彼女を求めて召喚魔法⑤
ノースが 召喚したのは、しゃがんでおしっこをしている女の子だった。
外見上は人の姿をしていて、黒い髪と黒い瞳を持つ、顔の彫りが浅い子だった。
服はブレザーにスカートとどこかの制服だろうか。
女の子はノースを見上げて顔をひきつらせている。
「えっ」
「はえっ」
どうしようもない沈黙が生まれる。そして。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
地下室に少女の悲鳴が響きわたった。
「何?何?ここはどこなの?あなた、誰?」
「俺はノース・ピース・ウエストだ。とりあえず立ちなさい」
女の子は言われるがまま立ち上がってパンツを履いた。
ノースは彼女を見つつ、首を傾げる。
確か、ノースが開いたのは北西の門。ここから呼び出される召喚獣はゴブリン・ワーウルフ・オークのいずれかだ。
だが、目の前の少女はどう見ても人間見えない。
擬人化している様子もない。
「君は人間か?」
「えっ、うん」
彼女はためらいがちに返事をする。
「名前は?どこから来んだ?」
「えっと、私は片桐アキナ。高2よ。学校のトイレにいたら、突然床が光って気づいたらここにいたんです」
「そうか。なんだか、タイミングの悪いときに呼び出して済まないな。実は、少しお願いしたいことがあって、呼び出したんだ」
「お願い、ですか?」
「俺の彼女になってほしい」
「は?」
「なんだ。もう他に彼氏がいるのか?」
「いえ、いませんけど……。どうして私がいきなりあなたの彼氏にならないといけないんですか?」
「もし、嫌なら一日だけ彼女のフリをしてくれればいいんだ」
ノースはそう言って、今までの事の顛末を話した。
飲み仲間のギルド職員と彼女が出来るか勝負したこと。
街で女の子に声をかけても相手にされなかったこと。
職業のお姉さんにお願いしようとしたらギルド職員が根回ししていてできなかったこと。
有り金はたいて買った性奴隷には逃げられたこと。
負けを認めてギルド職員に会いに行ったら到底倒せないような魔物を討伐するように言われたこと。
話を続けていくうちに、アキナの顔がどんどん痛そうになる。
「とりあえず分かったわ。私がその時に彼女のフリをすればいいのね」
「ありがとう。ありがとう。お礼は必ずするよ。じゃあまた、その時になったら呼び出すから、今日は帰っていいよ」
「わかった」
二人は軽く手を振って、それからしばらく沈黙した。
「どうしたの?」
「どうしたんだ?下の場所に帰らないのか?」
「どうやって帰るの?」
「どうやってって。召喚獣は用が済んだら勝手に帰るだろう?」
「あの、帰り方が解らないんですけど」
「は?ちょっとまって。自分では帰れないのか?」
アキナは頷く。
ノースの顔が真っ青になった。
獣が来るはずの召喚で来た人間の女の子。
帰り方が解らない、一方通行の召喚。
ノースは古い文献で読んだことがある。
そしてノース自身、過去の経験からその存在を知っている。
「これは、異世界からの召喚?」
だが、異世界からの召喚は莫大な魔力が必要とされるはずだ。
ノースは髪をかきあげ、フッと笑った。
「俺の才能が怖いぜ」
そんな自己陶酔に陥っているノースをアキナは冷たい目線で見ていた。