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婚約破棄前提の「悪役令嬢」になってほしい?上等です

作者: はぢてる
掲載日:2026/09/01

長編の投稿がまだ先になりそうなのでしばらく書き溜めてる短編を投稿していきます。


前半はシンディ視点、「****」以降はエリック視点となります。

「シンディ、どうか僕と正式に婚約してくれないか」


 そう言って頭を下げてくるこの国の第一王子エリックに私はにっこりと笑顔で答えた。


「ええ、喜んで」

「ほ、本当かい…!?」


 素っ頓狂な声を上げて飛び上がらんばかりに喜ぶエリックを私は固めた笑顔のまま見つめた。

 

 はぁぁぁぁぁ。

 はっ倒してやろうかな、こいつ。

 

 私と結婚する気など毛頭ないって宣言しやがったよ。


 公爵令嬢である私、シンディ・アトゥールと皇太子であるエリック・パルターとは幼い頃からの婚約者同士である。

 だがそれは正式に書面などで取り交わされたものではない。

 この国にはとある風習があるからだ。


 かつて、とある国の大貴族が陰険で高慢な令嬢との婚約を破棄し、別の女性と一緒になるという大事件が起こった。彼はその後、新しい婚約者と共に周辺の辺境伯たちをまとめて腐敗した貴族と横暴な王を廃し、自らが新たな王となってこの国を建国したと言われている。


 以来、この国ではその故事にあやかって男女が婚約する際は男性側があらかじめ「悪役令嬢」を用意し、その者との婚約破棄と共に真に愛する女性にプロポーズするのである。

 つまり、男は本当に添い遂げたい女性に結婚を申し込むために別の女性を引き立て役として用意するというわけだ。

 なお、引き立て役となる女性は高貴であればあるほど良いとされるーーそう、ちょうど私みたいな公爵令嬢がぴったりなのである。


 本来、エリックが私と婚約したいのなら先に別の女性を立てておく必要がある。

 この婚約破棄ばかりは本人がやらなければならないため、親も介入できないからこそ、両家の親たちは裏で約束を交わしながら、書面などで正式に約束できなかった。

 なのに彼は「悪役令嬢」を立てないで私に婚約を申し込んだ。


 これはつまりあれか。

 婚約破棄される「悪役令嬢」が私であって、エリックには他に意中の女子がいるということか。

 

 はぁぁぁ、頭かち割ってやろうか。

 

 正式な婚約ではなかったものの、親はずっと私達を婚約者同士として扱ってきていたし、彼も周囲から私を婚約者として扱えと口酸っぱく言われていただろうに。

 

 そうかそうか、私はお前にふさわしい女になるため色々なものを犠牲にしてきたというのに、お前がそう来るならこちらにも考えがあるからな。


 頭を切り替えよう。

 親には悪いが本人に悪役令嬢役をやってくれと言われた以上、この時点でもう婚約破棄されたようなものだ。

 なら私も私で新しい相手でも見つけてやろうじゃないか。


 故事の悪徳令嬢はその後、処刑されたとか追放されたとかキモカワ変態おじさんと結婚したとか諸説あるらしいが、慣習化した今はペナルティなどない。むしろ引き立て役になってくれた対価として金銭や代わりの縁談を用意して貰えるくらいだ。


 幸い、エリックは皇太子なだけあって周りに有望株がごろごろ転がっている。

 幼い頃から親同士が定めた許婚(仮)という関係性は周知の事実なためこれまでは寄ってくる者などいなかったがこれでも公爵令嬢として、後の皇后候補として心身共磨いてきたつもりだ。


婚約者がいないとなれば私だって逆ハーよ、逆ハー!


 …とか何とか思っていた時期が私にもありました。


「あの、殿下……?」

「ん?どうかした?」


 正式な婚約を申し込んできたあの日から、エリックが私の傍から離れてくれない。

 おかげで私が事実上フリーになったことを聞きつけた他の男共が尻込みして近づいてきてくれないではないか。見た目と中身だけはいいからな、この完璧超人は。


「ここ最近ずっと私と過ごしていますがよろしいのですか?他にお会いするべき人がいるのでは?」


 私を踏み台にしてイチャイチャしたい女がいるんだろ、ん?


「シンディとの時間を削ってまで会いたい人なんていないよ。なんてったって君と僕は婚約者同士なんだから」


 やめろ、イケメン!

 その眩しい笑顔をこちらに向けるな!

 見ろ、隙を見て私にアプローチしたそうにちらちら見てる騎士団長の息子とか第二王子とかが戦意喪失してるじゃないか。私だって……

 …いやいやいや、絆されるな、シンディ!

 こいつはもう赤の他人!

 こんな思わせぶりな態度取るのも全部後々婚約破棄するための助走みたいなもんなんだから。

 だから、そう。

 まだこいつ私に気があるんじゃないかとか思うんじゃない!


*****


 おかしい。

 正式に婚約してオーケーを貰った筈なのにシンディがどこかよそよそしい。


 僕はシンディのことが誰よりも好きだ。

 ひと目見た時からベタ惚れだった。

 誰にも彼女を渡すつもりはない。

 なのに彼女はまるで僕に浮気を勧めるかのような態度を取る。


 解せぬ。


 もしかしてあれか、もっと愛してくれという貴族独特の求愛表現なのか!?

 京都弁みたいなあれだというのか。可愛い。なんて愛らしいんだ、僕の婚約者は!


 前世であっさり命を落とした僕はこの世界で皇太子エリック・パルターとして転生した。

 なんか元々この体に入ってた奴があまりに邪法で魂弄りするやべー奴だったので見かねたこの世界の女神様が僕の魂と入れ替えたとかなんとか。


 そうして新たな生を謳歌しようとしていた僕だが、少々困ったことがあった。

 これまでのエリックと変わったことがバレないように彼の記憶だけ受け継ぐことになったのだが、彼がやべーことに手を染めていたおかげで魂が半壊していて一部引き継ぎに失敗したらしい。

 女神様がくれた「この世界で生きるための一般教養スターターパック」である程度補えたもののそれは言語や歴史といったもののみに留まり、流行や作法など一部の文化では恥をかきながら学び直すことになったのだ。


 もしかしてシンディに婚約を申し込んだ際にも何か不手際があったのか……?

 いや、だが無作法だったのであればシンディだってオーケーをくれる筈がない。


 やはり愛だ、愛が足りないのだ、もっとシンディに僕の愛を伝えなければ…!



しばらくはこんな感じのを投稿していきます。ジャンルとかは統一していないので読む前にタグとかから察していただければ幸いです。

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