第3話 ほーりゅう
翌朝、注文していた制服が間に合わなかったために、わたしは先日まで通っていた高校のセーラー服へと着替えた。
スカートのすそと袖の部分に赤いラインが入り、スカーフも同色の制服は、きっと新しい高校では目立って視線を集めるだろうけれど、仕方がない。
転入初日となるため、最初に職員室へ行くようにと言われていたわたしは、早めに登校した。
方向音痴だけれど、どうにか職員室へたどりつくと、すぐに入口にいた教師によって、担任となる女性の英語教師の席へと案内される。
そして、椅子に腰をかけていた担任のそばには、ここの制服となる黒いブレザーがよく似合う、細身の女子生徒が立っていた。
「彼女は、あなたの入るクラスの副委員長の佐伯夢乃さん。本当は委員長に、朝一番にここへくるようにって呼んでいたんだけれどもねぇ」
担任の言葉を聞きながら、わたしは彼女へ視線を向ける。
そして、失礼なくらいにじっくりと見つめた。
肩口で切りそろえられた漆黒の髪に、切れ長の眼、黒い瞳。
日本人形を思わせる美人だ。
わたしのぶしつけな視線に怯む様子もなく、小首をかしげて微笑むと、彼女は丁寧にあいさつを口にした。
高校生には思えない大人びた落ち着きまである。
名前を口にしたわたしへ向かって、彼女は、よく響くきれいな低音の声で告げた。
「まだ時間が早いし、教室へカバンを置いてから、学校内を案内するわね」
うなずいたわたしを確認した彼女は、にっこりと笑顔を返してきて歩きだす。
「1年の教室は4階なのよ。階段をたくさんあがることになっちゃうわね」
横に並んで歩く彼女は、そう言って苦笑した。
なので、わたしは、最初が肝心とばかりに元気よく口を開く。
「大丈夫よ。スポーツはあんまり得意じゃないけれど、わたしってば、都合のいいところは元気なの」
「あはは」
意外にも大きな声をたてて笑った彼女へ、わたしは好感を持つ。
そして、なれなれしくも上目づかいで言葉を続けた。
「ねえ、あんたのこと、夢乃って呼んでいい? わたしのことは、ほーりゅうって呼んでよ」
4階の長い廊下の途中で、夢乃は立ち止まった。
その正面となる教室のドアを開きながら、意外そうに彼女はつぶやく。
「――あら? 委員長ったら、教室にはきているみたいね。だったらなんで、職員室にこなかったのかしら……」
そのまま、つかつかと教室内へ入っていった彼女のあとを、わたしも少し遅れてついていく。
そんなわたしたちの気配に、窓際でひとり、背をこちらに向けていた男子生徒は、気づいたようだ。
彼は、ゆっくりと振り向いた。
「委員長。あなた、今日の朝一番に職員室へいくようにと、先生に言われていたでしょう?」
正面に立って指を突きつけながらそう口にした夢乃へ、彼は視線を向ける。
その彼の顔を見たわたしは、驚きのあまり、そのまま凝視してしまった。
なぜなら、その彼は昨夜、マンションの裏道にいた男の子だったからだ。