第15話 足立生徒会長
とんでもない場面を目の前へ突きつけられ、一瞬で全身が冷えた私は、ガードレールへと駆け寄った。
遠回りとなる坂を走って奴を追うには、捕まえられないところまで離されている。
「くそっ!」
ガードレールに右手の拳を叩きつけた私は、徐々に小さくなる背を見つめて唇を噛んだ。
逃げられた悔しさもあった。
だが、それ以上に、いまの出来事に度肝を抜かれていた。
改めて、転落防止のために設置されていたガードレールに手を置き、その向こう側となる急な斜面下の小道を見おろす。
優に、2階の窓から飛び降りるくらいの高さはあるだろう。
これは果たして、――躊躇なく後ろ向きで飛べる高さなのだろうか?
学校内における奴の噂では、定期考査は学年順位一桁に入る頭脳の持ち主ではあるが、体力のない軟弱な変わり者ではなかったか?
話に聞くような怪しげな術を使われる前に2、3発で叩き伏せ、知っていることを白状させられると甘くみていたが……。
とんだ計算違いだった。
妹の手がかりに逃げられ、私は、勢いこんでいただけに拍子抜けしてしまった。
そして、ガードレールにがっくりと寄りかかる。
真美。
身代金誘拐にしては、脅迫の電話がかかってこない。
となると、真美本人が目的となるのだろうか。
昨日の朝、真美は母親とともに家を出た。
「真美は可愛いのだから、変質者に気をつけていってこい」と、家の前で手を振ったのが最後だった。
母親が一緒だから大丈夫だという言葉を鵜呑みにせず、自分も付き添って校門まで、いや、校内へ――教室まで送っていけばよかったのだ。
母親と別れてから妹の中学校までの、ほんの数分の道のりで。
いったい誰が、妹を連れ去ったのだろう。
「きゃあ! 見失っちゃう!」
ふいに近くから、この場にそぐわない声があがり、私は我に返った。
声のほうへ顔を向けると、ガードレールをまたいで乗り越えようとする、ひとりの少女の姿が視界に入る。
この辺りでは見かけないセーラー服だが、どこの制服だったかと記憶を掘り起こすほど、私は頭が働かなかった。
ぼんやりと眺めている私の前で、彼女はようやくガードレールを乗り越える。
そのまま今度は、急な斜面を転がるように滑りおりていった。
「あ~! 角、角曲がっちゃった!」
どうにか無事に下までたどり着いた彼女は、緊張感のない声で待ってぇ~と叫びながら、ぱたぱたと走りだす。
その姿が見えなくなるころ、ようやく私は、彼女は奴のあとを追いかけていったのだと気がついた。






