玖
この。感覚は。なんだ。
冷たい。ツメタイ。ツメタイ……。
誰かが闘っている。誰かが叫んでいる。誰だ。ダレダ。ダレナンダ。
小さな小さな赤い星の上、身軽に動き回る五人の戦士たち。
低重力と、この星における構造物の脆弱さ、住民の非力さに対して、四人の戦士の力は圧倒的だ。
加えて様々な兵器を切り伏せ、兵士を倒して前に進む。
四人の戦士の前に誰かが立ちふさがる。
大斧を持ち、ツメタイ笑みを浮かべて軽々と大地を砕いて空高く舞い上がる戦士。
ああ。この大斧を持った戦士は。"私"だ。
「おいっ?! 正気を取り戻せッ?! 」
"彼"が叫びながら短い剣を抜く。厄介なことにこの剣は刃は短いが握りが長い。
そして"彼"の剣は"組長"ほどではないが『抜くと同時に斬りつける』嫌らしい動きをする。
正気を取り戻せというが殺す気だろう。"私"は斧の刃を舐める。
「"私"が正気かどうか、その剣で確かめてみろ」
頭上で激しく回転させ、軽く宙に舞い、一気に横に振りぬく。
激しく回転し、何十メートルも飛んだ"私"の斧は易々と岩山を砕き、赤い土くれを砂粒に変える。
「チッ 」
"彼"は舌打ちして"私"の斧をかわし、手元から幾重もの細い刃を投げつける。
細い刃は光を湛えて振動しつつ、大気を砕いて"私"に迫る。無駄だ。
「ハッ 」
気合一閃。それを気のみで防ぐ私に小型核による手榴弾が殺到。
その爆発を飛び越え、"彼"に迫る。
重力など、無い。あっても"私"と"彼"の間を縛る力など無いも同然。
ただ、愛撫をするように刃を振るい、唇と舌を交わすように剣を絡めあわせ、突きあい、たたき付け合う。
剣と斧が火花を散らし、炎が肌を焼き、氷が微笑みを砕いて土が舌を麻痺させる。それは私達二人だけの世界。
「なかなか」「やるな」
私たちは剣をかわしつつ微笑みあう。こうでなければ面白くは無い。
「このまま、破壊しても良いんだが?! 」「やれると思っているのか。甘いな」
"私"の大斧は大地を砕き、その勢いで天に舞う。「アックスッ! 」
地から刀を構えて迎え撃たんとする"彼"に。
「ビームッ!!!!!!!! 」「斧関係ないっ?!!!!!!!!!!! 」
灼熱の光線を叩き込んで焼き払う。フハハハッ! "彼"がゴミのようだっ!!!!!!
「それくらいにしておけ」長身にして巨大な胸を持つ女。確か"呪術師"といったか。
彼女は妖艶に微笑むと高速振動装置のついた長剣を抜く。
「アナタ一人で勝てることはないわ」"私"の一撃で首だけになった"彼女"はなおも余計なことを喋る。
「無駄な抵抗は辞めるのじゃ」"組長"というチリチリ頭の少年と、
「ね。ね。"私"さん。帰ってきてよ」"委員長"と呼ばれる楽器を持った少年が"私"の心に何事か訴える。
五月蝿い。うるさい。ウルサイ。
五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ
「死ねぇえええええええええええええッ 」
"私"の斧は空を斬り、"彼"の剣は"私"の胴に吸いこまれていく。
え……。え……。
『失敗か』誰かの声が頭の奥で響く。
「戻れ。|イシ(石)」
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
いやだ。
黒い手が"私"の足を掴んだ。
"彼"の手が"私"に伸びる。
この手を。掴まなきゃ。離しちゃ。ダメなのに。
どうして、"彼"に斬られてしまったのだろうか。"私"は。
"私"の意識は。再び闇へ。




