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彼女を求めて召喚魔法④

 ノースの彼女を作る作戦はことごとく失敗だった。

 街角で女の子に声をかければ相手にされず、職業のお姉さんには根回しされててお願いできず。

 なけなしのお金で買った性奴隷は逃げてしまった。

 多分逃げてしまったのだろう。もう2日も帰って来ないのだから。

 これでいよいよ期限が迫ってきた。

 もう、手段は残っていない。

 ノースは仕方なく冒険者ギルドへ向かった。

 カミラにもう彼女ができないと降参するためだ。

 

 冒険者ギルドに着くと、何やら騒がしい。

 ノースはそのまま人が沢山集まっている所へ行った。


「は、速く!誰か助けてくれ!」


 人だかりの中には、大怪我をして血で全身を赤く染めた男が倒れていた。

 横では同じメンバーの男が必死に助けを求めている。


「ひっでえ怪我。これじゃあ助からねえぞ」


「クリスタルバッファローにやられたらしいぞ。ここいらでは滅多に出ない魔物だろう?」


「誰か、ヒールの出来る奴はいないのか?」


 ヒールとは体の怪我を治す初級の魔法である。

 冒険者のだいたいがこのヒールを使うことができるが、効果の程は『ちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでゆけ』よりも若干効く程度のものである。

 そんな魔法を死にかけの大怪我人にする馬鹿はいない。

 どうしても黙って見ているぐらいしかできないのである。


「俺がやろうか?」


 そう声を出したのはノースだった。彼は人ごみの中に入ると怪我人に手を乗せる。


「ヒール」


 何も起きない。


「ヒール」


 何も起きない。

 ノースは大きく息を吸った。


「ヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒルヒル」


 ノースは続けて50回ヒールを繰り返した。

 怪我人は軽く呻き声を上げた。

 はたから見ると早口言葉を繰り返しているようにしか見えない。

 だがもう100回続けて唱えると、少しづつ顔色が良くなってきた。

 さらに350回かけて、500回もかけ続ける頃には、傷など一切なくなってしまった。


「ありがとう、ありがとう」


 付き添いの男がしきりに感謝している。


「どうってことはない。そいつの体についた血を洗い落としてあげな」


「正直、俺はこいつがもうダメだと思ったんだ。せめて痛みがとれて安らかに死ねるよう、ヒールをお願いしたんだが、まさか治るとは思わなかった。

何か、お礼をしたいんだが、何か困っていることとかないか?」


「いや、特には……。ちょっと待った!一つある。とても大事なことだ。

 誰か知り合いの女の子を紹介して欲しいんだ。俺の彼女になってくれる子がいいんだけど、最悪一日だけ、いや、数時間だけでもいいんだが、だれかいないか?」


「そうだなあ、うちのメンバーに女の子はいるが、全員彼氏持ちだしなあ。まあ、あんたがよかったら俺が付き合ってもいいが、男じゃだめか?」


「ゑっ……、ごめん、それはちょっと遠慮しとく」


「そうか。まあ他に手伝えることがあったら教えてくれ。俺はセイ・アーレン。こっちの治して貰った奴がグルダッド・スペースだ。共にB級冒険者だ」


「俺はノース・ピース・ウエスト。E級だ。ちょっとした頼み事なら何でも言ってくれ」


 ノースはそれから受付にいるカミラの所へ行く。


「こんにちは。ロビーが騒がしかったみたいだけど何があったの?」


「ああ、人が怪我して倒れてたんだ。俺がヒールで治しておいた」


「ヒールで?」


「そう、ヒールで」


 カミラがふっと笑うと冷たい目線をノースにぶつけてきた。


「大賢者様は魔法のことがよくわかってないみたいだから教えて上げるけど、ヒールなんて痛みが引く程度の魔法で傷なんて治らないのよ。

 恥をかきたくなかったら人前でそんなホラを吹かないほうがいいわよ」


「嘘ではないんだが。ところで、もし俺が彼女を作れなかったら、お前の言うことをなんでも聞かないといけないんだろ?具体的にどんなことをするんだ」


 カミラはにやりと笑を浮かべた。


「別に冒険者として簡単なことよ。依頼されて魔物を狩りに行く。まあ、魔物の指定はするけど。クリスタルバッファローとか?」


 待て待て待て!クリスタルバッファローはさっきの冒険者が大怪我をした相手ではないか。

 ノースの顔が引き攣る。


「た、例えばさ、お前が俺の彼女になるって言うのも一つの手だと思うんだけど、どうだろう?」


「そうね……。賭けが終わってからならあんたの彼女になってやってもいいけど?」


「それじゃあ意味ねえし」


「まあ、あと一日あるから頑張ってあがきなさい。もちろん期待はしてないけど。クケケケケ」


 耳障りな笑い声を背にしつつノースは冒険者ギルドから出た。



 ノースは自宅の地下室に戻ると床に魔方陣を描き始めた。

 すっかり忘れていたが、彼女がいなければ彼女を召喚すればいいのだ。

 もちろん召喚されるのは獣になるが、擬人化すれば問題ない。

 というか、なぜそんなことも思いつかなかったのだろう?

 確かにリスクがないわけではない。

 久しぶりの召喚でどんな事が起こるかは分からないのだ。

 魔方陣を描き上げたノースは魔方陣の真ん中に立ち、両手を大きく広げた。

 一般的な召喚魔法では術者は魔方陣の外で待機する。

 だが、ノースの召喚魔法は己の魔力を贄としてより強い召喚獣を呼び出すことができるのだ。


「開け、北西の門。我呼びかけにより来よ、召喚獣」


 ノースの言葉と共に魔方陣は光輝き、ほの暗い地下室は光の粒子に包まれた。

 そして光が収まった後に一人の少女が現れた。



 彼女は地べたに座って用を足していた。


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