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キスメット 【第7章まで完結】  作者: くにざゎゆぅ
【第四章】対エージェント編
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第128話 ほーりゅう

 わたしはとても暇だった。


 トラは結界の種類を変更しがてら、ホテルのフロントへ伝言を残しにいくために部屋を出てしまった。

 部屋に残ったジプシーも京一郎も、資料やらパソコンで調べ物やら、ずっと小声で相談事ばかりで、全然わたしの相手をしてくれない。

 軟禁状態のわたしは、部屋の中では自由にして良いと言われていたけれど、なにもすることがなかった。


 部屋を見渡す。

 わたしの泊まっている部屋と、作りは全く一緒。

 部屋向きだけが違うんだ。


 そう思ったわたしは、ふと、窓に目が向いた。

 窓のそばへ寄って行き、真っ白いカーテンを開けて外の風景を眺める。


 わたしのとっている部屋と向きが違うから、見える風景も違うんだぁ。

 わたしの部屋からは海が見えたけれど、ここからは山側が見える。

 この時期、ちょっと寒いけれど、窓を開けてベランダへでるくらいはいいかな。


 そう思いながら窓の鍵に手をかけると、背後から視線を感じた。

 振り返ると、パソコンの画面から顔をあげたジプシーが、わたしを注視していた。


「窓を開けて、空気の入れ替えをしたいんだけれど?」


 おそるおそる、そうわたしが口にすると、ジプシーはつぶやくように言った。


「ふぅん。――だが、あまり窓のそばに寄るな。ベランダへはでるなよ。敵のひとり、たぶんB.M.D.のほうが、レーザーポイントしてくる可能性がある」


 レーザーポイント……って、ドラマや映画で見たことがある、狙撃前に対象物へ狙いをつける赤い点のこと?


 慌ててわたしはカーテンをひいて、窓から飛びのくように離れた。


 もう、そういうことは、早く言ってよね!


 ますます、することがなくなったわたしは、ドアを開け放している隣の寝室へ移動した。

 人探しが今回の目的って言っていたわりには、なんの動きも起こさない連中の辛気臭い打ち合わせやらを眺めていても面白くない。

 寝室に置かれている大きなテレビの電源を入れ、適当にチャンネルを回しながら、わたしはベッドの上でごろごろした。


 ここで昼寝でもするのが、一番いいのかなぁ。

 せっかくの旅行なのに。

 まったく、よけいなことに首を突っこんじゃったよ。


 そのとき、部屋のドアがノックされた。

 その瞬間、わたしは飛び起きて、寝室から走ってでる。


「はいはぁい」


 機嫌良くそういいながら、廊下につながるドアに向かっていこうとすると、一瞬早くジプシーに襟首をつかまれた。


「おまえ、あっさりとドアを開けようと思っていないか?」

「大丈夫だよ、タイミング的にトラだって」


 そういっているあいだに、カードキーを使ってトラが部屋へ入ってきた。


「ほら、トラじゃん」


 わたしはむくれながら、ジプシーに勝ち誇ったように告げた。


「修正完了。それと、たぶん暇じゃないかと思って、雑誌とお菓子を買ってきてあげたよ」


 そういいながら、トラはわたしへ袋に入ったお土産を渡してくれた。


「わぁ、気がきくぅ。ありがとう」


 本当に暇だったわたしは、ありがたくトラから受け取ると、ほくほくと寝室に向かおうとする。

 すると、ジプシーが鋭く声をかけてきた。


「おまえ、まさかベッドの上で、お菓子を食うつもりじゃないだろうな」


 ――いちいち細かい男め。

 いつものペースが戻ってきたら、とたんに口うるさくなったよ。


 仕方なく、わたしは皆がいるこの部屋のテーブルに荷物を置くと、最初に袋の中からチョコレートの箱を手に取った。

 パッケージには季節限定の生チョコと書いてある。

 さっそく箱を開け、個包装された中身をひとつずつ、トラと京一郎、そしてジプシーに配り歩いた。


「おまえ、なんか緊張感ないねぇ」


 受け取りながらの京一郎にいわれたけれど。

 仕方がないじゃない。

 こういう性格だものね。


 ジプシーにも差しだしたけれど、手をだしてチョコを受け取る気配がない。

 甘いものは嫌いじゃないと、以前いっていたのを思いだす。


「雪山でさぁ、チョコってカロリーのある非常食になるんだってね」


 わたしが耳もとでそうつぶやくと、いいたいことがわかったらしいジプシーは、ムッとした表情で渋々と手を差しだした。


 あれ?

 やけに素直というか従順だ。

 食事に関して、さんざん言い続けてきた効果が、ようやくではじめたのかな?

 なんだか飲食関係だけ、わたしのほうが優位に立った気分。


 配り終わったわたしは機嫌良く、近くのあいている椅子に腰をおろし、包装から取りだしたチョコをひとつ、口に入れた。

 うん。

 季節限定の生チョコ、たちまちとろける感じで甘くて美味しい。


「食べているときが一番おとなしいな」


 ため息まじりの、ジプシーのつぶやく声が聞こえたけれど。

 そのとき、部屋のドアがノックされた。


「はいはぁい」


 条件反射で立ちあがり、そう返事をしながらドアへ向かおうとすると、とたんにまたジプシーに首根っこをつかまれた。


「おまえ、学習しないな。次は絶対トラじゃねぇぞ」


 ごもっとも。

 でも、夢乃かもしれないじゃない?


 そう言いたかったけれど、さすがに今回は、確率は低い。

 だから、ジプシーがドアに向かい気配を確認しながら開けるのを、黙って後ろから眺めることにする。

 そして、開けたドアの向こう側には、見知らぬ男がひとり、立っていた。



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