壱
「まさか、住人全員が言葉を話せない世界があるとは」
まだ殴られたおなかが痛い。情けも容赦もない一撃ほど情報量が増えるということらしい。
(これもあの一撃で判明した。この世界の成り立ちから歴史文化習俗まで理解できてしまった)
「"委員長"と『名乗った』青年はにこやかに笑っている」
「あんたがこの国の元首なのか」「(頷く"委員長"さん)」
「えっと、"委員長"さんはこの世界の現チャンピオンとして世界を治めているそうです」
「ふがふが」舌を噛み切ってしまい、ダンデライオン(たんぽぽで作った魔法薬)の御世話になってしまった"組長"さんが補足説明をしようとしたけど、後遺症でまだ喋れない模様。
"組長"さんが立ち上がると、いきなり"委員長"さんを殴り倒した。
"さっきのお返しじゃぁぁあぁっ!!!"という『言葉』が確かに聞こえた。
脚払いされて頭を撃っただけの"彼"と、武器を奪われて首筋を撃たれ、軽く昏倒させられただけの"彼女"と、
舌を噛み切って魔法薬の御世話になった"組長"さんや内臓が裏返るほどの一撃をもらった"私"とでは受けた情報量に少々の差異がありました。
"私"は組長さんと、二人にこの世界がこうなってしまった経緯を話すことになったのです。
……。
「何故その若さで、お前が元首やってるのかわかったよ」
"彼"は苦笑いしながらそう告げました。
想いのこもった『一撃』を国民全ての前で組み合わせることで、
もっともこの世界の事を想っている偉大な男を決めることが出来るのです。
"委員長"さんより強い大人の人は沢山いましたが、
"委員長"さんより政務に関しての考えやこの世界への愛を拳に込めることの出来た人はいなかったそうです。
「脳みそ筋肉すぎて、政治がダメだったんじゃないのか。他の参加者は」それもあります。
「しかし、はた迷惑じゃな。誰じゃ。喋れない世界なんかにしたバカは」
やっと喋れるようになった"組長"さんは砕けた顎の回復状況にまだ違和感があるのか顎をしきりに撫でています。
「しかし、強いな。私のマガジンを人知れず奪うとは」
無表情な"彼女"さんが明らかに驚いてます。「盗賊の真似事もできるということか」
"委員長"さんは不敵に笑いました。そして拳を構え。
「もういいっ! 」私たちは大声で叫びました。