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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第五章】日常恋愛編 『きみがいるから』
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第172話 ほーりゅう

 我龍がバイクを停めた場所は、かなりのスピードで二十分ほど走らせた、静かな住宅街の中だった。


 白い建物の門の前で、我龍はバイクから降りる。

 慌ててわたしもあとに続いて、滑り落ちるように後部座席から降りた。


 開いている門を、我龍はバイクを押して通る。

 ヘルメットをとったわたしは、門から建物の入り口まで十メートルほどの道を歩きながら、目の前の家や周りをきょろきょろと見渡した。


 充分な広さの庭をとって両側に隣接している家も、同じように大きいけれど。

 三階まである目の前の大きな家は、別荘のようなおしゃれな雰囲気を持っていた。

 白い壁で青い屋根。

 二階にバルコニーがある。

 あそこでお茶会をしたら、さぞかし気分がいいだろうなぁ。


 先ほどとは打って変わって、今度はおとぎの国の家にきたような気分になりつつ、わたしはバイクのあとについて手入れされた庭を歩いた。


 扉前のポーチには、かなり年配の男の人がひとりで立っていた。

 ピシッと黒スーツを着た、腰の伸びた白髪の男の人だ。

 ――この人は誰だろう?


 わたしが疑問に思ったとき、その男の人が我龍へ向かって声をかけた。


「お帰りなさいませ、我龍さま」


 ――我龍に、「様」がつくの?

 それじゃあ、この人は、この建物から考えると、執事にあたるのだろうか?

 って、ここ、我龍の家になるんだ?!


 そんなことを考えながら見つめていると、その執事らしき人はわたしのほうへ向いて、嬉しそうに続けた。


「いらっしゃいませ。これはこれは可愛らしいお嬢さまですね。ここへこられた女性の方は、あなたが初めてです」

「爺、喋りすぎだ」


 我龍の怒号が飛ぶ。

 でも、気にした様子もなく、この執事らしき「爺」と呼ばれた人は、よほど来客が嬉しいのか、わたしのそばに近寄ってきた。

 なので、わたしも挨拶がてら、訊いてみる。


「こんにちは。宝龍紫織です。えっと……?」

「私のことは、夏樹さまやツバサさまは、バトラーと呼んでおります」


 わたしの言いたいことがわかったらしく、笑みを浮かべてそう答えてくれた。


 見た目は普通の日本人のおじいさんなんだけれど、バトラーって名前なのかな?

 それとも愛称?

 我龍がいま「爺」って呼んだってことは、執事じゃなくて我龍のお祖父さんかなぁ?


「あ、島本さんや東条さんも、ここにはきているんですね。てっきりわたし、島本さんと我龍が住んでいるマンションに連れていかれるとばかり思っていたんだけれど。バトラーさんって、我龍のお祖父さんなんですか? ここは我龍の家なんですよね?」


 わたしの続けざまの質問に、バトラーさんは、やんわりと答えてくれる。


「私は初め、我龍さまのお母さまにお仕えしておりました。我龍さまがお生まれになってからは、ご幼少の頃から我龍さまにお仕えしております。ここは四年前から私が管理しており、我龍さまの家のひとつになります。ただ我龍さまは、月に一回ここへこられるかどうかになりますが」

「爺は、俺の武術の師匠でもある」


 バトラーさんの言葉のあとを、我龍が続けた。


 へぇ~。やっぱり、執事なんだ。

 このバトラーさんが我龍に、さっきの闘いで見た、あの剣術や体術を教えたってことになるのか。

 穏やかそうな老人に見えるけれど。

 あ、そうなるとバトラーって、バトルをする人って意味のあだ名かなぁ。


 そんなことを真剣に考えていると、バトラーさんが開けてくれた家の扉を通りながらわたしを見ていた我龍は、苦笑を浮かべて口にした。


「紫織。いまは俺、きみの思考を読まなくても、その表情でなにを考えているのか手に取るようにすごくわかる。たぶん勘違いしているだろうなぁ」


 ?

 わたしの考えのどこの辺りが、勘違いなんだろうか。





「本日は風もなく陽射しも暖かかったので、こちらでご用意いたしました」


 そう告げながらバトラーさんは、わたしが外から羨望のまなざしで見ていたバルコニーへ、案内してくれた。

 とたんにわたしの目は、セッティングされたテーブルへと釘付けになる。


 大きくて丸いテーブルに白いテーブルクロスがかかり、ふちに綺麗な模様のはいったお皿やポット、ティーカップやソーサーが、お揃いで並んでいる。

 これはきっと、夢乃から聞いたことがある英国式のアフタヌーンティーというものだ。

 テーブルの中央には、立体的にお皿が三段。

 色とりどりのケーキが上段に盛られ、スコーンや添えるジャムが中段、下段にはサンドウィッチが乗っている。


 ちょうど時間は三時のおやつタイム。

 自然の光の開放的な空間の中で、素敵なお茶会。

 席に着くと目の前に、わたしの片想い相手の我龍がいる。

 これってまさに、わたしにとって、至福の時ではないだろうか。


 バトラーさんが、カップに紅茶を注いでくれた。

 砂糖をいれるわたしの様子を眺めつつ、我龍が口を開く。


「いま紫織の知りたいことって、俺のことと、俺と奴との関係だよね。――話す順番としては、俺のことを先に教えたほうが、わかりやすいかな。俺の立場や状況をわかりやすく説明すると……」


 話がはじまったので、わたしは慌てて我龍へ顔を向ける。

 すると我龍は、食べながら聞いていていいよといってくれたので、お言葉に甘えて、最初に目をつけていたチョコレートケーキへ手を伸ばした。


「そうだな。なんていうか……わかりやすく理解できる言い方をすると。――俺の父は、ある財閥のトップなんだよ」


 ――財閥って、なに?

 それって、我龍のお父さんは、大きな会社の社長ってことなのかな。

 すると我龍は、お金持ちの御曹司になるんだ?


 わたしはへぇ~と思いながら、目の前の我龍を見る。


「俺には、年の離れた兄がいる。兄は……雰囲気は夏樹に似ているね。ただ、夏樹のようにしたたかさはなく、世渡り上手ではない。兄は不器用で朴訥な人だ。そんな兄は嫌いじゃないけれど、正直、時々頼りなさ過ぎて苛々する。腹立たしいと感じてしまうんだ」


 年の離れたお兄さんがいるのか。


 ふぅんと思いながら聞いていたわたしだけれど。


 ――あれ?

 この話っていままで忘れていたけれど、かなり前に、なんとなくジプシーから聞いたことがあるかも。

 あれはたしか……初めて我龍の名前を、ジプシーの口から聞いたときではなかっただろうか。


 そして、わたしがたったいま思いだした内容を、我龍は表情を変えずに淀みなく告げた。


「兄と俺とは、母親が違うんだ。兄は、父と本妻とのあいだの子どもだ。俺は、はっきりいえば、父と愛人とのあいだの子どもになる」



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