彼女を求めて召喚魔法①
彼女を作る。
それはおっさんであるノースにとって難しいことではないと考えてた。
ノースの容姿はそれほど悪くはない。
長身でほっそりした体型。
銀髪とアメジスト色の瞳。
ノーストレスの生活で皺なども全くない。
普通に考えればすぐに女の子がひっかかりそうなものである。
しかし
「俺に合う女の子はなかなかいないんだよな」
理想が残念なほどに高かった。
本音を言えば、グランディア王国の女王陛下ぐらいが妥当な線だと本気で思っている。マジで。
それ以外の女の子を女とは見えない。そんな事を言ったら不評を買うので言わないが。
だから今までノースには彼女ができなかった。
でも、今回の出来事で自分の理想を極端に低くして、本気に彼女を作ろうと思った。
ノースはまずギルドに向かった。
ギルドに着くと、昨日の醜態などなんのその。カミラが受付でいつものように仕事をしていた。
ノースは順番を待って、カミラの前に行く。
「おはよう」
「あら、ノースさん。もう敗北宣言をしにきたのですか?」
「何を言ってるんだ。俺は今日から本格的な彼女捜しをするので、一週間ほどお休みを貰いに来たんだ」
「はあ。冒険者基本、仕事をしたい時だけギルドに来るものなんですけどね。休みを取りに来る冒険者を始めて見ましたよ、ギルドのお局様は」
「俺の場合、来たい時に来るとすると、半年ぐらい休んじゃいそうだからな。取りあえずギルド長に伝えといてくれ」
「はいはい」
カミラは適当に受け流す。
ノースが言ってるのは、ハンバーガーショップの新人アルバイトが社長に休みますと伝えて欲しいと言ってるようなものだ。
誰も伝えようとはしないだろう。
「では、道ゆく女の子たちにナンパしてくるから」
「ノースさん、ズルはダメですからね」
「ズル?なんのことだ?」
「いえ、しようとしても出来ないでしょうからいいです。
頑張ってくださいね」
冒険者を送り出して十数年の完璧な『頑張ってくださいね』でカミラはノースを送り出した。
ノースは鼻息を荒くてして彼の戦場へと赴くのだった。
グランディア王国の王都グランディアは、四方を巨大な壁に覆われた城塞都市である。
壁の中には5万人ほどの人が住んでおり、何処も彼処も活気づいていた。
壁の外には強力な魔物が闊歩しており、日々冒険者たちが魔物を狩って、その素材を売って暮らしていた。
冒険者が売った素材を元に武器や防具を作る者。彼らの衣食住を満たす者。彼らの家族。彼らを癒す者……。
王都グランディアは冒険者によって回っていると言っても過言ではなかった。
そんな冒険者が街で女の子に声をかければ大体がなびいてくれる。
だが、ノースが女の子に声をかけてもなびいてくれる女の子は皆無だった。
少し速歩きで女の子がノースの前を通り過ぎる。
20歳ぐらいの髪の長い女の子。
ノースは次のターゲットに彼女を選んだ。
「ねえ、ちょっといいかな」
ノースは背後斜め45度の所から声をかける。
女の子が振り向く。
「よかったら、これからお茶でもしない?」
「嫌よ」
「どうして?」
「昼間から仕事をしてない男についてくバカはいないわよ」
「そうなんだ……」
彼女の言葉から女の子に声をかけるのを昼間から夜に変えた。
そして3日が過ぎた。
戦果はゼロだった。
3日目の夜に声を掛けた子はたまたまノースの知り合いだった。
「あら、ノースさん。こんなところで何しているの?」
「これから一緒にお茶でもしてくれる子を探してるんだ。コヨネちゃんはどう?」
「お茶ぐらいならいいけど、おばあちゃんがあんまりノースさんと付き合ってはダメだって言うの」
「なぜ!俺、コヨネちゃんのおばあちゃんと大の仲良しなんだけど!」
「知ってる。おばあちゃんちの屋根を直してくれたのも、庭を整備してくれたのもノースさんなんでしょ。おばあちゃんもとても喜んでいたよ」
「それじゃあおばあちゃんはなんでそんな事を言うんだ?」
「だって、ノースさんはいつまで経ってもE級冒険者なんでしょ。
将来性のない人とは仲良くなっちゃいけないって」
「そうか」
思いがけない自分の評価にノースはがっくりと肩を落とした。
「あっ、そうそう。ここら辺歩いている人は大体がノースさんのお世話になっている人だから、誰に声をかけても同じだと思うよ」
コヨネちゃんは元気良く手を振ってその場を立ち去った。
ノースは仕方なく別の方法を考えることにした。