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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第一章】出会い編
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第24話 ジプシー

 他界した母親が、まだ小学校へあがる前の俺に告げた話だ。


『この中心には、緑色をした本物の石が入るのよ。ヴェナスカの地にだけ存在するカディアという名前の不思議な力を持つ石なの。石それぞれに四つの属性があって――この地でいうところの五芒星・聖杯・杖・剣。でも、その本物の石は一族にしか伝わらない。だから、このロザリオを作ったときにレプリカだとわかるように、填める石を青色にしたの』


 たしか、そんな感じの内容だったはずだ。

 当時六歳だった俺は、理解できない言葉が多くて聞き流していた。

 いまでは、話の内容自体は理解できている。


 改めて俺は、手の上に乗っている彼女のロザリオへ視線を落とした。

 そこにあるのは、間違いなく緑色の石だ。


 ――ああ、そうか。

 これが母の言っていた、不思議な力を持つ本物の石なのだ。




 だが、急にいま、彼女へ自分が知っているすべてを告げるには、俺の気持ちの整理ができていなかった。

 なぜなら、それを語るにははずせない、俺がこの世でもっとも憎むべき相手のことも、彼女に話さなければならなくなるからだ。


 だから、まだ口にする覚悟ができていない俺には、この場で、彼女の希望に応えることができなかった。


「――悪い。なにも思いだせない」


 そうつぶやきながら、俺は彼女へロザリオを返す。

 俺の言葉に、彼女は明らかに落胆したような表情を浮かべた。


 だが、このロザリオの秘密に関する糸口は、おそらく俺からしか見いだせないだろう。俺のもっとも憎むべき――奴との接触さえなければの話だが。


 最初に、知っていることをすべて教えると言いきったのに。

 想像していたよりも複雑で根が深い彼女の話に、俺は、知っていることを隠してしまった。

 その後ろめたさに襲われる。


 そのため、俺が気持ちの整理をつけるまで、それがいつ、どのくらいの時間を要するのかわからないが、彼女が俺からの告白を待てるのであればと考えて、言葉を続けていた。


「――だが、そのうちロザリオについて、なにか思いだすかもしれない。それまで待っていてくれるなら、まあ、どうせ同じクラスだし……。俺の周りを邪魔にならない程度になら、うろついてもかまわないが……」

「本当? ありがと!」


 そのとたんに、たちまち顔をほころばせたほーりゅうは、とても嬉しそうに俺へ笑いかけてきた。


「あんたが思いだせるように、わたし、なんでも手伝うからね!」


 すぐに元気を取り戻して、いまにも暴走しそうな彼女の様子に一抹の不安を感じたのは、俺の気のせいだろうか。




 だが、それは一瞬のことで、またしても彼女がおとなしくなった。

 その緊張感が漂う面持ちから、なにか告げる言葉があるのだろうと想像する。


 俺は、彼女のほうから口を開くまでと考えて、なにげなく夜空を見上げた。

 昼間の晴れた空と同様に、いまもくっきりと星が見えている。

 あれは――みずがめ座か。

 そばには、うお座。 

 アンドロメダやカシオペアも光を放っている。

 星座の知識はすべて頭のなかへ詰めこんでいるが、こうやって実物をゆっくりと眺めるのは久し振りだ。


 そんなことを考えながら黙って見あげている俺のそばで、ほーりゅうも、しばらくブランコを揺らしていた。

 そして、ついに思いきったように顔をあげると、彼女は話を切りだした。


「――今日、あんたは、わたしの不思議な力を見たでしょ?」

「いや。その件に関しては明日、学校で聞くことにする」


 俺がすぐに話をさえぎったので、出鼻をくじかれた彼女は、たちまち眉間にしわを寄せた訝しげな表情となる。

 不思議な力は、いまの俺は、聞くまでもなく石の力だと理解をしている。

 だが、これからのことも含めて、夢乃と京一郎も一緒に話を聞いたほうがいい。

 そう考えた俺は、彼女へ言葉を続けた。


「おまえの不意打ちを食らったっていう京一郎は、おまえのその力を食らったってことだろう? 明日、京一郎と一緒に聞くよ。おまえだって二度も同じ説明をしたくないだろう?」


 なるほどとつぶやいて、少しほっとした表情になった彼女は、小さくうなずく。

 それを合図に、俺は、もたれかかっていた柱から身体を起こした。


「家まで送るよ。どこ?」


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