いつ、誰が、どこで、何をした
「どうしたの?千華ちゃん」
「花ちゃんあのさ、今日夜遅くまで兄がいなくてさよかったらお泊まり会しない?」今井花が家へ来るのははじめてだった。自分から誘うのは恥ずかしくて言えなかった。
「いいの?行きたい、行きたい千華ちゃんのお家!」嬉しそうにする今井花の顔をみて自分もうれしくなる。兄の事も知ってもらいたいという気持ちも大きかった。私のことを友達と思う人は少ない。少し話す程度で終わってしまう。今井花は、自分の中で大切な友達になっていた。
「花ちゃんがいいなら!なんかいつもファミレスとか公園だとあんまり話せないじゃん?家なら遊べるしテレビあるし!」
「千華ちゃん……やりたいことがあるの!」
「やりたいこと?なに、なに」
「鍋パーティーしよう千華ちゃん!」今井花の言葉で私の気持ちを押さえるネジが飛んだ。
「鍋パーティー!やりたい!ナイスアイデアです!何鍋?キムチ?ちゃんこ?とんこつ?」
「豆乳!」
「花ちゃん女子力!!コラーゲン入れますかお客様?」
「はい、コラーゲンたっぷりでお願いいたします!」もしこの会話を聞いた人達は、変に思うだろう。今井花は、どんどん楽しくしてくれる。私と向き合ってくれている。
「はいよ!お客さん」
「それ、お寿司やさん?」
「大当たり!」
「で、千華ちゃん!買い出しどこ行く?楽しみで待ちきれない」はじめてお泊まり会凄く嬉しいがなぜか不安になってきてしまった。
「近くによく行くスーパーあるんだ。そこにしよう!お菓子買いたい」
「うん!千華ちゃんありがとう」
「え、なんで?」
「千華ちゃんから誘ってくれて嬉しい。凄く楽しみ」 今井花は、私のことをわかっていたのかもしれない。私の思っていたことを言葉や行動で表してくれる。たまにこう思うこともある。
「花ちゃんは、エスパー?」
「エスパーって。使えるなら今千華ちゃんの気持ち覗いちゃうよ?」クスッと笑う今井花。私の気持ちは今、兄と話してる時のように幸せです。
「楽しみ過ぎて授業が辛い……花ちゃん帰りたい」
「じゃあ、授業ちゃんと受けたらあのアイス奢るよ?」
「本当に?え。うちの大好きなアイスクリーム!あの高い」
「ちゃんとノートも取って、聞いてたらね?」私の扱い方をよくわかってる。普段買えないあのアイスクリーム、昔は何かしたご褒美に兄や母からもらっていた。そのアイスクリームは本当に美味しい。
「花ちゃん!私がんばる!授業受ける」
「じゃあ、準備しないとね。授業始まるよ千華ちゃん」いつの間にか周りにはクラスメイトが席につき次の授業の準備をしている。まだ、二時間目。気が遠くなった。
二時間目の始まるチャイムが鳴る。あんなにざわざわした教室が静かになる。
「あれ、次って国語だよね?」今井花が振り向く。
「うん。こないね担当の先生」担当の先生はチャイム前に来ているがおかしい。
授業のチャイムから5分、来る気配がない。教室も少しざわついた。
「花ちゃん、今日自習かな?こないね」
「うーん。自習になったら嬉しいかな」
「そしたら、今日の予定作ろう」
「え、千華ちゃん。自習もちゃんとしないと駄目だよ」
「あ……うん。花ちゃんわからないこと教えてね」
「うん!やろうね」そんな会話をしていると教室のざわついた音とは違う、バタバタとあわただしく走る音が聞こえてきた。
ドアの前に人影が見えた。
「あ、きた。」周りもその音に耳を傾けていて視線は、ドアに向いていた。
ドアがいきよいよく開いた。
「ごめんなさい!授業遅れて!先生が遅刻なんて失格だわ……準備してたらこんな時間に。」
「先生、大丈夫ですか?息が荒れてますし少し落ち着いてください」
「あ、ありがとう澤中さん。ごめんなさい、今日はみなさんと少し違った授業しようと思いまして。では、少し深呼吸します」国語の担当の先生は、生徒思いでなんだかお母さんみたいだ。天然で少し今井花に似ている。
「じゃあ、深呼吸出来たので授業始めますね。出席からってみんないますねよかったあ」
「先生!今日なにやるんですか?」
「澤中さん今日はヤル気ね!嬉しい。みなさんも知ってると思いますが、いつ、誰が、どこで、何をしたのかというグループに分かれてやりたいと思います!」
「楽しそう!」教室がざわついた。国語の先生は、授業というより遊びのような感覚だった。テスト内容も分かりやすく教えてくれる。
「じゃあ、グループを分けますね。あそのまえに、紙配ります。これは最後に書くので提出してくださいね」二時間目の授業が国語で助かった。つまらない授業なんかよりあっという間に終わる。
「千華ちゃん?」
「花ちゃん?」
「グループ分かれたよ!机くっつけよう」周りを見ればもうグループになっていた。
「うん!ごめんごめん」慌てて机をグループにくっつけ授業に集中した。
「では、正方形の紙を一人一枚配ってください。いつ、誰が、どこで、何をしたをグループ内で分けてください。書いてるとこは見られないようにしてください。あとで発表します。」
「なんでもいいんですか?」
「あ、悪口とかあまりよろしくない文章は絶対駄目です。」
「はーい!」グループの中に入って今井花以外はあまり話したことがない。少し緊張した。
「澤中さんは、何がいい?」左斜めの女の子が私に話しかけた。
「え、えっと、私はあまりもので!あまりものには福があるみたいな」目の前にいた男の子が笑う。恥ずかしくて見れなかった。
「ごめん笑って。澤中さんって、普通に接してくれるんだね」
「え、あごめん。私は、騒ぐしうるさいよね。問題児だし」
「いやいや、違うよ。前から隣なのに話しかけたいけど緊張してた」
「あ、話しかけてくれると嬉しいです……」
「千華ちゃん照れた!」今井花が横で笑う。かなり恥ずかしく身をちぢめた。
「花ちゃん、からかわないでーー」斜めの女の子もクスッと笑い出す。クラスにあまり関わらなかったことに後悔した。
「じゃあ、あの千華ちゃんは最後の何をしたでいい?」私の困り果てた顔に気づいたのか話をかえてくれた。
「うん。みんながいいなら」
私は、最後になり今井花は、いつ斜めの女の子はどこで、目の前の男の子は誰がになり書きはじめた。
他のグループも静かに紙を隠しながら書いている。
何をしたを書くことになった私。
グループのメンバーを見る。はじめてこんな会話が出来た。今井花以外にも話したいと自分で思えた。もう書くことが決まった。正方形の紙の真ん中に大きく書いた。
「はーい!時間になったので発表しましょう」なんだか、恥ずかしいような気持ちになった。
順に発表していき、いろんな言葉が黒板に書かれた。私には、どれもあまり面白いとかという気持ちがなかった。
「では、次最後かな?澤中さんの班ですね。発表してください」指示にしたがい四人は立つ。最初は今井花からだった。
「今日の二時間目」
「教室の中で」
「澤中さんがグループの三人と」三人の言葉で空気が変わった。
「あ、楽しく会話をして友達になった」立ったままの私達四人。三人の顔を見ると笑顔で「友達だよ」と返してくれた。
「凄くいいですね。座ってください」座るとなぜか恥ずかしくて無言になってしまった。
「千華ちゃん、よかったね」また今井花は私の心を読んだ。今井花はやっぱりエスパーだ。
「うん。嬉しい」
「千華ちゃん可愛い」
「可愛いくない!花ちゃんありがとう」今井花に素直に答えた。二時間目もあっという間に終わってしまいなぜか二時間目からすぐ時間が過ぎていった。