表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第一章】出会い編
23/286

第23話 ジプシー

 だが、俺は成り行き上、ほーりゅうを家まで送り届けることにした。

 道中こちらから訊きたいこともあるし、おそらく彼女のほうも、俺になにか用があるに違いない。

 じゃないと、ここまで執拗に追ってはこないだろう。


 足早に歩く俺のあとをついてきながら、ほーりゅうが先に口火を切ってきた。


「ねえ。あんた、高校生じゃなくて、本当は警察官なの?」

「いや」


 否定のひとことだけでは当然納得できないだろうと思い、俺は少し考えて言葉を続けた。


「俺はただの高校生だ。だが、警察の手助けをするだけの力がある。あとは――もうクラスの誰かから、俺のことについて話を聞いているんだろ? 俺は夢乃の親父さんにも世話になっているし……」


 そこで、俺は口をつぐんだ。

 俺は叔父に連れられて、はじめて夢乃の父親と会ったとき、自分から「生きる理由が欲しいため」に力を利用してくれと願いでた。

 そう言わせたその当時の感情を、いまは彼女に伝える必要もないと考える。


 この説明でどこまで納得したのかわからない。

 だが、ほーりゅうは大きくうなずきながら、深い意味を考える様子もみせずに口を開いた。


「そうそう、クラスで聞いたよ。夢乃のお父さんって警察の人なんだってね。だから、あんたは拳銃を持っていて、他人の家で乱闘したり壁を破壊したりしても、警察が揉み消してくれるってわけなんだ?」

「あの壁を壊したのは俺じゃない。おまえだろ?」

「あ。――そうでございました」


 照れたように頭をかいて屈託なく笑った彼女を、俺は横目で流し見る。

 そして、言葉を続けた。


「俺は今回、招待された形であの家へ行ったんだ。誰かさんの不法侵入とは違うね。閉じこめられていた扉以外に壊した物はないし、もちろん人も殺していない。今回、警察に迷惑をかけるようなことはなにもしていない」


 そこまで口にしたとき、俺たちは、小さな公園の前を通りかかった。

 急に歩く方向を変えて、俺は公園のなかへと入っていく。

 ちょっと戸惑ったようだが、ほーりゅうも俺のあとをついてきた。


 そこは、ブランコと鉄棒しかないような公園だった。

 ベンチも見当たらなかったので、俺は指をさして促し、ひとつだけのブランコに彼女を座らせる。


「さて」


 俺は、ブランコの柱に寄りかかり、腕を組んで見おろしながら口を開いた。


「ここまで俺を追いかけてきた、おまえの執念には脱帽するよ。訊きたいことには答えられる限り教えてやる。いったい俺に、なんの用があるんだ?」




 すると、いままで押しの一手だった彼女が黙りこんだ。

 しばらく、ほーりゅうはどう切りだそうか考えているようだ。

 やがて、おもむろに自分のうなじへ両手を回すと、首の後ろに見えていたチェーンの留め金をはずした。

 そのまま無言で、俺のほうへ、握った手を突きだしてくる。

 促されるままに手のひらにそれを受け取った俺は、その瞬間、思わず目を見開いていた。


「――俺と同じロザリオ?」


 俺は、服の内側へ落としていた自分のロザリオを引っ張りだすと、両方を近づけて見比べてみた。

 暗闇のなかで目を凝らす。


「大きさも重さも形も――材質も、ほぼ同じだな。違うのは、中央の石の色だけか」


 俺のロザリオのなかに填まっている石は青色だが、彼女のほうの石は緑色だ。

 じっと見つめる俺へ向かって、ほーりゅうは口を開いた。


「じつはさ、あんたが同じロザリオをしているところを、昨日の夜、偶然見かけたのよ。それに、わたしが両親についていかずに日本へ残ったのは、そのロザリオの出どころを知りたかったからなの。あんたのそれ、どこで手に入れたの?」


 ロザリオに気を取られていた俺は、うっかり無防備に答えていた。


「――俺のロザリオは、母親から形見で受けとったものだ」

「お母さんから? くれるときに、お母さんはなにか言っていなかった?」


 勢いこんで、ほーりゅうは俺に訊いてきたが。


「――普通、形見って亡くなったあとに、もらわないか?」

「あ。そっか! ごめん……」


 俺の言葉に、たちまち神妙な面持ちになった彼女は、うつむいて黙りこんだ。


 ほーりゅうは謝罪の言葉を口にはしたが、俺はまだ、彼女のことをそれほど知っているわけではない。

 悪いことを訊いてしまったと思ったのか、手がかりが途絶えたと落胆したのか。

 彼女の落ちこみようは、そのどちらの理由であるのか、いまの俺には判断できなかった。


 静かになったほーりゅうを横目に、俺は、幼きころに母親から聞かされた話を、うろ覚えに思いだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a0139966_20170177.jpg
a0139966_20170177.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ