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『あっ、はい、ではそういう方向で……。

 皆さーん、上からオッケーが出ましたので『神様のフォーチュンクッキー』を食べれなかった方々には今から再配布させていただきますねー。また、イベント中にお待たせしてしまったということで、運営からのお詫びということで全プレイヤーに『マジックポーション×3』を配布させていただきま~す』


 ウルフズの被害者たちに詰め寄られていたエレベータガール風の猫耳お姉さんは、20分ほどの時間を費やし、ようやく上層部からの承諾を引き出して、再配布というかたちで騒ぎの鎮静化をはかるようだった。まぁ、初心者プレイヤーたちに盗まれたあなたたちが悪いとはとても言えないし、かといってシステム的に用意されている『盗む』というコマンドを使用しただけのウルフズに責任を押し付けるわけにもいかない運営にとってはこうするしかなかったのだろう。クッキーが紛失しているのは盗まれたからだということを運営は漏らしていなかった。そして、ウルフズのアイテム欄から大量のクッキーが消えることはなかった。


 それまでは、被害者と被害者じゃなくてもはやくゲームしたいのに無駄に拘束されているほかのプレイヤーたちにかなり悪い雰囲気が漂っていたものの、決着とお詫びの品にだいぶ空気は和らいだようだった。

 改めてクッキーを手にした被害者たちは次々に口にしていく。

 これにて一件落着──ということになるのだろうか。


 で、そのときのウルフズというと……


「へー、なるほどー、そうなんですかー。

 ポーション作りのときの薬草はちゃんと"採取"アビリティで採ってきたもののほうが効果は高くなるんですねー。

 ほぅほぅ、"採取"を持ってなくても根っこごと回収するとかすれば品質は良くなるですか。

 いやぁ、勉強になりましたよー。教えてくださってありがとうございましたー」


 初対面の見知らぬプレイヤーたちから情報収集をしていた。

 この『アビリティ』というゲーム、ウィンドウからヘルプを参照できる機能はあるものの最初から公開されているのは基本中の基本のことばかりで、ほとんどのことはフラグを立てていかなければ閲覧できないものばかりだったりする。そして、特定のアビリティを習得していることが条件になっている項目というのは珍しくない。


 ウルフズは世間話からうまく初期ステータスの割り振りやクッキーによって得られたランダムスキルなどを聞き出し、関連するヘルプの記述を確かめてもらい、教えてもらっていたのだ。式典が停滞している時間をうまく利用した情報収集である。

 情報というものは扱いきれるものにとっては情報量を支払ってもいいほどの価値を持つ。

 それをタダで手に入れられるチャンスをウルフズは有意義に活用していた。


 もちろん、こういう情報交換の場ではとうぜんながらウルフズのほうのスキルも聞かれることになる。


「僕のは ≪ピックポケット≫ っていう、『盗み』がバレにくくなるっていう効果のパッシブスキルですけど個人的にはハズレでした。タンカーになるべく防御方面に特化させていますから、むしろ防具やアクセサリーを盗まれないようなスキルのほうが欲しかったですねー。

 属性攻撃や状態異常に臨機応変に対応するためにアクセサリーとかたくさん持ち歩くことになりそうですから。

 まぁ、"盗み"のアビリティで解放されたヘルプ欄によると対抗技能として"警戒"や"直感"なんていうアビリティがあるみたいですから、そっちのほうを頃合いをみて探してみようかと思ってますー」


 こういうのは堂々と答えているほうがあやしまれないとウルフズは"盗み"のことを隠さずに伝えていた。

 その作戦はうまくいったのか、質問したプレイヤーは「俺ら生産系もなにかしら盗難対策しねぇとな……大量生産してなんぼの安物ならともかくクソ高い素材を必要とする高級品を盗まれたらやばいからよぉ」とウルフズがクッキー消失事件の犯人だということに気付いた様子はなかった。

 おそらく、このままいけばたんなる運営の手違いということで片付くことになりそうだった。


 一方、被害者に囲まれて涙目になっていた司会の猫耳お姉さんは気をとりなおしてとっくに進行を再開していたようだ。ウィンドウの操作方法、チュートリアルイベントの代表的な受け方や『アビリティ』においてのPvPの扱いなどをわかりやすく説明していき、そちらのほうはどうやらようやく一通り終わったようだった。


 このころになってくると、プレイヤーたちはどこかいそいそと気が急いているようにうかがえる。


 はじめて触れるVRMMORPGがいよいよ始まろうとしているのだから無理もないだろう。

 それに、この手のゲームはスタートダッシュが肝心だということも関係している。誰よりもはやくに狩場にいき、沸いているモンスターを倒してレベルアップし、リポップ待ちしているほかのプレイヤーを置き去りに次の狩場にいちはやく移れるようにする。

 これをできるのとできないのでは大違いなのだ。

 皆、この式が終わったら最低限の買い物だけして狩場まで爆走するつもりだろう。

 それにショップにはもしかすると早い者勝ちのサービス品があるかもしれなく、依頼は先着順からすると条件のいいものは競い合いになりかねない。

 スタートダッシュというものはMMORPGにとってとても重要なものとなってくるのだ。


 そして、ちょうど司会のお姉さんもそのことについて話しているところだった。


『ではー、いよいよスタートの時が近づいてまいりましたけど、これだけの人数が一斉に移動開始すると混雑が予想されますのでこちらがわでグループを振り分けさせていただきましたー。皆さんにメッセージが送られたと思いますけど、その中に記述されている番号があなたの所属するグループとなります!

 えー、こちらの番号の小さいほうから順にこの広場から退出していってもらうことになりまーす。

 だいだい1グループごとに30分の間隔をあけていきますのでご協力をお願いしま~す!!』


 轟音のごときブーイングが押し寄せる。

 それらは自分のグループ番号をみて数字が大きかったプレイヤーによるものだろう。

 無理もない。スタートダッシュは肝心だというのに予告なくクジにさせられればどうしたってキレる人は出てくる。


『プレイヤーの退出して空いたスペースには、NPCによる露店やスキルを指導してくれる先生陣の出張道場などの企画が盛りだくさんですのでみなさましばらくお待ちくださ~い』


 司会のお姉ちゃんは押し寄せるプレイヤー第二弾を必死に宥めているが、今回は想定されていただろう騒ぎだ。

 業務の一環として頑張ってもらうしかないだろう。

 

 雑談をてきとうなところで切り上げていたウルフズは自分にきたメッセージを確認してみると9番だった。約4時間待たされることになるのだけどこれははやいのか遅いのか。この広場から退場するだけならこれほどの時間は必要ないので、おそらく街側の受け入れられるキャパと関係しているのだろう。

 ここ『アビリティ』の世界では、説明書によると一つの宿屋に何千人と泊まれるような特殊なフィールドは用意されていないらしい。正確には、フィールドボスなどと戦うときに発生する『BOSSゾーン』や同意のあるプレイヤー同士が決闘するときなどの『対戦ゾーン』など、通常の空間からは逸脱している亜空間は存在することはあるらしいのだが、それらはあくまで戦闘の余波による影響をなくすための処置であり、市街地では人が多すぎて混み過ぎているからなんていう理由ではそのような特例処置はないらしい。


 しかし、となると街の宿屋は満室になって泊まれない可能性がある。

 そう思ったのかウルフズはさっさと露店を開いていたNPCから1人用テントを購入していた。

 本来はほかの商品もよく見たかったのだが、ウルフズがたまたまいたところのすぐ近くに突然発生したその露店はあっというまに集ってきたプレイヤーに取り囲まれていたのでテント一つ買って、それから離脱するので精一杯のようだった。群衆というのは恐ろしいものである。


 番号を通知してきたときのメッセージに添付されていたパンフレットによると、退場したプレイヤーが増えて場があくたびに露店は増えていき、スキルの指導員などは5番以降になっているそうだった。現段階ではポーションなどの装備品や、種類は少ないけど武器や防具などを買える店舗もある。


 ウルフズにはここで購入されたばかりのポーション等を盗みにいく選択肢もあったのだが──

 はっきりいって単価が安すぎる。

 また、システム的に『盗み』が発覚することはなくとも、『盗み』の条件に肉体的接触がある以上はそちらの方面の不自然さからバレかねない。

 さきほどまでは人と人との狭い隙間をすり抜けるのに多少ぶつかっても違和感はなかった。が、お互いに自由に行動している現状では、人間の当たり前の心理として知らない人が近寄ってきたらふつうの人は離れようとする。それでも無理矢理距離を詰めてきて触ってこようものなら記憶に残ることは確定で、アイテムボックスからなにか消えていたときの容疑者になってしまう。それに、最悪はセクハラとしてGМコールされかねない。本職のスリ職人ならうまくやるのだろうが──当然、ウルフズにその手の経験やノウハウを持ってはいなかった。ゆえにリスクとリターンが釣り合っていないのだ。なのでウルフズは別なことをしていた。


 司会のお姉さんの解説をキーに新たに解放されたヘルプを読みふけっていたのだ。

 元々は聞き逃してしまった場合の救済用の記述なのだが、口頭の説明よりははるかに情報量は多いので気になるところだけをざっと読んでいくだけでもだいぶ時間がとられる。

 そして、ヘルプからのリンクでとある質問していたのが返信されてきたのを確認するとウルフズは満足げにうなづいた。


 その傍らを通り過ぎていく不良風のプレイヤーは愚痴っていた。


「ったくよぉ、後からのこのこいったってモンスターは狩られているだろ? 新規沸きだけでどれだけ経験値稼げるやら……それだって奪い合いだろ? 運営、まじ、ふざけんなよ」


「経験値なんて、こんなにうじゃうじゃといるじゃないですか」


「ハァ?」


 ヤンキーがその言葉に振り返ったときにはもう遅く、人混みに混じれ、誰が言ったのかわからなくなっていた。

 まるで狸に化かされたような顔をしてヤンキーはまたふらふらと移動を開始する。 


 その様子など気に掛けることもなく、ウルフズは一番不人気に露店──防具屋に立ち寄り、その一つを手に取った。

 それはフルフェイス型の兜で、目の部分だけは金属ではなく茶こけた色ガラス風の素材になっていた。ウィンドウを操作して説明を読んでみると、目のところはいわゆるモンスター素材というファンタジーワールド特有なもので、妖甲虫の翅を薄く削り取ったものらしい。 

 覗いてみると、サングラスのように多少は色彩がぼやけるものの視界は悪くなさそうだった。


 しかし、それなりのお値段となっていた。

 生産系への救済策としてなのか、『アビリティ』では準備金は多めに用意されている。同じくGを単位にしているとはいえ50Gの勇者とは違うのだ。見習いのうちは売り物になるものを作れないことを想定して一カ月は宿屋に泊まれるだけのお金を渡されているのだ。

 ただし、生活費とは明言されていない。

 最初から見習いには似つかわしくないランクの道具や武具に手を出したプレイヤーはきっとあとでひぃひぃ言うことになるだろう。


 が、そのワンランクもツーランクも上となっている『妖甲虫の兜』をウルフズは躊躇することなく購入した。

 

 そして露店から離れながらあたりをぐるりとみまわして。

 全員の視線を頭に叩き込み。

 さっと頭に手をやって、マジシャンのようにその顔をフルフェイスに切り替えた。

 誰にも見られることなく見せることなく。


 で──でで、嗤う。


「はっ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは──ゲホゲホゲェ、ゴゴッ」


 高らかに。この世のなによりも楽しそうに咳き込みながらも軽快に。



「さぁ、ゲームをはじめよう!」



 その号令とともに突き出された指はウィンドウを豪快にタッチして──広場にいる全プレイヤーに通知されるメッセージ。



『ウルフズからの大乱闘のお誘いです。参加単位は一個人、掛け金として死亡者の所持金の10%を殺害者に譲渡。観戦自由、乱入自由、参加者数は無制限。ルールは模擬戦ではなくデスマッチ。デスペナルティはなし。


 主催者のウルフズからのメッセージです。


「暇つぶしをしたいもの、実力試しをしたいもの──あるいは戦闘狂よ、集え」──以上です』







 主人公の性格をあえてわかりにくくして、また、名前持ちのキャラをできるだけ出さずにどこまでできるのかを実験中ー。

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