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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第七章】巫女編 『ヴェナスカディアの巫女』
251/286

第251話 ほーりゅう

「行くか行かないかは、最終的には、おまえが決めることだけれどね」


 そう前置きをしてから、京一郎は言葉を続けた。


「俺も夢乃も友だちとして、おまえとは離れたくないと思っている。けれど、だから行くなとは言えない。おまえの人生であって、俺や夢乃の人生じゃないからね。俺なら、行かないと決めたら、冷たいと言われようときれいさっぱり忘れられるタイプだがな。おまえの性格からして、一族の現状と衰退を辿るかもしれない未来を知ってしまっているから、行かないと断ったあとは、ずっと心に引っかかったままになる気がするね」


 京一郎の言葉に、わたしは心の中でうなずいた。


 たぶん京一郎もわたしも、そんな感じ。

 間違ってない。


「また、行ったら行ったで、当然おまえ自身はさびしいだろうし、直接会ったハイ・プリーストの雰囲気からして、たぶんあちらの生活は厳しいと思う。生活様式もそうだが、能力者としての勉強はもちろん、言語学習は大変だろうなぁ。ああ、忙しすぎて、さびしいと思う暇がないかもな」


 それは、ちょっとイヤかも。


 眉根を寄せたわたしの顔を見て、京一郎は苦笑いを浮かべてみせてから、話を続けた。


「おまえがどちらを選んでも、俺も夢乃も友だちのままだし、選んだからには、俺たちはできる限り手助けをする。期限は明後日の朝までで、それまであちらさんは、ゆっくり考えられるように一切おまえの前へ姿を見せないって約束だ。おまえに聞かれたことは、知っていることであれば、俺は公平に助言もする。いままでの話を聞いたうえで、一族に対する責任感にしろ、同情にしろ、やっぱり離れたくないにしろ、よく考えて後悔しないように決めるのは、おまえ自身だ」


 京一郎も夢乃も、わたしの気持ちを第一に優先してくれているのは嬉しい。

 でも、いまの段階では、どう考えても行く気にはならないよね。

 あっちの一族の事情がわかっていても。

 ――きっと京一郎の言う通り、気にしながら断る方向になると思うんだけれど。


「あと、おまえの家族では、叔母さんだけが今回の事情を知っているんだ。まだ両親には伝えていない。ってか、言えないって。叔母さんの意見も、おまえの考えに任せるってさ。話のわかる砕けた叔母さんだと、前々から思ってはいたけれど。そう言い切れるのはすごいな」


 ――普通、引き止める場面だと思うんだけれどなぁ。

 ちょっと普通の人と感覚のずれた叔母だからなぁ。


 ジプシーには、会って直接意見を聞いてみるってことで。

 あとは。


「――ねえ。そのさ。――その、わたしをここまで運んでくれた人と、京一郎は話をしたんでしょ? わたしのことについて、なにか意見を言っていたかなぁ? ――行くなとかさ」


 とっても期待して、おそるおそる上目づかいで、京一郎の表情をうかがってみた。

 とたんに、先ほどジプシーの件を話してくれたときと同じように、京一郎は表情を曇らせる。


 なんだろう。

 嫌な予感。


 それでも、京一郎は答えてくれた。


「たしかに伝言を預かっている。でも、言葉尻が違って意味が変わるのはマズいから、一語一句間違えないように伝えるぞ」

「それじゃ、彼の笑顔と声マネ付きで」

「馬鹿かおまえ」


 呆れた目つきをした京一郎に、あっさり切り捨てられた。


 そして、怖さがありつつも、やっぱりちょっとわくわくしながら言葉を待つわたしに対して、京一郎は仕方がなさそうに、やや硬い表情で口重く、我龍からの伝言を言葉にした。


「紫織の未来だから自分で決めろ。紫織がどこへ行こうと、俺には全く関係のないことだから」


 呆然と聞いていたわたしに、一文字も間違っていないよと、京一郎は念押しをした。

 そして、血の気がひいたわたしのそばから立ち上がる。


「夢乃が、おまえが起きたら飲めるようにと、スープを作っていたんだ。用意してくるからな」


 そのまま京一郎は、部屋から出ていく。

 きっと、わたしにひとりで考える時間をくれたに違いない。




 わたしが、どうしようと、どこへ行こうと、我龍には関係がないことなんだ。

 そうか。

 わたしは我龍にとって影響のない、好きでも嫌いでもない、そんな存在なんだ。


 言われてみれば、何度か思い当たることがあった。

 我龍は、わたしの気持ちを知っているはずなのに、いつも冗談のようにしか相手をしてくれなかった。

 わたしのことを、口では良いように言っていたけれど、絶対必要以上に踏みこんでこなかった。

 単なる知り合いとしか見ていなくて、それ以上関わるのを避けていたのかな。


 我龍にとって、わたしはきっと、ただの能力者つながりってだけなんだ。

 恋愛対象の女の子としては、見てもらえていなかったんだ。

 我龍にとっては、わたしが違う世界へ行ってしまっても、自分の人生には関係がないから問題がないんだ。


 たとえ友だちとしてでも、ここにいて欲しいというようなニュアンスの言葉をもらえなかったわたしは、ショックで布団の中へもぐりこんだ。



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