだ。

 動きにくいこと、このうえない。


 ここの階には俺と、各教室を順番に調べている京一郎、階段をあがりきった見えないところで夢乃とほーりゅうがいる。

 そのほかの気配は、いまのところ感じられない。

 ということは、息をひそめて隠れるのがよほどうまいのか、あるいは、先の廊下に衣服をわざと残して警戒させ、足止めさせているあいだに逃げたのか。


 俺は、廊下の真ん中で、一度立ち止まった。

 視界に入る廊下はもちろんだが、その先の見えないところまで神経を尖らせる。

 ――が、やはり気配がしない。


 教室のなかを調べている京一郎へ、視線を走らせる。

 彼も、無言で首を横に振った。


 この先のまだ調べていない教室のなかか、とっくに逃げたか。

 ――この職員室棟の大きさなら、俺の結界で包みこめないこともない。

 少々手間だが、男の位置確認は、そのほうが確実だろうか。

 それとも、結界の準備をしているあいだに、別の場所へ移動されてしまうだろうか。


 そう考えたとき、ふいに、ほーりゅうが動いていた。

 てくてくと、俺のあとからついてきていた。


 あまりにも普通の動作だったので、夢乃が止めそこねたようだ。

 彼女が動いたことで、神経を尖らせていた俺の集中が、乱れて途切れる。

 俺は平静を保とうと心がけつつ、ゆっくりと振り返りながら、彼女へ低く声をかけた。


「――おまえ、動くなと言っただろ?」

「ここまで強盗犯がいないんでしょ? だったら、あんたのあとをついてっても、大丈夫なんじゃ……」


 呑気そうな声のほーりゅうが、そこまで口にしたとたんに、外に向かって開いている窓から手が伸びてきていた。

 その手が、すばやい動作で彼女を羽交い絞めにすると、同時に彼女の首筋で、鋭利なナイフが光を放った。




 やられた。

 奴がいたのは、四階でも窓の外だったのだ。

 俺の位置から彼女のところまで跳ぶにしては、やや離れ過ぎている。


 目で距離をはかりながらも、ついため息をついてしまった俺の前へ、ほーりゅうの首にナイフをあてたまま、男は、ゆっくりと窓を乗り越えて姿を現した。


「高校生のガキどもか」


 人質をとったことで余裕があるのか、男は笑いながら口を開く。

 そして、ほーりゅうが手にしているFAX用紙に気がついたようだ。


「だが、警察からのFAX持参か。ただのガキってわけでもなさそうだ。どうやらさっき、俺の仲間をやってくれたようだしな」


 すばやく男は、周囲の状況を把握する。

 そのまま俺へ視点を定めると、じっと見据えて続けた。


「このなかでは、レトロな格好のお嬢さまがリーダーだな? 目つきでわかる。――階段のところにいる女、それと教室のなかにいる茶髪。おまえらも動くなよ」


 この時点では、向こうのほうが有利な立場だ。全員が言われた通り、動きを止まる。

 だが。


 ――俺は、この状況において、ある違和感を覚えた。




 状況の違和感。

 ――それは、ほーりゅうの超能力が、発動する気配がないということだ。

 制御不能とはいっても、この危険が迫った状況なら、ほーりゅうの超能力がでるのではなかろうか?

 彼女自身も、内なる感情が高まると、勝手に力がでてしまうようなことを言っていたはずだ。


 男を見据えたまま、俺は、まだ一度しか見たことがない彼女の能力を思いだす。

 京一郎のときの話も思いだしてみた。

 そして、この緊迫した状況のなかで、過去に知識として聞かされていた俺にしかわからないであろう、ひとつの重大な要素に気がつく。


 ほーりゅうの持っている、ロザリオの中心に埋めこまれている石だ。

 彼女の超能力と呼べる力の、媒体か増幅の役割を担っている石。

 あの、意思を持つカディアと呼ばれる石が、この状況を超能力不要と判断しているのではないだろうか?


「ゆっくりと手をあげろ。よけいなことをするなよ」


 目の前にいる男が、ほーりゅうの首筋にナイフをあてたまま、俺から視線をそらさず命令する。

 黙ったまま、俺は言われた通りに、手のひらを男に向けて両手をあげた。


 ――いや。もうひとつ、似たような状況でも前回とは条件が異なっているものがある。

 それは、殺意の方向だ。


 ほーりゅうにとって、自分に向けられる殺意が能力の発動条件なら、このままでは力はでないだろう。

 いま、彼女にナイフが突きつけられていても、ナイフには殺意がこめられていない。

 男の殺気は、すべて俺へ向いているからだ。

 過去の件を思い返してみたら、俺や京一郎のとき、どちらもその瞬間は、ほーりゅうに殺気が向いていた。

 あるいは、――俺が彼女を助けるという可能性が、彼女の超能力発動の妨げになっているのだろうか?


 俺は頭のなかで、この場を切り抜けられるような様々なパターンをシミュレーションする。

 そして、彼女の能力が発動するかどうかを確かめつつ、こちらを有利な状況へと持っていくための、ひとつの方法を選ぶことにした。




 俺は、いま、全員が立っている位置を確認する。

 廊下に俺と、向かい合って男とほーりゅう。

 男をはさんで俺と対角線上、向こう側の階段をあがったところに夢乃がいる。

 教室の中に京一郎。

 ――少しだけ、校舎の外へ向いた窓際のほうへ俺が動けば、俺と夢乃と京一郎を頂点とする三角形のなかに、男はぎりぎり、入る。


「――ほーりゅう」


 低く発した俺の声に、びくっとしたほーりゅうが怯えた表情となって顔をあげた。

 俺は、男の気をひかないように、本当にゆっくりと移動しながら両手をさげる。

 そして、さげた左手の袖口から手のひらのなかへ、一本の独鈷を滑り落としながら静かに告げた。


「ほーりゅう、おまえは俺の仲間になると言ったときに、自分の身は自分で守ると言ったよな」


 俺の言葉にほーりゅうは、大きな眼をさらに大きくして凝視してきた。


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