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異世界冒険奇譚 月狂の歌  作者: 鴉野 兄貴
第四章。誰も信じてはいけない

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53/65

第四章。誰も信じてはいけない。了。

投稿遅れてすみません。

 「イシ(宝石)よ。戻って来い」 嫌だ。嫌だ。イヤダ。

"私"を掴む腕の力は強く、忽ち引きずり込まれるが。


 「『闇の炎』」長身の美女がさせじと放った『魔法』が不可解な作用を起こしたらしい。

爆発する光。"私"の周囲を恐ろしい勢いで流れる。世界。世界。世界。世界。

"私"さんっ?! 楽器を持った少年が叫んだ。彼の手は、"私"には到底届かず。

チリチリ頭の少年や、"彼"の手も。また届かない。

黒い肌の美しい少女。"私"は貴女と何処で出会ったのだろうか。


……。

 ……。


"私"は。誰だ。"私"は誰だ。



 "私"は。自分を知らない。何者かも興味が無い。

ただ、ご主人様に御奉仕する。それが"私"達奴隷の生きる道。


 何かを口に咥える不愉快な音が響く。

ご奉仕を行うべく、"私"達はご主人様に近づこうとするが。それは叶わない。

"私"達には腕も脚も存在しない。芋虫のように背中を動かして悶えることしか叶わない。


 何人もの新入りが入ってきては、飽きられて寝台の外に蹴りだされる。

蹴りだされた女は。ブクブクに太った獅子が美味しそうに。食べる。食べる。

その様子をご主人様は楽しそうに見ている。

新入り達は気絶したり発狂したり慄くのだが。"私"はそうではない。

ご主人様が仰るには"私"は余計な記憶は頻繁に失う。らしい。

"私"はご主人様に奉仕する女の中では一番の古株で、ご主人様の一番のお気に入り。らしいが。

覚えていない。興味も無い。


 ご主人様を他の手足のある奴隷の助けを借りて愉しませる。それだけが"私"の仕事。

飽きられたら。寝台の外に。


 仕事は。愉しいか。愚問だ。そもそも愉しいか辛いかと言う感覚すら。忘れた。

時々辛いのか愉しいのかわから無いほど。彼は"私"を。いや言うまい。


 だが、人と言うのは飽きるものだ。

だから、"私"が寝台の外に蹴りだされたのは。順番が回ってきただけという認識だった。

ブクブク太ったデブライオンが涎をたらしてやってくる。この獅子はあまりにも太っていて、腹がはげている。


 胴や首を少し動かすことしか出来ない"私"だが。

獅子が迫る足音は。解る。

豪奢な部屋。明るい照明。この状況でも一流の楽士の奴隷たちが奏でる音楽。そして宝石の光。

"私"のつけていた宝石が妙な光を放った。


 「こんなところにおったのか」

ライオンが苦悶の声をあげる。"私"の前に立った男の声は少年の声。

首を何とか上げると、剣を持っているのが、見えた。


 「豚の分際で拙者と闘えると思っておるのか」

分厚い脂肪で阻まれ、致命傷には至らなかったらしいが、その少年は愉悦の声をあげる。


 「よう。久しぶりだな」

愉しげな声。この声。"彼"の声は。聞いたことがある。はずだ。

ご主人様の悲鳴が上がる。楽団のかき鳴らす音楽はご主人様への鎮魂歌だった。


 ぱらぱら。ぱらら。

黒い肌の少女が持つ黒い塊から放たれる銃弾は次々と兵を倒していく。

"私"は楽器を持った少年の背に。括りつけられている。


 「きりが無いな」

長身の美女は苦笑い。両手を掲げて黒い塊を放つと、兵士たちが次々と吸い込まれ、ブチブチとその肉体が砕けていくのが見えた。

 「飛び降りろッ 」女性の声と共に"彼"らは飛び降りる。

あやうく地面にぶつかるところ、"呪術師"と名乗った長身の女性が変化した巨大な鳥が掬う。


 「しっかり。捕まっていろ」

捕まる腕など無いのだが。"私"は"彼"にそう呟くと"彼"は苦笑した。

「相変わらず、冗談が巧いな」"彼"は"私"の知り合い。なのだろうか。


 「ああ、僕らは君の友達さっ?! 」

"委員長"と名乗った少年が大笑いしながら"私"にそうのたまった。

ともだち。だと?


 「いこう。冒険の旅に」

冒険。ぼうけん。ボウケン……。



 キラキラと輝く太陽の下を飛ぶ大きな鳥。

私達の眼下に不思議な神殿が見えた。


 「次に向かう世界は。『人の痛みの解る世界』だっ! 」セカイ?

そこでお前の手足を再生する。そういわれた。手。足。


 手に。筆を持ち、楽器を持つことができるのか。

足に身体を乗せ、風と共に駆けることができるのか。

それは。どれほど素晴らしいだろうか。

"私"の口元が動くのが解った。


それは。たぶん。『微笑み』と人が言うモノだったに違いない。

次回予告。

『人の痛みの解る世界』。

あらゆる世界で最も医療技術と回復魔法に秀でた世界。

しかし。その世界をあえて滅ぼさんとする者がいた。


次回。『人の痛みの解る世界』。

お楽しみに。

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