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異世界冒険奇譚 月狂の歌  作者: 鴉野 兄貴
第一章。てのひらのなかの銀河
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 “食事”を終えた“私”は一人で寝台に座り、

なにかする事も無く床の木目を見ていた。


 時々。壁の隙間から鼠が走る音がする。

やがて空気と気温の変化から、夜が訪れると分かる。夜が来たら、寝る。だけだ。


 “彼女”がたらいとお湯を差しいれてくれる。

が。入浴は、していなかった。


 「ちょっといいかい」“彼”が入ってくる。

「…夜這い。で、す、か?」少々不安になる。語尾がどもった。

だとしても少々時間的に早いかもしれない。


 「ははははは」“彼”は笑った。

「メシは食ったか?」“彼”の問いに、


 思わず、先ほどの“彼女”の柔らかい唇と、

おかゆとともに飲み込んだ“彼女”の甘い唾液の味を思い出し、耳まで熱くなる。


 「な、ん、とか……」と“私”はつっかえつつ答えた。


 「じゃ、ついてこいよ」と“彼”は言った。

「いいものを見せてやるぜ」


 “私”は甲板にでた。闘いの跡が生々しい。

“彼”は“私”を手招きする。どう言う訳か照明が無いのに、とても明るい。


 「上を見てみな」

“彼”は天を指差した。


 「わ…… ぁ……」

言葉が出なかった。


 ほし。ダイヤのような星。

ほし。光り輝く雨粒よりも輝く星。

ほし。命の光のように数え切れないほどの。

ほし。神話の英雄や魔物が天で織り成す星座の宴。

ほし。宝石箱をひっくり返したような星の河。

ほし。艶やかにきらめく明星。

ほし。天の涙かと思うほど溢れ、絶え間無く落ちる流星雨。


 ほし……!!!


 天を埋め尽くす煌き。

星座の英雄たちと同じ場所に“私”は立っている…。


 天を埋め尽くし、音も無く、絶え間無く落ちる流星雨の煌き。

はるか星々の世界。星座の英雄や淑女や怪物。


 「星が…… 」あとは言葉になら無い。

わたしたちは飽きる事無く、星を眺めていた。


 「な…いいだろ?」“彼”が言う台詞も耳にはいらない。

“私”は星の美しさに魅入っていた。


 あの一つ一つが、いのちの煌きなのだ。“私”は涙を流した。

掴めそうなのに掴めない。遠くて近いいのちの煌き。

やさしくひかり、ひとをてらす小さなまたたき。


 “彼”はにこりと笑う。「見な」

“彼”はゆっくりと天に手をかざす。

「よく。おれの手をみとけよ」


 いわれたとおり手を注視する。

“彼”の手がゆっくりと閉じられる。


 「……ほら」

“彼”が手を開いた。


 優しいひかりを放つ星々が“彼”のてのひらのうえに舞っていた。

「あ……ああぁぁぁ」

“私”は驚きを隠せなかった。

ふと天を見る。星の天幕の中、“彼”の掌のかたちの闇が小さく見える。


 「な」

続けて言う。


「星は…… 掴めるんだよ」

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