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異世界冒険奇譚 月狂の歌  作者: 鴉野 兄貴
第一章。てのひらのなかの銀河
3/65

 突如。扉が開いた。

若い娘だった。血にまみれた『私』の手を見る。

黒い肌。白い髪。小柄だが締まった肢体。

やや小さめだが上向きで谷間のくっきりしたかたちの良い胸元。

上背と胴体のコンパクトさの割には大きめの腰骨。


 そして、ちいさなちいさな。整った美しい……が能面のような顔。

女性? 少女? 子供? 大人? 老婆? 赤子?

ワカラナイ。全てを持っているような。全てが無いような雰囲気。


 “気が付いたようね”

“彼女”はそう言った。


 “彼女”の着用している赤い服。

片方の肩だけで全体を吊るしているワンピース。


 赤い?赤黒い?

ぱらぱらと粉が飛んでいるのに?染料ではない?


 血。


血。ち。チ。


――――血ィィィーーーーーッッ!!! ――――


 “彼女”は暴れる『私』に猿轡さるぐつわを噛ました。

“舌を噛むわよ。落ちつきなさい。”

なおもあばれる『私』を"彼女"は小柄な体躯からは信じられない怪力で殴り飛ばした。


 “静かにしなさい”

『私』は静かになった。



 痛い。殴られた頬に指を当てる。

……痛い。いたい。イタイ。

コレがイタイ。アレがイタイ。ワタシの頬が痛い。


 イタイヨ……。涙を流す。

“凄い血だった。何故生きているのか。私にもわからない”

“彼女”はぶっきらぼうに言いきった。


 “もう傷は無い。安心しろ。死にはしない”

そして傍らのカップに手を伸ばす。


 “それから安静にするのだな”

カップの中の液体を口に含む“彼女”。

大きな音を立てて震える『私』にゆっくりと近づく“彼女”。


 彼女は『私』の顎を小さく親指と人差し指の第弐関節で持ち上げ。

“彼女”の唇が『私』の唇に触れた。


 “彼女”の舌が『私』の唇に触れる。そして『私』の前歯の間に侵入する。

“彼女”の咥内からとろりと流れる…苦い。水の味。


 ごくり。

……眠くなった。




 柔らかい舌の味。

苦い水の味。

そして強烈な眠気。


『私』は瞳を閉じた。

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