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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第一章】出会い編
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第13話 京一郎

 ジプシーは、左手でリボルバーを抜くと、すばやくシリンダーのなかの弾丸チェックをする。

 最後に、グリップの底に彫られてある刻印を一瞥してから、銃をホルスターへと戻した。


 俺は、ジプシーの動きと、その裸の胸もとで光っているロザリオを、いつも湧きあがってくる不思議な想いを味わいながら見つめた。

 この一連の動作は、俺が声をかけることを許されない彼の儀式だ。


 その上から黒いTシャツをかぶると、ジプシーは濃紺のジーンズにはきかえる。

 そして、同色の、やや重そうなジーンズジャンバーを羽織った。

 その厚手の上着なら、通常と反対側に吊ってあるリボルバーは気づかれない。


 もともと童顔のせいか、ジプシーはラフな私服に着替えると、さらに見た目の幼さが強調される。

 充分、中学生に見えないこともない。


 しゃがみこんだジプシーは、運動靴の紐を締めなおし、暗示をかけるかのようにつかの間瞳を閉じる。

 それから、俺へ向かって唇の両端をあげてみせると、いかにも作ったような無邪気な笑みを浮かべた。


「いまから、連中に捕まっている俺の大切なガールフレンドを助けにいってくるよ」


 役に入ったその物言いに、俺は呆れつつも手を振ってやる。


「へえへえ、どうぞいってらっしゃい」


 俺のやる気のない見送りを背に、教室の出入り口へと向かったジプシーは、きたときと同じように音もなくドアを開けた。


 すると。

 向こう側からドアへ耳を寄せるように全身で張りついていたほーりゅうが、さっと飛び退いた。

 慌てたように笑顔となった彼女は、あいさつをするように右手をあげる。


「はぁい」




 彼女の気配は、まったくなかった。

 さすがに俺も、どうやらジプシーも予測をしていなかったようだ。

 珍しいジプシーの驚いた顔、夢乃にも見せてやりたい。


「えぇ、っと、なに? おまえ、委員会からここへくるまでに、あとをつけられていたの? ドジだよねぇ……」


 思わず俺は、ジプシーの背に向かってつぶやいたが。

 そんな俺のほうへ、ほーりゅうは指を突きつけて言い放った。


「わたしが、あとをつけたのは京一郎! そのあとは近くの教室に隠れていたの!」


 5時間目が終わったあと、俺がジプシーの自宅へ寄って高校へ戻ってきてから、昼寝も兼ねてここにきた。

 そのあいだ、だいたい3時間。

 つまり、この女も、そんな俺の近くで、ずっと息をひそめて待っていたのか?

 っていうか、いつから、どのあたりから俺をつけてきたんだ?


 茫然と見つめる俺の様子に、彼女は勝ち誇ったような顔をしながら両手を腰にあて、ふんぞり返った。

 さらに、得意げに言葉を続ける。


「はじめはジプシーをつけていたんだけれど、途中でまかれて見失っちゃったのよ。うろうろしていたら、窓から京一郎が学校へ戻ってきたのが見えて、そのまま尾行したの! どう? うまくいったでしょ?」


 どうだと言わんばかりのドヤ顔に、俺は二の句が継げなかった。


 この女……。

 思ったことはなんでも口にしなければおさまらない、隠しごとが苦手なタイプのようだ。

 そして、明らかに行き当りばったりで行動している。


 呆気にとられてほーりゅうを見つめていた俺は、ジプシーからの視線を頬に感じた。だが、その瞳は俺を責めていない。

 なぜなら、失敗があってもフォローができれば問題がないというのが奴の考え方だからだ。


「時間が惜しい。京一郎、あとは任せた」


 俺の予想通り、そう告げながら身をひるがえしたジプシーは、するりと彼女の脇を器用にすり抜ける。


「やーん、わたしもついていく!」


 そう叫んでジプシーのあとを追いかけようとしたほーりゅうの前へ、俺は素早く回りこんで立ちふさがった。


 考えたら、朝からこいつはチョロチョロと目障りだったんだ。

 ジプシーが出てしまえば、もう今回は、俺のやるべきことはない。

 今後これ以上、俺たちの周りをうろうろされないように、いまここで釘を刺しておいても構わないはずだ。


 俺は、15センチほど低いであろう彼女を威圧的に見おろした。

 俺の脇をすり抜けようとして叶わなかった彼女は、キッと見あげてくる。


 沈黙のなかの殺気を感じ取ったように、ほーりゅうは、そのまま真っ向から俺を睨みつけてきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 3時間も気付かせずにつけるなんてもはや忍びですね。
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