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異世界冒険奇譚 月狂の歌  作者: 鴉野 兄貴
第四章。誰も信じてはいけない

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 「どうだ。もう追って来れまい」

舵から手を離し肩を張って強がって見せる"私"に対して髭面の男は地面にへたり込み、

「殺す気か」とだけ呟いた。


 「あいつらが殺す気だったからな」

なんだあの小惑星も壊す主砲は。


 「人質を使えばよかったのだ」「いや、その人質が率先して戦っていたのでな」

なるほど。俗に言う自己欺瞞的心理操作(ストックホルム症候群)という症状だな。

(作者註訳:この世界には『ストックホルム症候群』という精神状態を指す言葉はありませんが、代替できる言葉を考え付きませんでしたのでそのまま利用しました)


 「俺より舵の使い方が巧いとか、お前何者だよ」「"私"か? 宇宙海賊だが」

その言葉をきいて髭面の男は「寝る」と呟いてふらふらと船長室の外に出て行った。



 「寝ているところ申し訳無いのだが」「なんだ」

船長はお前だからな。おきてもらう。


 「舵が効かん」

"私"は舵を取ろうとするが、舵の力のほうが強い。

「貸せ」二人で舵を動かすが、もう一人の力が必要だ。


 「画面がおかしい」

"私"の指摘に彼は顔を青くさせる。


 「星が映っていない」つまり、それは。「ブラックホールだ」

重力場の一種で、光をも飲み込むという厄介極まりないものらしい。


 「おい、舵をきれ、とにかく逃げろ」「やっている! 」

「予備のエンジンを使えッ 」「逃げるぞッ」

修羅場になる船内で、髭面の彼が叫ぶ。


 「おいっ! きいていないぞッ! 金は要らないから辞めてくれっ! 」ん?

暗闇の中から。『声』が響いた。


 『イシ()(指輪)は我のモノだ』抜け駆けはするなと『闇』が語る。

その声を聞いたとき、"私"の身体が震えた。


震えが。とまらない。なんだこれは。ナンダコレハ。


 足首を。誰かが掴む。

足元に小さな黒い泉。そこから伸びた氷より冷たい手が"私"の足を握っている。


 「ヒィィッ?! 」

必死で蹴りをいれ、手当たり次第に掴める物を探す。

だが、海賊の仲間たちは恐慌状態にあり、私の腕を振り払ってしまう。


 「助けて。助けて。タスケテ」タスケテ。

"私"の爪は剥がれ、血が床を汚す。それでも私は床を引っかき、逃げんとする。


 氷より冷たい腕は、"私"を放そうとはしない。

「タスケテ タスケテ」


 "組長""委員長"。"呪術師"。クミチョウ? イインチョウ? ジュジュツシ? ダレ?

"彼女"。カノジョ? ダレ?


 誰かがニヤリと笑い、"私"の目の前で網を振る。ナニコレ。イツノ記憶?

「星は。掴めるんだ」シラナイ。知らない。アナタダレ?


 「"彼"……さん」皮肉げで、優しさの欠片もなく。それでいて寂しそうな笑み。

「助け……て」ワスレテハ。イケナイ。あの笑み。


血糊がすべり、"私"の身体は足元の小さな黒い異次元の泉の中に飲み込まれた。

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