壱
突如。扉が開いた。
若い娘だった。血にまみれた『私』の手を見る。
黒い肌。白い髪。小柄だが締まった肢体。
やや小さめだが上向きで谷間のくっきりしたかたちの良い胸元。
上背と胴体のコンパクトさの割には大きめの腰骨。
そして、ちいさなちいさな。整った美しい……が能面のような顔。
女性? 少女? 子供? 大人? 老婆? 赤子?
ワカラナイ。全てを持っているような。全てが無いような雰囲気。
“気が付いたようね”
“彼女”はそう言った。
“彼女”の着用している赤い服。
片方の肩だけで全体を吊るしているワンピース。
赤い?赤黒い?
ぱらぱらと粉が飛んでいるのに?染料ではない?
血。
血。ち。チ。
――――血ィィィーーーーーッッ!!! ――――
“彼女”は暴れる『私』に猿轡を噛ました。
“舌を噛むわよ。落ちつきなさい。”
なおもあばれる『私』を"彼女"は小柄な体躯からは信じられない怪力で殴り飛ばした。
“静かにしなさい”
『私』は静かになった。
痛い。殴られた頬に指を当てる。
……痛い。いたい。イタイ。
コレがイタイ。アレがイタイ。ワタシの頬が痛い。
イタイヨ……。涙を流す。
“凄い血だった。何故生きているのか。私にもわからない”
“彼女”はぶっきらぼうに言いきった。
“もう傷は無い。安心しろ。死にはしない”
そして傍らのカップに手を伸ばす。
“それから安静にするのだな”
カップの中の液体を口に含む“彼女”。
大きな音を立てて震える『私』にゆっくりと近づく“彼女”。
彼女は『私』の顎を小さく親指と人差し指の第弐関節で持ち上げ。
“彼女”の唇が『私』の唇に触れた。
“彼女”の舌が『私』の唇に触れる。そして『私』の前歯の間に侵入する。
“彼女”の咥内からとろりと流れる…苦い。水の味。
ごくり。
……眠くなった。
柔らかい舌の味。
苦い水の味。
そして強烈な眠気。
『私』は瞳を閉じた。