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第50話 俺達の選択


南四局。オーラス。


もう点数表記は必要ない。


ただアガった者が勝利する。


4人全員によるリーチ、四家立直。


それは、誰もが手牌を変えることを許されず、

ただ山から牌を引き、

河へ捨てることしかできない究極の運否天賦……。

人はそれをギャンブルという。


卓上の4人が牌を拾い、捨てる。

ただそれだけの動作が繰り返されるたび、

実況席から、そして地球中、銀河中から歓声が沸き上がる。


その熱狂は銀河の彼方へ、無数の星々へと広がっていた。


(……聞こえる)(……ああ)


イーストとウエストは、牌をツモりながら微かに震えていた。

宇宙からの声。かつて自分たちが冷ましてしまった麻雀への熱。

それが今この辺境の星で、泥臭いギャンブルの果てに蘇っている。


・神宮司!赤井!勝てえええええ

・イースト、ウエスト宇宙一はお前たちだ!!

・あちいいいい

・これこれ!これこそ麻雀よ!!

・負けたらヤベえのにクソテンション上がるww

・おおおおおおおお


『誰かがツモるたびに、銀河中で歓声が上がっている!!

 この勝負、最早、一瞬も目が離せない!!』


「……神宮司さん、赤井さん」


(……これだ)(我々が見たかった景色は)


双子の宇宙人の瞳に、確かな「喜び」が宿っていた。


神宮司もまた、静かに微笑んでいる。

己が信じた麻雀の素晴らしさを、

今、全宇宙に魅せつけることができているのだ。


(……ま、めくり合い。

 赤井さんの言う通り、ギャンブル勝負になっちゃったけどね)


だが、赤井だけは何かを感じ取るよう、

顔色を一切変えずに、卓上を見つめていた。


全員のリーチが入って二巡後、

赤井がツモった牌を確認した瞬間、

実況席のシャケが息を呑む。


「……赤井さんが勝った」


赤井が引いたのは、待ち牌の一つ。

間違いなく彼のアガリ牌だった。


「……」


だが、赤井はアガリを宣言しない。

ニヤリと笑い、その牌を無造作に河へ叩きつけたのだ。


『どうなっている!!赤井が上がらない!!』


・はあああああ??

・なんでだよ!!

・ツモ見逃し????

・……嘘だろ

・親だろ?連荘できる


「……条件が足りないんです」


『条件?』


実況席で、シャケは赤井の真意に気付いていた。


「……今アガっても1着になれない」


『いや、親ですよね?連荘できますよ?

 それに裏ドラ次第で1着になれますし』


「俺にもわかりません。

 ただ、赤井さんは感じているんでしょう。

 裏ドラには期待できないと」


そう、赤井は感じていた。

自分以外3人の気迫、この流れで裏ドラは乗らないと。


そして、ここで連荘頼みのアガリを決めても

3人に飲み込まれる。


それは勝負師としての勘だった。


『Mリーグルールでは、一度ツモを見逃した場合、

 他人からアガる、ロンが出来なくなります。

 ……となると赤井が狙っているのは?』


シャケは間髪いれずに答えた。


「ハイテイです。

 最後の牌でアガれば、1翻プラスされる。

 赤井さんは最後にアガって勝つつもりなんです」


もはや、正気の沙汰ではないその選択。

確率の低い『最後の1枚でアガる』

そこに全てを賭ける。


これこそ、彼が言うギャンブルだった。


・地球が賭かってるんだぞww

・麻雀警察です、無期懲役確定で

・これが赤井なんだよなあ

・地球人、気が狂ってる

・一緒にすんなwwコイツだけだww


流局が近づいていく。


最後の一巡。

神宮司から牌を引いていく。


「……最後か……いい麻雀を魅せられたかな?」


ツモった牌を確認すると、ゆっくりと丁寧に牌を捨てていく。


続いてイーストの番。


「……地球人、感謝する」


彼もここまでと違い、じっくりと牌を確認すると、

名残惜しげに捨てていく。


ウエストの番。


「地球に来てよかった。麻雀はきっと蘇る」


彼が捨てると、ついに最後の1枚だけが残された。

ツモ番は親である赤井。


赤井を除く三名が笑顔を漏らす。

ここまで戦ってきたからこそ伝わる、勝敗の行方。

必然に近い結果を感じ取っていた。


赤井がゆっくりと手を伸ばし、最後の牌を握り込む。

親指の腹で牌の模様をなぞった瞬間、

彼の動きがピタリと止まった。


「……いたか」


赤井がボソリとつぶやく。

引き当てたのは1索。


美しい鳳凰が描かれた、勝利を告げる鳥。

赤井が手元に引き寄せ、

ツモの発声をしようと息を吸い込む。




――その時だった。



『――緊急事態発生。試合を一時中断します』




鼓膜を破るような大音量の警告音が世界中に響き渡った。

同時に、卓上はサイレンのように真っ赤に染まり、

巨大なホログラムが展開される。


そこに映し出されたのは、

威厳ある宇宙議会の議長と、

球体状の宇宙最高AIエレン。


「あ?」


赤井が不可解な声を上げる。


『勝負の決定的瞬間に割り込む形になってしまい、

 本当に申し訳ないと思っている』


ホログラムで浮かぶ議長は、

苦渋に満ちた表情で赤井を見下ろしている。


『しかし……赤井万吉。

 君はその牌でアガってはならない』


「ほう?」


赤井の目が細くなる。

世界中の観戦者が息を呑む中、

議長は残酷な真実を口にしていく。


『現在、地球へ向かって巨大な隕石が接近している。

 地球に衝突するのは一ヵ月後だが……

 我々の技術で迎撃できる『阻止限界点』まで

 あと30分を切っているのだ』


その言葉に世界中が凍り付く。

だが、赤井は表情一つ変えずに返答する。


「それが、この勝負に何の関係がある?」


『今、その牌を捨てて敗北すれば、

 地球はリーチ星の傘下に入る。

 そうなれば即時宇宙議会入りが認められ、

 我々の防衛システムで今すぐにでも隕石を破壊できる。

 ……地球は救われるのだ』


地球を守りたい議長の言葉に嘘はなかった。


宇宙では『惑星不干渉条約』があり、

本来なら銀河級の進出が出来ていない地球。

宇宙議会未加盟の星が隕石で滅ぼされようと、

助けを出すことは許されない。


その隕石は宇宙からみれば些細なもの。

しかし、今の地球に現存する兵器で太刀打ち出来るものではない。


『逆に君達が勝利し独立を保てば、

 特例となる宇宙議会加入プロセスには30分以上かかる。

 ……つまり、地球は滅亡する』


衝撃の事実、だが赤井は変わらなかった。


「……随分と急な話だ。今まで寝てたのか?」


議長は痛いところを突かれたと顔をしかめる。


『……皮肉なことだ。

 君たちのせい……いや、君たちのおかげでこの状況が生まれたのだ』


「……どういうことだ?」


『本来、未開の地である地球は、詳細な監視システムの対象外だ。

 だがこの麻雀、地球が勝てば宇宙議会入りは確実となる』


議長は言葉を切らず、早口で続ける。


『私はそれを予期し、少数の過激反対派による実力行使。

 テロや妨害工作を防ぐため、

 独断で地球周辺のセキュリティレベルを

 宇宙議会加盟国と同等まで引き上げたのだ』


地球を認めた議長の政治的配慮。

反対派から地球を守るための働きが絶望を掘り当ててしまった。


『セキュリティレベルを引き上げてまもなく……見つけてしまった。

 条約による監視制限の死角、

 宇宙の闇に紛れてそれは接近していた』


彼が地球を守ろうとしなければ、隕石は気づかれなかった。


地球の技術で隕石を把握した時には、もう意味がないその質量。

議長が動かなければ、一ヵ月後に地球は消え去っていたかも知れない。


『君たちが地球の素晴らしさを証明し、私が守ろうとした結果。

 30分という希望が生まれた。

 ……頼む、赤井万吉。

 その牌を捨てて、地球のために負けてくれ』


あまりにも理不尽な究極の二択。


勝利すれば、地球という星は砕け散る。

敗北すれば、地球はとりあえずの生存を確保できる。


だが、赤井は手に持つ1索を回しながら笑っていた。


「……わざと負ける馬鹿がどこにいるんだ?」


『待て!赤井!考え直せ!』


「……俺は地球代表だ。

 地球は俺に全額BETしてんだよ」


赤井の圧倒的なエゴイズムに、議長は言葉を失う。


その中、赤井は視線をカメラに向け、

実況席の男に問いかける。


「……だが、案内人三好鮭。

 お前の言うことだけは聞いてやろう。お前が決めろ」


スタジオのシステムが切り替わり、

実況席のシャケと卓上の通信が繋がる。

全宇宙の視線が、一人の男に注がれていく。


「……赤井さん……俺の選択……」


シャケは卓上を見つめた。


依然、闇溢れる赤井の瞳。

真っ直ぐに見据える神宮司の瞳。

熱を灯した双子の瞳。

中央に浮かび、敗北を求める議長の眼差し。


……そして、目が存在しないエレンから感じる視線。


淡く光り続けるエレンを見届けると

シャケはフッと笑みを零した。


「……赤井さんの言う通りだ。

 わざと負ける競技なんて地球上に存在しない」


議長が悟ったように目を瞑っていく。


「赤井さん……アガってください」


シャケの明確なゴーサイン。

それは地球の命運を賭けた、最後の一押しだった。


赤井は満足げに高笑いすると1索を卓上に叩きつけた。


バシィィィィィィ!!!


稲妻のような打牌音が銀河中を貫いていく。


「ツモ……満貫4000オールで俺たちの勝ちだ」


赤井が勝利を宣言した瞬間。


シャケはドクンと心臓が跳ねたような感覚に陥った。


見届けていた雀卓と4人の姿が、

ノイズ混じりの映像のようにブレていく。


そして、視界がまばゆい光で包まれる。


実況の声も、打牌の残響すらも

静寂に塗り替えられていく。


走るような光の螺旋。


シャケとスズカ、そして対局者たちは

真っ白な光の奔流に包まれ、

地球という名の星から遠く切り離されていった。



麻雀編、完結しました。

次回から最終章となります。

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