陸
“私”は眠っていた。
“私”は眠っている。
“私”は眠りについていた。
オト。おと。物音。
“私”が目覚める。
“私”は目覚める。
“私”は目が覚めた。
“ソレ”ガメザメル。“ソレ”ッテナニ?
アレ。ソレ。コレ…。
ドン!!
激しい揺れに跳ねあがる。
“私”は部屋の扉を空けて甲板に向かった。
絶句。
海賊?砂族というのだろうか?
砂上船の上はならず者たちがいっぱいいた。
船員の何人かは動かなくなっている。
死んでいる?
死んでいる死んでいて死んでいた。
ウゴカナイウゴケナイコワレテイル??
ワタシモ……コワレル???
愕然とした。
夜なのに。夜なのに。夜なのに。
蜃気楼は出ないはずなのに。出ないハズナノニ。デナイハズナノニ。
マブタヲトジルトソノオクニ、
なんでナンでナンデ、ウミガミエルノ?
誰かの思い出? 誰かが故郷を思ったの? 誰が?
「オレがぁぁぁぁ」世にも恐ろしい声。
後ろから首を締め上げられる。
「みつけちゃったぞおぉぉぉぅぅぅっっ?? んん~~~? 」引き寄せられる。酒臭い息。
「見つけたぞオレの“いとしいしとぉぉ”? 」
へへへへっ。その髭面の男はニヤリと笑った。
隣の男が「へへっ。上玉じゃないですか船長! 」と呟く。
「へへへへっ」薄れる意識。
「男か女かしらねぇが……どっちにせよたっぷり可愛がってやるからよぉ? 」
男か女か知らないが? オトコかオンナかワカラナイが。
オトコカオンナカ? オトコデモオンナデモナイ?
「ひ」
ワタシはサケンダ。
「嫌ァァァァァァッッ!!!」
ワタシは見た。
月の上には兎が跳ねている。
全然関係ない。だけどオモシロイ。
タノシイ光景ダ。デモ。イマハ、タノシクナイ。
ズパァ!!!
「え?」
“私”は唐突に自由になった。
首に食いついた「なにか」を外す。
人間の……うで……ウデ……腕……!!!
「ヒィィィィッッッ!!!! 」ワタシハサケンダ。
「ギァヤァァァァアアアアアァァッッ!!! 」オトコの声。
「大丈夫かい? お嬢様? 」へへっ。と声。
顔を見上げる。“彼”だ。
「呼ばれもせずに、騎士様登場!! かな?」ニタリと笑う。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
"彼"に腕を斬られた男は残った鍵爪のついた義手を振りかざし。
悪いな。と“彼”。
銀色の光。松明の灯りの反射?何故?
「あんたを殺すのに時間はかからない」
いつのまにか抜いていた刀をパチンと納める。
一度に男の胸から黒い闇が噴出 ……血!!!
血? ち? チ? チチチちちちちいっちぃぃぃ―――!!!
がたがたと震える“私”。
“彼”はニヤリと笑った。
「まぁ安心しな。“ちょっと眠っている”だけさ」
「新鮮組!! 零番隊!! ……前へ~~!!!」“組長”さんの声。
何処にいたのか電気発生装置のついた刀を持った少年。
遠眼鏡のついた火縄銃を握った少女。
手製の炸裂玉をもった髪の長い女が何人もあらわれる。
そして海賊(砂族?)達と激しく戦い出した。
少年が刀を片手に疾る。
少女の放った銃弾には仕掛けがあったらしく、
目潰しの雲につつまれた海賊たちがのた打ち回る所に、
情け容赦無く炸裂弾をぶつける年増の美女。
悲鳴を上げて砂の海に落ちた海賊をみた。
彼は必死で助けを求めるが、砂は水のように粒子が細かく、重くまとわりつき、やがて沈んでいった。
“私”が驚いたのは。
“彼”でも“組長さん”でもなかった。
“彼女”の格好。
……あのワンピースではなかった。
身体にぴったり吸いつくような独特の服…鎧?よくわからない。
そして“彼女”が持つ。ライフル。
“彼女”は無言でライフルを構えると、
……立ったまま引金を引く。
衝撃音。
はるかとおくで海賊の頭が胴体ごと吹き飛んだ。
吹き飛んだ。飛んだ。コワレタ。コワレタ!!!!
びちゃ。びちゃびちゃ。
「ひぃぃぃぃっっっ!!!!! 」ワタシハサケンダ。
海賊は鎮圧された。
海賊達の死体は気がつくと「消えていた」。
“彼”がいうには“あるべき世界に戻った”とのことらしい。
「彼らの存在は人を殺せることを除けば夢と変わらない」と“彼”。
「連中の魂が夢の中から抜け出て、
別世界――つまり、ここだ。 ――で像を結んだだけだからな。
連中の身体も幻影みたいなもんさ。時が経てば、消える」
「本来の意味で奴らは死んどらん。
まぁ“死”の記憶は確実に寿命を削ってはおるだろうがな」 と“組長”さんが呟く。
それに。と“彼女”が続けた。
「かんがえてもみなさい。“蜃気楼”が喋ったり人を殺せるはずが無いじゃないの?
“ありえないこと”なのよ」
……。
「“私”が死んでも。……ですか」
彼らの説明によれば、
海賊達は「本来の世界で夢を見ている」だけらしい。
なら、“私”がこの場で命を絶てば、
暖かなベッドで目が覚めるのではないか?
彼らは首を振った。
「“結びの鍵”を持たない人間は、死んだらそのままさ」
「試したことはないぞよ。ぞっとせんしのう。
鍵を持たぬものは“今いる世界”の者として扱われるようじゃからな」
“彼女”は言った。
「せいぜい死なないことね」