表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険奇譚 月狂の歌  作者: 鴉野 兄貴
第一章。てのひらのなかの銀河
4/65

□■□■□■□■□■□■□


 小さな寝息。

“彼女”は小さく口元を拭うともう一度カップの水を口に含み、軽く口をゆすいで。


 ペッ。

床に飛ばした。


 “気が付いたらしいな”扉が開く。若い男。

胸の大きく開いた奇妙な服。そこから薄い胸板が見える。

小柄な身体。体長のわりに大きな肩幅。長い胴。短いが締まった手足。


 白い、黄色い肌。闇のように、艶やかな黒い髪。

混沌の渦のようなくらい瞳。

いやらしい下品な笑み。腰には長柄で刃の短い変わった刀。


 “で。……男か?女か?”

手が伸びる。“彼”はニヤリと笑った。

“賭けはおれの勝ちだろ?”


 “彼女”はピシャリ。と“彼”の手を払った。

“乗った覚えは無い。お前が勝手に言っただけだ”


 手を押さえながら“彼”。

「まぁそうだけどよ」


 品性の無い笑み。

「どっちにせよ。こいつぁ高く売れるぜ」


□■□■□■□■□■□■□


 “出来たわよ”温かいスープ。変わった味。茶色い粒粒が中で漂う。

白い四角の…柔らかい何かが浮いている。あとは海草。貝類。

不気味なので上澄みだけ飲む。温かく、おいしい。


 深く小さな器に入った白いライスは妙に柔らかく、ふわふわとした食感。

傍らの小さな容器の中のものを口に含み、噛むとポリポリと音が立つ。よく解らないが漬物。

焼いた魚。塩味が美味しい。よく解らない糸引く腐った豆は残した。


 “いただきます”と呟く“彼”。手を合わす奇妙な仕草。

“彼”は食事を手早く終えると、茶を自分の食器のその中に注ぎ、

(緑色の、高い茶だ。いや。そもそも茶という存在自体が珍しい)

二本の棒を器用に片手に持って漬物をつまむと、器に塗るようにして中を洗い、茶を飲む。

『私』が残した糸引く腐った豆を無言で掴むと・・全部食べてしまった。

 同じ様に茶を入れ、漬物で中を洗って飲む。


 器を『私』と“彼”に配っていた“彼女”はいつのまにか食事を終え、

食器と米を入れた奇妙な植物繊維で出来た篭を片付ける。


 『で。なんだ』彼は口を開く。

『“あんた”なにもんだ?』


答えられなかった。


 “わたしは。……私は”

答えられない。答えられない。コタエラレナイ。

 何でなんでナンでナンデ?


 “い……”

怖い。怖い。自分は私はワタクシはアタシは君がアナタが彼が神が……。

ナニ? ナニ? ナニが無い? ナニ? ナニ? ナニがナニ?


 私が。ナニ?

“いやぁぁぁっぁぁぁっぁぁ!!! ” 叫ぶ。

……気が付くと両手両足を“妙な縛り方”で縛られていた。


 “彼”は呟いた。“驚いた”

『錯乱してるぞ?コレ?』


 一つ分かった。ワタシは。

胸の奥で、冷たい“ナニカ”の感触。

『ピシ』嫌な音。



 ――――“コレ”なんていわないでぇえぇぇぇ!!! ――――泣く、叫ぶ。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

“コレ”なんて “コレ”なんて “コレ”なんて!!!

――――呼ぶな!!! 呼ばないで!!!! 絶対に!!! いや! いや!! イヤァァァ!!!! ――――


 “止めろ。亀甲縛りなんだから。

暴れると“色々なトコを”絞めるぞ…それとも変な趣味があるのか?”


 股間と胸と首と手足に激痛。特に背中が痛い。

『まぁ“お前さん”とでも呼んどくか。名前を思い出したら言ってくれや?』


 それが“私”と“彼”と“彼女”の出会い。

短いが、忘れがたい。忘れたくない! ワスレタクナイノ!! コノオモイデヲ!!!

 消えない。キエタクナイ! 永劫ノ彼方ニキエルナンテタエラレナイ!!


そして、別れの物語。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ