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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第七章】巫女編 『ヴェナスカディアの巫女』
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第274話 ほーりゅう

 出会ったころから一目惚れで、ずっと想いつづけていた我龍から、夢のような告白。

 その嬉しさだけでもう頭が真っ白になったわたしは、迷う気持ちなんてなくなった。


 口を開いて答えるかわりに、わたしは手を首の後ろへ回し、自分のロザリオの鎖の留め金を外そうとした。

 震えている手が、なかなか言うことをきかない。

 無意識に心の中で、いつも身を護ってくれているカディアの石に謝りながら、時間をかけてようやく外す。


 わたしのロザリオには、ジプシーがくれた防御の指輪がいまも通されている。

 わたしは、立ち上がってテーブルへ近づき、指輪ごとロザリオを、我龍と同じようにテーブルの上へ置いた。


 すぐ横に立つ我龍の体温を感じた。

 けれど、その我龍の視線がわたしやロザリオではなく、指輪を見ているのがわかる。

 そんな我龍の顔を見ることができないわたしは、うつむいたまま立ち尽くした。


「紫織、眼を閉じて」


 傍らから、ささやくような我龍の言葉が聞こえて、わたしは慌てて眼をつむる。

 この状況で眼を閉じることの意味は、いかに鈍感なわたしでも痛いほどわかっていた。

 じらされるように、どきどきとしながら待つ時間は長い。

 そして、ようやく我龍の唇が触れたとたん、待ちかねていたわたしの鼓動は大きくなった。


 ゆっくりと時間をかけて唇を触れあわせるだけ。

 その温かくてやわらかく震えている感触に、わたしは不思議な感覚に陥った。


 わたしの初めてのキスは、ジプシーに無理やりされた感じだ。

 なにも知らない初心者のわたしに、強引に奪うように舌を絡めてきた。

 ハイ・プリーエスティスのお城のときもそうだ。

 だから、同じようなキスだと構えていたわたしは、まったく違う我龍の穏やかなくちづけに戸惑った。




 静かに離れた我龍の気配に、わたしはまぶたを開く。

 そして、驚いた表情の我龍と目が合った。

 最初は、その驚きの表情の意味がどういうことなのかがわからなかったけれど。

 我龍の表情を見つめているあいだに気がついたわたしは、一気に血の気がひいた。


 無意識とはいえ、我龍のくちづけをジプシーのキスと比べてしまったことを、接触テレパシストの我龍に読まれたんだ!


 どう考えても、ほかの男性と比べるなんてダメに決まっている。

 わたしは、我龍に失礼なことをしてしまった!


 気が動転したわたしは、とっさに我龍から離れるように、後ろへさがろうとしたけれど。

 そんなわたしの手首を、我龍はつかんだ。

 そして、次の瞬間には抱きしめられていた。

 恥ずかしさと我龍への申しわけのなさで、わたしは逃げだしたくても動けない。

 息ができないくらいに強く抱きしめたまま、我龍は、わたしの耳もとでささやいた。


「いくらでも、奴と比べてくれてかまわない。俺が奴に勝てる男になってやるだけだ」


 その言葉を聞いて、わたしは全身の力が抜けた。




「以前、俺の目の前で紫織にさわる奴を見ていて――きみに自由に触れることのできる奴が、どれほど羨ましかったか、わかる?」


 その言葉に驚いたわたしの表情を見るように、我龍は、抱きしめていた腕の力を抜いた。

 じっと間近で見つめ合う。

 そして、我龍の瞳の奥に欲望の光を見つけたわたしは、ふたたびまぶたを閉じた。


 こんどは、震えている先ほどとは違った情熱的なくちづけに、わたしは、これまで経験したことがない高ぶりを覚える。

 長いくちづけの途中で、我龍は片方の手で、わたしの髪を梳くように指を差しいれた。

 触れられる、その心地よさと、とけるようなくちづけだけで、わたしはもうなにも考えられなくなる。


「紫織は髪をさわられるのが気持ちいいんだ? ――紫織の感じる快感は、すべてそのまま俺にも伝わるんだよ」


 急に、唇が触れたままでささやいた我龍の言葉に、恥ずかしさのあまり、ますます頬が熱くなる。

 言葉にしなくても、わたしの考えは能力者の我龍に伝わる。

 そして初めて、我龍の感情がわたしの中へ流れこんできた。

 手のひらから伝わってくる彼の想いと偽りのない愛情に、もはや恥ずかしいという想いは小さくなる。

 我龍のすべてを受け入れて、彼のものになりたいと願った。


「俺も、もう感情の抑制がきかない。どれだけ紫織のことをいままで想っていたのか、愛しているのか、きっと全部伝わっちゃうな」


 照れたようにそう告げた我龍は、片方の腕でわたしの脚をすくうと、その両腕に軽々と抱きあげた。

 わたしは抵抗なく、居間から自分の部屋へと運ばれる。


 ベッドの上におろされ、何度も唇を合わせた。

 そのうちに服の下へ滑りこませ、直接肌に触れる我龍のてのひらが熱かった。

 触れられたところから、わたしの肌も火照っていく。


「――紫織の声が聞きたい」


 熱い吐息とともに耳もとでささやかれるだけで、身体の芯から全身へ、羞恥と喜びが広がった。


 まさか自分がと信じられなかった。

 けれど、打ち寄せる心地よい波に思わず声をあげ、ただしがみつくしかできないわたしは、彼の背の龍に爪跡を残してしまった。



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