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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第七章】巫女編 『ヴェナスカディアの巫女』
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第233話 足立生徒会長

 書記が、お客さまだと生徒会室へ招きいれた女子を見て、おもわず私は笑みを浮かべながら言葉が出た。


「おや、これは珍しい。我が高校まで千早御前が来られるとは」


 三条院さんじょういん千早。

 わが校と交流ある高校の二年、生徒会副会長さまだ。

 彼女は誰が最初に名付けたのか、千早御前という呼び名が気に入っていると聞く。

 習ってそう呼びかけると、満足そうに、彼女は微笑み返してきた。


 学生連盟の仕事で来たという彼女に、いい加減書類の山にうんざりしてきていた私は、担当の副会長を園芸部まで迎えに行こうと誘った。

 そのとき、副会長に先日のバレンタインデーで、年下の彼女ができたことをほのめかす。

 残念そうな表情を、ただ浮かべただけの彼女に、私は安堵した。

 今回は、獲物を狙う眼をしていない。




 彼女は、高校二年生でありながら、恋愛ハンターの異名を持つ。

 小顔に、力を感じさせる眼。形の良い鼻と唇がおさまり、肩を緩いウエーブのかかった艶やかな髪がおおう。

 適度な身長、武道で鍛えたバランスの良い肢体。

 身分の高い肩書きの父親を持つ御令嬢。


 容姿端麗、頭脳明晰。

 その上をいく自由奔放な性格で恋愛好き。

 困ったものだ。


 我が生徒会の有能な副会長を、彼女の餌食にはしたくないなと、前々から案じていた。

 そしていま、彼女ができたことを話したが、一瞬残念そうな表情を浮かべるも、特にこだわっている様子がなかった。

 彼女の標的から外されただけのようだ。

 安心した私は、当たり障りのない会話で、穏やかに彼女をエスコートしていたつもりだった。

 だが、偶然にも職員室前で、一年の江沼と出会ってしまった。


 江沼は、入学式の日に初めて見たとき、彼の中に潜むトラブルメーカー的な何かがうかがえた。

 私の直感だ。


 実際に彼は、いくつか事件を起こしてくれたが、いまは、彼の事情や崖っぷちの精神が呑み込めてきたせいか、フォローを入れつつ絡んで反応を見ることが楽しく思えるようになった。

 そして、今日もうっかり、いつもの調子で彼に声をかけてしまったのだ。

 まさか、千早御前が、彼に興味を持ってしまうとは。




「江沼、貴様の彼女はいつ見ても、ワンテンポずれた発想と行動をしているな。付き合っていて疲れないか?」


 千早御前に彼を諦めさせようと、私は江沼に話しかけた。

 もちろん彼は、いまさら急に何を聞くんだと言いたげな顔で見返してくる。

 そして、勘のいい彼は、私の言葉に含まれる意図に気がついたようだ。

 江沼は確認するように、ちらりと千早御前の表情を読む。


 きっと普段の彼なら、決して口にしない言葉だろう。

 だが、自分の答える内容によっては波乱の気配を感じたらしく、やむを得ず回避できそうな答えを、江沼は一呼吸おいて、無表情で返してきた。


「好きになった相手が手のかかる子なら、世話をするのも、また楽しいものですよ」

「貴様も言うなぁ」


 仕方がなさそうにしながらも、私の願った言葉で江沼が返してきてくれたおかげで、予定通り笑い飛ばした私だが、少しわざとらしかっただろうか。

 これで、千早御前が、二人のあいだに入る隙間がないと感じてくれればよいのだが。


 そして、この話題から逃れるために、すぐに私は違う話を江沼に振った。


「ところで江沼、ものは相談だが。実は、次期生徒会長を」

「お断りします」


 最後まで私の言葉を聞かず、江沼は即答してきた。


「貴様! 他人の話を最後まで聞かんか!」

「先輩の話は、俺にとって良い話だったことがありませんので」


 相変わらずの冷ややかな視線と物言いで返してくる。

 だが、こういう奴だと慣れてしまえば可愛いものだ。


「四月から二年だろう? 一年を通す仕事の都合上、めぼしい次の生徒会メンバーを決定しておきたいのだ。私は貴様を推したいと考えているのだが」

「先輩。俺は人前に出ることが嫌いなんですよ。それに、夏休み行事である旧生徒会バーサス新生徒会が狙いでしょう? 先輩の企みがみえています」


 学校側黙認、我が校の夏休み恒例行事。

 一学期最後に選出される新生徒会率いる二年と、旧生徒会率いる三年との、泊まりがけで校内を使った、お祭り行事であるバトル大会がある。


 江沼の上に立つ能力を買っているのもあるが、ぜひともこの行事で、江沼を先方のトップに引っ張り出したかった。

 なぜなら、楽しめそうではないか。


「先輩、強引に話を進めたら、校舎を破壊しますよ」

「いや、それは困る」


 この男は、本気でやりそうだから曖昧に返せない。

 私が言葉を続ける前に、軽く頭を下げて、さっさと江沼はその場から立ち去った。


 その気になれば、信頼できる仲間を集めて、良い指導者になれそうな男なのだが。

 本人にその気がないと、こればかりはどうしようもない。

 そばで、今の会話を黙って聞いていた千早御前へ向き、苦笑を浮かべて私は言った。


「フラれてしまったな。――奴は、自ら望んで排他的な奴だったが、あれでも年明け頃から、その印象が薄れてきたんだ。いま、奴と付き合っている彼女のおかげだな」


 彼女の存在を強調した私の言葉を、どう受け取ったか。

 千早御前は、しばらく考えるそぶりを見せてから、にっこりと優雅に微笑んで言った。


「時間をとられたわね。足立会長も仕事に戻らないといけないというのに。急いで副会長のところへ、行きましょうか」



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