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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第一章】出会い編
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第22話 ジプシー

 ほーりゅうの胸もとに集まった力は――しかし、俺に向かってこなかった。

 なぜか俺を避け、周囲の地面や横の壁へと向かって複数放たれた光の玉を、張られた防御結界越しに呆然と眺める。

 豪快な爆発音が周囲へと響き渡り、爆風が渦を巻くように吹き荒れた。


 間違いなく彼女は、こちらを凝視し、俺を狙っていたはずだ。

 だが、防御結界に彼女の攻撃を受けた衝撃は感じられなかった。


 この女に、顔を向けている方角ではないところを狙う器用さは、持ち合わせていないように感じられるのだが。

 かなりの能力者で、器用にわざと俺を避けたか。

 あるいは――俺を狙ったうえでのノーコンか。

 いまの一撃だけでは、俺には判断がつかなかった。


 半ば唖然としながらも印契をほどくと、簡単な結界は、たちまち消滅する。

 砂塵の舞う場にやがて静寂が戻ってきた。

 だが、いまの爆発音で間違いなく、術が解けた連中はここへ集まってくるだろう。

 さすがに普段は無関心を装っている周囲の民家からも、警察へ通報がいくかもしれない。


 そして、当のほーりゅうは、と見れば。

 なんと、さっさと破壊された壁の瓦礫を踏みしめながら、俺を振り返って手招きをしていた。


「ほら、これくらい壁が壊れたら脱出できるでしょ? こっちから抜けていったほうが絶対早いって。さあ、逃げるわよ」


 あまりの手荒さに言葉がでない俺へ向かって、ほーりゅうは勝ち誇ったように満面の笑みを向けた。


「なによぉ。あんたが役に立てって言ったからじゃない? もっとも、都合よく思った場所へ飛ぶとは自分でも思っていなかったから、結局、辺り一面をまるまる破壊しちゃったんだけれどさ」


 頭をかきながら、ほーりゅうは言い訳のように続ける。


 まあ、たしかに。

 逃げだすとなれば早いに越したことはない。

 せっかくあけられた脱出穴を無駄にするのも、もったいない……か。


 そう考えなおした俺は、お言葉に甘えることにした。

 ほーりゅうのあとから足立真美とともに、無言で壁の残骸を踏み越える。

 そして、道路へでたあと、ふと気がついた俺は確認するように、そのまま意気揚々と歩きだそうとしたほーりゅうへ向かって声をかけた。


「おい、転入生! この辺りの地理はわかっているのか?」


 くるりと振り向いたほーりゅうは、当然のように口を開く。


「全っ然!」


 ――だと思った。

 こいつ、どこに向かう気だったのだろうか。


「俺が先にいく。おまえはあとからついてこい」


 俺は有無を言わせずほーりゅうに告げると、彼女たちがついてこられるだろう速さで走りだした。




 息を切らせて追いついたほーりゅうは、俺が自動切符売り場で人数分の電車の切符を買う姿を見て、驚いたように文句をつけた。


「ちょっと? なんで逃走に車とか使わないのよ! 用意が悪いんじゃない?」

「なにを言う贅沢者。高校生が車なんか使えるか。交通機関の熟知で、これほど便利な逃走手段はない」


 最初に警察だと名乗った手前、俺は足立真美に聞こえないように、ほーりゅうへ向かってささやく。


「そうかなぁ……?」


 納得していなさそうな顔のほーりゅうへ、さらに俺は言葉を続けた。


「連中もまさか、俺たちが電車で帰るとは思っていないだろう?」

「でもさぁ」


 まだなにか言いたげなほーりゅうと、こちらはおとなしく従順な足立真美を連れ、俺は改札を通る。

 連中にとっても予想外の脱出方法だっただろう。

 壁破壊にしても交通手段にしても。

 現在のところ、追っ手はかかっていない。

 しかも連中は、俺たちをふたり連れだと考えているはずだ。

 こうやって実際に人ごみへとまぎれこむと、探すべき人数の変わった中学生を見つけだすことは難しいだろう。


 ほーりゅうは、まだなにかぶつぶつと文句を口にしていたが、俺は聞こえないふりをして全部をスルーした。




 降りた駅の改札口を抜けると、数人の警官を後ろに待機させた顔見知りの刑事が、俺へ手を振っていた。


「お嬢さんのほうから、だいたいの到着時間の連絡があったので迎えにきましたぁ」


 少々頼りない印象があるが、普段から俺と警察を結ぶパイプ役となっている桜井さくらい刑事は、にこやかに俺たちを出迎える。


 あえて打ち合わせをしていなかったのだが、どこかで俺の様子を見ていたのだろう。相変わらず夢乃は手回しがいい。


 桜井刑事へ引き渡す直前に、ふと思いついた俺は足立真美へ向き合うと、小さな声でささやいた。


「警察側は当然了解済みですが、実際に助けにいった俺の存在は、たとえ家族でも他言しないと約束してもらえるでしょうか」


 生徒会長によけいな詮索をされたくはないという、それだけのことだったが。

 彼女は、ちょっと戸惑ったように首をかしげる。

 そして、納得したようにうなずくと、口もとへ小さな笑みを浮かべた。


「わかりました。今後のお仕事に支障がでたら、困りますものね。きっと極秘のお仕事でしょうから。――助けてくれてありがとうございます」


 そんな彼女を、覆面パトカーのほうへ促し連れていこうとした桜井刑事だが。

 ようやく、そのときになってはじめて、ほーりゅうの存在に気がついたようだ。


「えっと……。きみは?」


 訝しげな表情を浮かべた桜井刑事に問われたほーりゅうは、そのとたんに、威張るように胸を張った。

 俺が口をはさむ間もなく、きっぱりと返事をする。


「わたしは協力者よ。今回の成功の鍵はわたしなんだから!」


 俺は、彼女の後ろで大きなため息をついた。


 ――この方向音痴女。

 このまま、この場に置き去りにしてやろうか。


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