表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第五章】日常恋愛編 『きみがいるから』
178/286

第178話 ほーりゅう

 朝。わたしが時間通りに目覚まし時計に起こされて、寝ぼけながら歯を磨いていると、なんとジプシーが家まで迎えにきた。


「ちょっと、朝っぱらからなによ? しかも早過ぎ」


 パジャマといっても、見られて赤面するようなものじゃないスウェットの上下なので、わたしは玄関にそのままでて、ジプシーに文句を言った。


「行き帰りは、しばらく一緒にいて様子をみる。おまえの危険に対する認識が甘いから」


 ジプシーはそう言って、家の中へあがってきた。

 そりゃ、昨日の今日だから、心配してくれるのはありがたいけれど。


「ほら。さっさと用意する。学校に遅れるぞ」


 キッチンに置いてあるテーブルの椅子に腰をおろして、ジプシーが言う。

 そして、わたしがバタバタと用意をしているのを横目で見ながら、部屋の中を見渡していた。


 昨日、送ってくれたときは長居をせずに、ジプシーはすぐに帰ったから、わたしの家の中をしっかり見るのは、そういえば初めてかもね。


「あんまり部屋の中を、眺めないでくれる?」


 自分の部屋で制服の上着を着る直前までの服装に着替えてきてから、キッチンへ戻る。

 遠慮なく眺めていたジプシーへ、わたしは朝食用の食パンを焼きながら、さすがに言ってみた。


「ぬいぐるみやら置いて、もっと女の子らしい部屋だと思った」


 ジプシーが感想を述べた。

 たしかに、リビングやキッチンは殺風景に見えるかも。


「ぬいぐるみとか、ごっちゃりしているのは、やっぱり自分の部屋だろうからなぁ」


 そう言いながら、わたしは学校へ行く支度をする。

 普段はだらだらとしている朝の用意が、ジプシーの視線を意識するせいか、さっさとすすんだ。


 朝食のパンにバターを塗ったあと、インスタントコーヒーの粉をふたつのカップに入れ、ポットのお湯を注いだ。

 ひとつをジプシーの前に置く。

 自分のカップには、さらに砂糖と牛乳を加えた。


 ジプシーの声が、不思議そうな響きを持って聞こえた。


「おまえ、いつもこの時間に起きているんだろ? もうほとんど家をでられる状態にまで見えるのに、なんでいつも遅刻ギリギリなんだ?」


 そう言われても。

 あんたがそうやって見ているからとも言いにくい。


 わたしはカフェオレと食パンの簡単な朝食が終わり、洗面所へ髪を梳きに向かった。

 すると、ジプシーがついてきて、思いだしたようにわたしへ言った。


「時間に余裕があるな。髪、編み込んでやろうか。おまえ、以前学校へ行く前に、朝に家まできてセットをしてくれって言っていたことがあるだろ?」


 そうだ。そんなことを前に言ったよなぁ。

 あれは去年の年末頃だったっけ。

 言った本人が忘れちゃっているよ。


「慣れてきているから、短時間でしあげてやる」


 そう言うと、ジプシーは有無を言わさず先ほどまでいたキッチンへわたしを追いやり、櫛やスプレーを持ってきて、テーブルの上に置いた。

 そして、わたしを椅子に座らせると、すぐに後ろへ回り、わたしの髪をすくいあげた。





 学校の教室へ入ると、昨日一日の出来事が、すべて夢だったかのように思えた。

 明子ちゃんやクラスの皆に朝の挨拶をして、最近日課になっている明子ちゃんとのやり取りをして。

 窓際の席だから、暖かい陽差しで眠くなりそうな授業を受けて。

 いま思い返すと、我龍の闘いや、そのあとのお茶会が、とても非現実的。


 そんな昼休み。お弁当を食べ終わったわたしは自分の机で、自動販売機で買ってきた紙コップの食後の一服のココアを飲んでいた。

 すると、明子ちゃんが声をかけてくる。


「不器用なほーりゅうに聞くのも、決まりきっていて面白くないけれど。もちろん市販のモノを用意するよね」

「不器用なとは失礼な。で、市販のモノって、なにが?」


 わたしの返事に、明子ちゃんは呆れたような声をだした。


「ほーりゅう。二月に入ったら、当然話題はバレンタインデーに決まっているでしょ! 付き合いはじめて日が浅いんだから、たとえ市販でも愛情をこめないと」

「明子ちゃん。だからわたしはジプシーと付き合っていないし。それにチョコはあげるよりも、自分で食べたいんだけれどなぁ」

「今日の朝もふたりで一緒に登校してきて、なにを言ってんの! 朝から綺麗に髪まで編み込みしてもらっちゃってさ」


 そうか。

 校内の女子が、そろそろ浮き足立ってきているのは、そんなイベントが近づいていたからなんだ。

 すっかり頭から抜けていたよ。


 市販のチョコを買うのは簡単だけれど。

 毎年わたしは、自分の食べる分と、お父さんにあげるチョコを買っていた。

 渡そうと思う相手が、いままでほかにいなかったからなぁ。


 今年の二月十四日は、お父さんは仕事で海外だし。

 ついて行っているお母さんがしっかりと渡すだろうから、わざわざわたしが日本から送らなくてもいいかな。


「夢乃は毎年、どうしているの?」


 わたしは、隣に座っていた夢乃に、話を振ってみた。


「いつも、家でチョコレートのケーキを焼いているのよ。でも、今年はどうしようかなぁ」


 夢乃は、そう言って、考えるふりをしているけれど。

 その顔は、しっかり計画を立てて情報を集め、なにか作る気満々の様子がみえた。

 夢乃、わかりやすいなぁ。


「ねえ、夢乃。作るんだったら、わたしもなにか簡単なものを一緒に作ってもいいかなぁ。不器用なわたしでも、作れるものがあるんだろうか?」


 夢乃の楽しそうな様子を見ていると、ちょっと作ってみようかなって気になった。

 自分でたくさん作ったら、好みのチョコがたくさん、自分でも食べられるってものじゃない?

 ナイスアイデアじゃん!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a0139966_20170177.jpg
a0139966_20170177.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ