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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第七章】巫女編 『ヴェナスカディアの巫女』
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第250話 ほーりゅう

 長いおとぎ話の夢を見ていた気分で、わたしは目が覚めた。


 カーテンから明るい光が射しこんでいる。

 自分の部屋の天井をぼんやりと眺めながら、徐々に、なにが起こっていたのかと思いだす。

 そうだ。

 わたし、教会で我龍の姿を見たとたんに倒れたんだ。


「お、ほーりゅう、目が覚めたか」


 わたしの起きた気配が伝わったらしい。

 ベッドのそばに勉強机の付属の椅子を引っ張ってきて、部屋に置いてあった少女漫画の雑誌を読んでいた京一郎が、声をかけてきた。

 でも、わたしは熱があったためか、口の中が渇いて、最初の声がでない。

 それがわかったように、雑誌を本棚に戻した京一郎が、机の上に置いていたポットからコップへ水を注ぎながら言った。


「声がでないんだ? 俺には好都合だね。おしゃべりなおまえが、ぽろっと余計なことを言う前に、俺は伝えるべきことと、口止めするべき内容をまとめて言うからよく聞け」


 聞き方によってはひどい京一郎の言葉に、わたしは唇を尖らせながらもまばたきで応える。


「いまは俺がついているが、さっきまで夢乃がおまえを看ていたんだ。一度着替えや必要な物を取りに家へ戻っている。おまえが眠っていたのは、昨日の昼ごろから、いまは朝の八時。学校のほうは、今日は三年の卒業式で、俺らの学年は休みだからな」


 そして京一郎は、身体を起こしたわたしにコップを手渡してくれる。

 わたしが水を飲むのを眺めながら、京一郎は話を続けた。


「まず、おまえの病状は叔母さんの見立てで、いろんな考えることが一度に起こったための知恵熱だ。雨による肺炎も併発していないし、いまは熱も下がっている。おまえさえ無理しなければ、起きても構わないそうだ」


 京一郎の言葉に、わたしは小さくうなずいた。


「それと、これは重要なことだが、――おまえを、この家まで連れて帰ってくれたのは、過去に何度も助けてくれた人物だ。そいつは、おまえを置いたあと、用事があるためにしばらくこの地を離れると言っていて、すでに出かけてしまっている。数日間は連絡が取れない。おまえは、その人物の名前を絶対口にするなよ」


 連れて帰ってくれたのは、やっぱり我龍なんだ。

 でも、しばらく会えないなんて、お礼も言えないのか……。


「今回おまえを狙ってきた連中とは話がついて、いまは姿を現さないが、俺たちの会話は聞いている。――手の内を全部他人に見せる必要はないし、実際相手側と話をした上で、俺もその人物の存在を知られないほうがいいと感じた。わかった?」


 最初に京一郎から念押しされたことは、我龍の名前を出すなということ?

 理由ははっきりとわからないけれど、これだけきつく口止めされたので、わたしはうなずきながら水を飲んだ。

 我龍の名前、うっかり喋らないようにしないと。


 喉を潤したことで声がだせるようになったわたしに、眠っていたあいだになにが起こったのか、京一郎は簡潔に説明してくれた。




 京一郎からの話を聞いても、まだ、全然実感がわかないわたしは、驚いたりパニックにはならなかった。

 まったく他人事のような気がしてならないせいもある。

 そしていまは、昨日まで色濃く周囲を漂っていた奇妙な空気が感じられなかったので、そのほうが気になった。


「おまえが寝ているあいだに起こった出来事を、だいたい説明したけれど。――その、おまえがすんなり理解できるように、寝ているあいだに睡眠学習的に、おまえの頭の中へ知識を入れておくって話を聞いていたんだが。入っているのかな?」


 わたしが理解したのかどうかを疑わしげに、京一郎が聞いてくる。

 その言葉でわたしは、先ほどまで見ていた夢が、京一郎のいう睡眠学習的に入れられた知識だと気がついた。

 我龍のおかげで知識が入っても、やっぱり実際に、そのハイ・プリーストが自分の恋人だったという実感がわかない。


「うん。パステル調の色で、紙芝居みたいで、可愛らしい絵だったよ」

「なに、あいつ、マジでそんなおとぎ話風にしていたのかよ」


 京一郎は、うへぇって顔をした。


「あいつの趣味って、イマイチわかんねぇかも」


 大変なことが起こっているんだと、なんとなくわかっているけれど。

 思ったより重苦しくない雰囲気だったから、わたしは京一郎に、いままで言わなかったことを口にした。

 いつも一緒にいるジプシーには、言いにくかったことだ。


「本当は、前に夢から戻ってきたときから、変な空気が続いている感じがしていたのよ。けれども、実害がないかなとか、誰も気がついていないかなとか考えちゃって、言いだせなかったんだ」

「おまえ。そういう大事なことは、すぐに言うもんだって。そうしたら、俺やジプシーの心構えが違っていて、すぐに対処できたかもしれねぇだろう? 昨日でも、俺が学校をサボらずに、おまえに付いていることもできたし。そうすれば、おまえが雨の中でぶっ倒れることがなかったと思うぞ」

「――反省します。ごめんね」


 ここは素直に謝るべきだと思った。

 そして、そこでわたしは気がついた。


「あれ? ジプシーは?」


 すでに、今回の件について、なにか行動を起こしているのだろうか。

 こんなときは、いつもなら当たり前のようにそばにいるのに。

 前も同じように倒れて、夏樹さんのマンションで目が覚めたときも、一番そばにいたのに。


 不思議そうな表情を浮かべているであろうわたしに、そのときはじめて、いままで軽い調子で接してきた京一郎の表情が曇った。


「ジプシーは――奴の意思で、今回の件には関わらない。理由は、奴の個人的な事情だから、俺からは言えない」


 歯切れの悪い京一郎の言葉の意味が、わたしには理解できなかった。


「なんで? どういうこと? ジプシーに会えないわけじゃないんでしょ?」

「会えんこともないが、奴は、今回のおまえの件にはノータッチってことで関わってこないから。奴にも、いろいろと考えなければならないことがあるんだよ」


 やっぱり京一郎の言葉の意味がわからない。

 だったら、あとでジプシーに直接会って、どういう意味か聞けばいいよね。


 深く考えず、そう納得したわたしは、京一郎に言った。


「とりあえず、事情はわかったよ。――わかったと思う。で、京一郎としては、わたしってどうしたらいいと思う? 行ったほうがいい? やっぱり行かないほうがいい? 普通は行くわけがないよね?」

「おまえ、直球だなぁ、相変わらず」


 苦笑するように京一郎は言う。

 そして、言葉を続けた。


「そう聞いてくるだろうと思って、おまえが寝ているあいだに、俺と夢乃は意見をだして、先に話し合ったんだ」



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