参
「よく言う、“きおくそうしつ”って奴だろうな」
“彼”は呟くと両手を合わせる。「ご馳走様でした」
無言で頷く“彼女”。食器を片づける。
『きおく。そうしつ?? 』
違う。ナニかが違う。だって、だって……頭が痛い。
思い出せない。オモイダシタクナイ!!!!
“私”が頭を抱えているのを見ると、“彼”は。
「まぁ、言いたく無いこと、思い出したくないことならあえて思い出さなくても良いさ」と呟く。
「それとも、記憶が戻るかどうか、思いっきりぶん殴ってみるか?」へへっ。下品な笑み。
“彼女”は呟いた。「お前がお前にやれば良い。普段物忘れが激しすぎる」といって軽くはたいた。
そして“彼”は呟いた。
『なぁ。ご馳走様してなんだけど。……おかわりしていいか?』
ニヤリと笑った。
片づけを終わらせていた“彼女”は嫌そうな顔をしなかった。
能面のような、人形みたいな。……ニンギョウ?
人形。人形。彫像。彫像。作り物。ツクリモノ。マガイモノ!!
『ひっ…』
“彼女”は“私”を一瞥すると…。
……気が付いたら、また猿轡がはめられていた。
「まぁ“お前さん”はわかって無いだろうが」
“彼”はそう言ってのけると『よいしょ』と立ちあがった。
テーブルがあるのに何故か床の上に木の繊維(?)で出来た座布団?を敷き、
その上で膝を折りたたむ様に座って食事をしていたのだ。
「『繋ぎの門』の前に“お前さん”は倒れていたんだ」……ゲート?
「血まみれでね」と“彼女”。
“彼”は続ける。
「一応捜索願いをあたってみたが、お前さんを指すとおぼしき依頼はなかった」・・・依頼?
でだ。と“彼”は続ける。
「多分お前さんは“別の世界”から来たんだろうと判断した」“別の世界”?
「なにも覚えていないみたいだな」“彼”はため息をついた。
「お前さんの着ている服はこの『世界』では取れない繊維で出来ている」???
「そして、“貴方”は“繋ぎの門の鍵”になる品を持っていない」これは“彼女”。
“私”が不思議そうな顔をしているのをみて、“彼女”。
「“リンクゲートアイテム”ともいうわ。その人の所属する“世界”と“その人”を結びつける印」
テーブルの上の茶を立ったまま掴んで飲む“彼”。
「所謂“神隠し”って奴だな」
たまにある。そう呟いて茶をすすった。
“私”は震える声で呟いた。
「神…隠し・・・」
「神…隠し」
“私”が呟くと“彼”はうなずいた。
「おれたち冒険者は様々な世界を自由に行き来できる。
何故なら“繋ぎの門の鍵”をもっているからだ。
“鍵”は…わかりやすくいえば家の鍵みたいなもんだ。
家の外に出る時も、入るときも、使うだろ?」
ボウ…。ケンシャ・・・?
でだ。と“彼”は続けようとして。
「…なにも知らんようだな。冒険者って言うのはまぁ。
“なんでも屋”に近い。もっとも“少々”荒事に分類されるなんでも屋だがな」
“彼女”は続ける。
「偉大な冒険者集団のチーム名から、
“夢を追う者達”とも言うわ。
見果てぬ夢を求め、誰からの保護も受けることもならず、さまよう自由人」
「夢を……追うもの……」“私”は呟いた。
「ドリーム……チェイサーズ……」
「この場合重要なのはだ」“彼”。
「おれたちは“世界”を自由に出る事が出切る。同時に帰って来れる」
“彼女”が続ける「でも、“あなた”は」
……もとの、世界に、帰れない?
ふたりはうなずいた。
「もともと『世界』同士には鍵がかかっているようなもんだからな。
出る時は必ず鍵をかけ直して出ていく必要がある。そうで無いと帰ってこれない。
正確にいえば“自分の世界に自分の存在を覚えていてもらう”かな?」
「ちょっと違うと思うけど?」「そか」“彼”に“彼女”が突っ込みを入れる。
「“あなた”は言ってしまうと、家の窓から飛び出したようなもの。
一度出ると、“家”が知らずに鍵をかけてしまう。そして正式な扉をつかって」
帰ってこれない。鍵を持っていないから。
……ふたりは無言で頷いた。
「まぁ安心しろ」“彼”は言った。「帰る手段はある」
「“門以外の方法”はあるわ。数少ないが」これは“彼女”。
「ほうほう?」“私”がいうと“彼”はニヤリと笑った。
「外に出て…見てみな」そと?
「面白いものが見えるぜ」
“私”はきしむドアを開けた。
床も壁も、みしみし言うほど古く、あちこち穴があき、
オイルやワックスを塗っていない為、木の棘が出ていて裸足では危ない。
なにか―――きぃきぃという ―――激しく不愉快な音に顔をしかめる。
船の中らしい。独特の揺れ、腐った海草の匂いからして間違い無い。
だが……船の中にしては。空気が乾燥しすぎている??
その疑問は甲板に出た時に氷解した。
「あ……。ああ……」
ぎいぎいという音。
ぎらぎらてりつける太陽。
そして。……はるかかなた、何処までも続く……砂丘。
舷側から下を見るとざぁざぁと。
……細かい。水のように細かい砂がまるで海のように激しく動いている。
砂は絶え間なく動き、一部では渦を巻き、あるところでは激しく波打つ。
砂上船。
いつのまにか隣にいた“彼”が呟いた。
「これからもっと面白くなるぜ。期待しな」