念願の冷凍剣を手に入れたのに、冒険者たちがまともに話をしてくれない!
「殺してでも奪い取る」
「殺してから奪い取る」
「奪い取った上で殺す」
「待て待て待てぇぇい。なんでいきなり、そんなに殺戮マシーンと化してるんだお前ら」
ガラハゲが冷凍剣を片手に、唾を飛ばす勢いで怒鳴り散らす。
「せめて俺が何をどうしたか、くらいは話させろよ。いきなり殺すってなんだよ」
「えー。でもどうせ『冷凍剣を手に入れたぞ』って言うだけでしょ?」
「大事、そこ大事。本当に大事だから。絶対に譲れない一線だから」
見苦しく縋るガラハゲを憐れみ、しかたなく冒険者達は別の選択を考える事にした。
「聞く耳持たずに殺す」
「口を開く前に殺す」
「殺してから話させる」
「こらこらこらぁぁ。奪うって前提は何処に消えた? 早いな。奪う前提を失うの早かったなぁ」
「まぁ前提条件ってのは常に臨機応変されるべき物ですし」
「だからって俺を殺す前提に変化しなくても良いだろ」
「うーん、まぁ確かに少し殺伐とし過ぎましたかね」
「そうだな。そうだぞ。そうなんだ。自分で反省出来るのは良い事だ」
「奪い取るのを前提に考え直してみます」
満足気に頷くガラハゲ。過ちに気付ける若者、素晴らしい。
「親を人質に取ってでも、奪い取る」
「親を人買いに売ってから、奪い取る」
「親を殺す」
「おいさっきから最後の言ってる奴。お前だ、お前」
「はい? 何か?」
「黙ってスルーしてたけど、お前がさっきから一番おかしい。だいぶおかしい」
「と言われましても、それはガラハゲさんの常識を前提にしたお話ですよね?」
指差された冒険者は、両肩を竦めて話を続ける。
「自分の狭い常識で誰かを『おかしい』と糾弾する、その態度こそ非常識を疑うべきでは」
「やかましい。他の二人の主張とお前の主張を比べてみようか? はい、じゃあ次の言ってみろお前ら」
「髪の毛を抜いてでも奪い取る」
「カツラと交換して奪い取る」
「そう、関係ないね」
「ちょっと待てや。いきなり原作再現すんなよ」
「え? 原作だと髪の毛に言及してたりしませんでしたけど」
「うわ、このハゲってもしかしてニワカ……(うわ、このハゲってもしかしてニワカ)」
「心の声をわざわざ音読するな。お前ら二人じゃないぞ。最後の奴だ、最後の奴」
指摘されて再び肩を竦める冒険者。
「ほら、貴方の『さっきから一番おかしい』という『前提』が崩れてしまいました」
その表情にはガラハゲを軽蔑する笑みが浮かんでいる。
「如何に狭い常識で、普遍的に通用しない言葉であったか、猿でも分かりますね」
「おーまーえーもーなー」
「確かに私は意図的に、少しズラした答えを返していました」
両手で透明なろくろを作る手つきとなり、何か素晴らしいアイデアを語るような仕草で話す。
「でもガラハゲさんが『非常識』であるからこそ、多様なアプローチを選択する上の手段なのです」
「ほほぉ……冷凍剣を手に入れた、って言う前に殺しまくるお前らが常識を語るか」
「どうしてもそれを言いたいのですか?」
「そりゃそうだろ。名台詞だぞ、名台詞。リメイク前はバトルシーンすら無く奪われてたし」
「分かりました。じゃあ言って下さいよ、そのセリフ。待ってますから」
冒険者たちの言葉にパッと表情を明るくするガラハゲ。ハゲた頭頂部も輝きを増した。
「よしよし。じゃあ言わせて貰おうかな。んっんっ、あー。本日は晴天なり。念願の」
「殺してでも奪い取る」
「殺してる」
「殺した」
「最後まで言わせろよ!」
一瞬にして消滅するガラハゲ。それが彼の遺言であった。
ハゲだからリメイク版かと思いきや、まさかの旧機種版だったのだ。
(そう言えば『な、なにをする貴様らー』って言ってないわ。このままじゃ成仏できない……)
「そう、関係ないね」
完
もう、見ての通りの内容ですね。
面白半分で殺される彼にも、こんな風に色々と言いたい事はあるのです、たぶんきっと。