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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第一章】出会い編
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第21話 ジプシー

 夜空を仰ぎ、よろりと壁に寄りかかる俺。

 状況がわからず立ち尽くす足立真美。

 そんな俺たちを交互に見比べたほーりゅうは、てへっと頭をかいて、照れ笑いを浮かべた。


「――なんで」


 俺は額に片手をあてて、どうにか言葉をさがす。


「――なんで、おまえがここにいるんだ」

「あんたを尾行したからよ」

「――京一郎は」

「京一郎は、わたしの不意打ちを食らって沈みました。あ、でも、通りかかった用務員のおじさんに頼んできたから大丈夫よ」


 得意げに親指を立てグッとOKサインを送ってきた彼女を、俺は呆然と見つめる。


 ――あの京一郎が。

 こんな女の不意打ちを食らうだなんてことが、あるのだろうか?


 俺のなかに、ざわりとした、言い知れぬ不安と恐怖が走る。


 この女は、害がないなんてものじゃない。

 彼女の存在そのものが、それと気づかせないほど巨大な災厄なのではなかろうか。

 第一、なぜこの女は俺の術にかかっていないんだ?


「でも、あんたを見失ったあとは、この庭で迷ってたのよね」


 黙りこんでいた俺へ向かって、さらりと彼女は言葉を続ける。

 そのあまりにも無防備な行動に、常日頃から冷静沈着を心がけている俺だが、さすがに頭に血がのぼった。

 するっと俺の口から低く、怒りのオーラをまとった言葉がもれる。


「――状況を見極めろよ。馬鹿野郎」

「わたしに、あんたの状況なんか、わかるわけがないでしょ?」


 開き直っているのか、ほーりゅうは腰に手をあてて顎をあげた。


「――だったら、尾行なんて真似をするなよな」

「わたしに隠しごとをするからよ」

「――今日初対面の人間に、なんでもかんでも言えるかよ」

「その初対面に向かって、失礼なことは言うくせに?」

「なに? だいたいおまえは」

「ちょっと、それより逃げなくていいの? この状況からして、逃げるところなんでしょ?」


 ほーりゅうが目の前に人差し指を立てて振り、俺の言葉をさえぎる動作をした。

 腹が立つそのジェスチャーに、俺は舌打ちをしながらも、素早く考えをまとめる。

 まさか、ほーりゅうをここに置いていくわけにはいかない。

 無関係であるうえに、彼女は俺の素性を知っている。


「言われなくても逃げるさ。――ったく。足手まといの役立たずが増えやがって」


 最短の逃走路を頭のなかに描きながらつぶやくと、その悪態が聞こえたらしい。

 ほーりゅうは、ムッとした表情となって口を尖らせた。


「そりゃあ、ここの庭では迷ったけれど。わたし、いますぐあんたの役に立ってあげるわよ」


 俺は、目指す方向へと彼女たちを促しながら、ほーりゅうへ言い返す。


「できもしないことを言うな。黙ってさっさとついてこい」

「やん。少しのあいだくらい待ってくれてもいいじゃない? けち」


 ほーりゅうは、二の腕に触れた俺の手を振り切って、するりと逃れた。

 彼女の能天気さが、おさめようとしている俺の怒りの火を煽る。


「いい加減にしろ! 本当に状況がわかっているのか? この能天気女!」

「あんたこそ、本当に融通のきかない男ね! わたしがここで出口を作ってやろうって言ってんのに!」

「この分厚い壁でもぶち抜く気か? やれるもんならやってみろ!」


 彼女が指をさした壁へ同じように指をさしながら、俺は、自分でも呆れるほどの子どもじみたことを、売り言葉に買い言葉で、つい口にしてしまう。


 まったく。こいつといると、俺の調子と予定が狂ってくる。

 なんで俺は、こんな女と関わりあってしまったんだ?


 長時間ここに留まっていては、術が解かれて無効化してしまう恐れがある。

 その前に俺は、言うことをきかないほーりゅうの意識を失わせ、担いで走る覚悟を決めた。


 表情から、そんな俺の考えが読めたのだろうか。

 あるいは、俺にまったく殺気を消す気がなかったために、包む空気が変化したことに気づいたのかもしれない。


 ほーりゅうは一歩さがり、俺を睨みつけて身構えた。

 そんな彼女に合わせ、俺は当て身を食らわせようと、一歩、ゆらりと踏みだした。




 その瞬間。


 踏みだした足もとから、俺は異様な気配を感じた。

 場に、違和感を覚えたと言うべきか。


 一瞬、どこかで似た感覚を体験したという遠い記憶が、俺のなかでよみがえる。

 そして、それがいつのことだったのか思いだす前に、俺の本能と修練の賜物が身体を反応させた。


 俺は、後ろにさがりながら足立真美を背後にかばう。

 ほーりゅうと俺のあいだの目の高さの空間に、左手の人差し指と中指をそろえて五芒星ごぼうせいを描くと、素早く両手で印契を結んだ。


 普段は、ほとんど使わない簡易防御結界だ。

 急であるために、結界強度の確認ができないまま術を発動させる。


 同時に俺は、こちらを睨みつけるほーりゅうの胸の前で、常人は可視することができないであろう光が集まり輝くのをた。


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