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始まり

高瀬舟、と呼ばれた舟をあなたは知っているだろうか?


今や昔の徳川時代に京都の重罪人が乗せられた舟であり、その舟に乗せられた罪人は大坂を回ってそこから自分の罪を償うべき場所である遠島へと運ばれた。


高瀬舟には大坂までの間だが乗せられている罪人の親類を乗せていく事が慣例であったという。


当時高瀬舟に乗せられた罪人は当然重い罪を犯した者ではあったのだがその原因は少しの心得違い、例えば心中をした時に相手を殺して自分だけ生き残ってしまった、などといった者などが多くを占めていた。


それ故にそのような罪人を乗せた高瀬舟の中では罪人とその親族が悲しい身の上話を語り合う事が多く、高瀬舟の護送役を命じられる京都奉行所の役人達はその様子を事細かに聞くことが出来たそうだ。


ただ、役人にも色々な性格の人がいるのでこの話を煩いだけと思う者もいれば同情してしまい流してはいけないはずの涙を流してしまう役人もいたという。



さて、寛政の頃であっただろうか。

珍しい罪人が高瀬舟に乗せられた。

名を喜助と言い、30くらいの住所不定の男である。親類はいないのか、舟には1人で乗り込んだ。護送を命ぜられた羽田庄兵衛はこの男がただ殺人事件を起こした、とだけ聞かされていた。


牢から舟に乗るまでの間に庄兵衛はある事が気になり始める。

喜助の態度だ。

何故か彼は全く自分に逆らおうとしないのである。しかもそれが権力に媚びるような態度では無い。それが庄兵衛にとっては不思議でならないのだ。なので舟に乗ってからも喜助の行動を注意深く観察していた。


しばらく時間が経った―――


罪人も眠る事は許されているのだが喜助は一向に横になろうとしない。ずっと月を眺めているのだ。その顔は晴れやかで目には輝きすら見えていた。


とうとう庄兵衛は耐えきれなくなり、喜助に尋ねる。

「喜助、お前何を思っておるのか?」

「はい?」

喜助が聞き返す。

「いや、別段深い理由があって聞いたのでは無い。俺はさっきからお前の島へと向かう心持ちが聞いてみたかったのだ。今まで俺が島に送った罪人は皆辛そうな顔をしておった。だがな、お前は辛そうどころかむしろ楽しそうな顔をしておる。何故、お前は楽しそうにしておるのだ?その訳を俺に教えてはくれぬか?」


―続く―

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