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好変拒変  作者: take
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第一話  『不変』

 

 冬の寒さも和らぎ、日中は暖かな日が包み込む春先。多くの人が新しい人生に身を包む姿が街に広がっている。未来に期待と希望を持ち、緊張と不安の表情の中にどこか幸せを感じるそんな季節。

 富山和哉はそんな幸福に満ち溢れた街中を一人で歩いていた。まだ春休みなのだろうか、中高生や大学生の姿をよく目にする。男女仲睦まじい声が和哉の耳に雑音のように入ってくる。

 和哉はこの季節が好きではない。当然和哉も彼らと同じ年のころは友人たちと将来に夢と期待を持って過ごしていた。無難に自分の思い描いていた未来へと進むものであると。しかし現実はそう単純ではなかった。

                 ◎

 和哉は目的地であるスーパーへと足を運んだ。家から歩いて十分もかからないところにある安さが売りのスーパーである。慣れた足並みでいつもの場所へと向かい、一つ六十八円のカップ麺を五個ほどとスポーツ飲料をかごに入れレジへと向かった。温かいご飯を最後に食べたのはいつだったかはっきり覚えていない。こんな生活にも慣れてきてしまった。高望みはしない、最低限の生活ができればそれでいい。夢なんてとうの昔に失った。多くの人は年をとると刺激を好む日々から刺激を拒む日々へと気持ちが移行してゆく。もちろんそうでない人もいるだろうが和哉はその典型的な例であった。上へと上がる力を使うよりもだらだらと今の生活を送ることに浸ってしまっているのである。仕事をしていないこともないが一般作業と銘打った雑務の派遣会社で給料は日払いである。お金が無くなったら仕事を入れてその日をしのいでいるような生活。初めはやる気もあったが今では頑張りすぎないこの環境が体に染みついて離れなくなってしまっている。生きていてもその価値を見出せない、見出そうとしていない。体を少しずつ蝕んでゆく感覚から脱却するための力は和哉には残っていなかった。

                 ◎

 耳障りな街中を抜け帰路につく、1DKのアパートの二階に和哉は住んでいる。散らかった集合ポストを横目に、錆びた手すりをつかみながら軋む階段を一段ずつ上ってゆく。玄関の鍵を開けて中に入ると煙草の臭いが体を纏う。長年愛飲しているキャスターの臭いだ。買い物袋からスポーツ飲料を出し冷蔵庫に入れカップ麺は所定の場所に並べていく、横目に窓から外を見ると夕日がゆっくり沈んでいく姿が目に映る。今日が終わる。夕方は好きだ。夜は電話が鳴らないし変な来客もない、ずっと夜が続けばいいのにと毎晩思う。逆に人々が活動を始める明け方は嫌いだ、また一日が始まってしまう。変わらない日々は落ち着くがやりようにもない不安が沸々と湧き出てくる。ニートの毎日が夏休みの最終日と同じ気分と表現した人がいたが、的を得た表現だ。

 ゆっくり座椅子に腰を落とし煙草に火をつけたところで電話が鳴った。名前の表示は「黒川」となっている。黒川は和哉が働いている派遣会社の社長で、おそらく明日出社できるかどうか社員に声をかけているのだろう。この時間の電話はよくあることだ。一口だけ深く煙草を吸った後電話に出る。

「お疲れ様です。富山さん明日でられるかな。」

黒川は普段と変わらない口調で問いかけてくる。基本的にこの聞かれ方をするということはすでに頭数に入っているという事なので断れない。この会社に登録して二年半経つ。もう慣れてしまった。

「お疲れ様です。明日大丈夫ですよ。現場はどこになりそうですか。」

春口とは言え最近は日中暑い日も多い。できれば土工現場は避けてたいところ。誰しも楽してお金を稼ぎたいものである。

「明日は隣町の土工現場に二人で向かう事になります。」

ハズレを引いたか。去年の夏に家の解体に出向いたとき午前中で熱中症に陥りかけたことを思い出した。

「土工ですか。迷惑かけそうなのでできれば他の方が。」

真っすぐ断りの発言をしようと試みたが、黒川の食い気味な返事が返ってくる。

「迷惑にはならないですよ。もう一人が六十歳のおじいさんですけど土工のプロですから。」

もう断れない。重機の免許はもちろん持っていないし、正直右も左もわからないが黒川も社長だ。適材適所に配置しているはずである。とりあえず内容だけ聞いてみよう。

「わかりました。土工現場はあまり経験ないんですがどんなことするんですか。」

「そこまで大変ではないと思います。わからないことがあれば一緒に行く村本さんに聞けば大丈夫ですよ。優しくてひょうきんな方ですからちゃんと教えてくれます。」

全く乗り気がしないし村本さんをまず知らない。しかし優しい方なら問題はないか。長くやってきたが一番しんどいのは一緒に現場に向かう方とのコミュニケーションが取れない事である。電話を片手に財布を見るが少々中身がさみしい。ここらへんで少し補充しておかなければいけないことも事実。

「大丈夫なら明日の朝七時半でお願いします。」

「わかりました。七時半ですね。では失礼します。」

一瞬の間とともに電話が切れる。吸い始めだった煙草が半分ほど灰になって今にも落ちそうだ。ゆっくりと灰皿に手を伸ばす。三か月前にカーペットを変えてからすでに二か所ほど焦げ目がついている。普段から十分気を付けてはいるのだが稀にやらかしてしまう。座椅子にもたれかかりゆっくり天井を眺める。

あぁ明日が憂鬱だ。静かに目を閉じながら大きく息を吐いた。



この度は「拒変好変」お手に取っていただきありがとうございます。takeです。

初の執筆のため稚拙な文構成や表現、誤字脱字があるとは思いますが大目に見ていただけると幸いです。

本文の後に長々と書くのも興ざめですので短めのご挨拶とさせていただきます。

後、携帯からご覧になられている方もいらっしゃるようですので次回以降も「前書き」の方は省略させていただきます。ご了承ください。

それでは次回もよろしくお願いします。

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