壱
腕を振り回し、意味無く足踏みをして、鼻歌を歌う"私"に"委員長"と"呪術師"は愉しそうに微笑む。
悪い気はしない。"委員長"は"私"の歌に合わせて蛇の皮で出来た三線を鳴らしてくれる。
三絃しかない楽器は易々と弦が緩む。彼はその弦をワザと緩ませたり強め、調弦しながら巧みに弾く。
「美しい街だな」
"彼女"がそういうだけあり、小さなこの『世界』はこじんまりとした街となっている。
農業などは完全に別の『世界』の輸入に頼っているらしい。この『世界』の主要産業は『治癒魔術』そのものだ。"私"が受けた傷程度ならばほとんど無償で癒してくれる。
「一応、この世界から見ればめずらしいものをお礼に渡したぞ」ふむ。"彼"の言葉に頷く"私"。
「星の小便だが」……。誰が欲しがるのだ。そのようなもの。
「いや、ミルクに小さな星屑が舞うような見た目と、絶妙な味と、そもそも不潔でも何でもないんだが」
いや、流石に飲尿の話をされても。
春風が"私"達の頬を撫で、さわさわと音を立てて露店の軒先を通り過ぎていく。
穏やかな日差しが二階から三階ほどの高さの集合住宅である白い建物達を輝かせ、青々とした花や薬草に命の息吹を。
花の香りは遠くにまで届き、"私"の心を癒してくれる。
人々の表情は明るく、優しく。回復魔法の祝詞でもある歌声の絶えない街。
「いい国だな」"私"がそういうと"彼"らは眉を顰めた。
「どうした」「いや」「なんでもないわ」「なんでもないのじゃ」「そうそう。"私"さんには関係ないしね」「早くこの国を出よう」
"呪術師"。もう少しこの国に滞在したい。そう伝える"私"に彼女は眉を顰めて見せた。
「お勧めしない」なぜだろう。
"私"は小首を傾げると、『首』で一つの事に気がついた。
「"彼女"さん」「なんだ」
首だけの"彼女"だが、この世界の治癒術をもってすれば他の『身体』を再生できるのではないだろうか。
その考えに至った"私"は"彼女"にその事を伝えたのだが。
"彼女"さんは美しい。
首だけしかないが、そのつややかな黒い肌、人形のように整った顔立ちは他に見ない。
加えて白く、細く、長い髪。
その首の下は生物か機械か分からぬ『鎧』によって支えられている。この『鎧』が"彼女"の身体の代わり。
「結論から言えば、私は『呪われて』いる。呪いを与えた連中や『神』を滅ぼさねば身体を得ることは出来ない」
しかし、断片を甦生できるのだからと伝えると。
「恐らく、腕を再生すれば『奴ら』の側にもう一本の腕がボトリとおちて終わりだ」……。
「すみません」「かまわぬ」謝る"私"に"彼女"は微笑んでくれた。
容姿を言うのならば、他の人間達も不思議である。
"委員長"は黒い帯を腰に巻き、白いズボンと胸の開いた『道着』を来ている。
"組長"は鎧の上に羽織を着ており、その背には『誠』と描かれている。
胸の大きく開いた。むしろその先端が見えるか見えないかという服を好む"呪術師"。警邏に通報したいところだ。
そして。
「何故ブラジャーをつけていらっしゃるのですか」私の質問に。
「いや、これは大胸筋サポーターだ」と"彼"は何気なく応えた。
大胸筋というほど、筋肉質ではない。
「いえいえ。今日は赤でフリルまで」"私"の下着より豪華だ。
胸の大きく開いた羽織に『大胸筋サポーター』が見える。
加えて二本の剣を腰に差し、片方は曲刀。片方は直刀。
"彼"の羽織る羽織。これも不可思議だ。
袖の部分は瓦斯灯や山高帽の紳士の影絵が描かれ、背には全裸で処刑された血まみれの女性や首を釣った挙句首がもげかけている男、切断された首を咥えて走る犬。死体に群がる鴉が描かれており、処刑場を表す凄惨な羽織。
戦闘になると何処からともなく羽織の下に青みを帯びた甲冑が現れる。
「ええと。あまりこういう事は言いたくないのですが」"私"は"彼"に告げる。
「悪趣味です」「歌舞伎武者に何を今更」「じゃの。拙者と違って"彼"殿はそれじゃ」
同じ『夢を追う者達』でも『歌舞伎武者』『ランツクネヒト』は奇抜な服装と自由な行動を好むらしい。
自由にも程がある。




