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第48話 最効率


南二局。

親はイースト。


彼が配牌を確認する。

その視界、思考回路では手牌の14枚を瞬時に分析していく。

盤面の情報、点数状況、捨て牌候補の確率分布。


あらゆるデータを統合して、

次に捨てるべき、たった一つの正解となる牌が

まるで真っ赤なアラートのように視覚化されて浮かび上がる。


これが、確率重視の彼ら宇宙人にとっての麻雀だった。

最適解は常に一つ、そこに迷いはない。


(我々、宇宙の麻雀も以前は熱狂に包まれていた)


かつて宇宙の麻雀も人々の心を熱く燃やすエンターテインメントだった。

だが、イーストとウエストという

『確率の完全体』が宇宙一に輝いた時、全てが終わった。


彼らの打つ、完全完璧な確率論麻雀は

あっという間に銀河中に広がっていく。


誰もが彼らの真似をし、

誰もが最適解だけを選ぶようになった。


結果、誰が打っても

捨てる牌は同じ、鳴く牌も同じ、違うのは配牌だけ。

その席に座っているのが誰であっても、同じ結果になる。


個性は完全に消え失せ、麻雀は魂のない作業に近い競技になっていた。


宇宙の麻雀は、

イーストとウエストが導き出した答えによって

衰退の一途を辿ってしまったのだ。


(だが、地球の麻雀は違った)


宇宙の麻雀が廃れる中、

競技の聖地・地球から発信されるMリーグの放送は、

なぜか宇宙中で爆発的な人気を誇っていた。


その熱狂の理由を、双子は理解できない。


なぜ、こんな非効率な麻雀に人々は熱狂するのか。


その秘訣を探り、宇宙の麻雀に活気を取り戻すために、

彼らは地球を手に入れ、Mリーグという「箱」を奪おうとしていた。


しかし今、卓を囲んで確信しつつあった。

人気の理由は、Mリーグという箱そのものにあるのではない。


目の前に座る神宮司のような、輝き溢れるスター。

そして赤井のような、深淵の闇。


彼らが考え抜き導き出す、無数の可能性が

最上の結果を生み出している。


赤井はMリーガーですらないが、

今、宇宙一の雀士と対等に渡り合っている。


これこそが宇宙で求められている熱。熱狂。

地球の麻雀。


(それでも、我々は宇宙一の麻雀を信じる)


気づけば10巡目。


イーストとウエストの間で、

再び最速アガリへの鳴き合い準備が整っていた。


イーストの視界には、

鳴かせるための牌が赤く光っている。

その牌『中』をイーストは迷いなく切る。


「ロン」


だが、ウエストが鳴くよりも早く、

赤井の低い唸りがこの局を終わらせた。


「チートイ、ドラ2。6400。

 ……最効率か……打ち筋を教えているようなもんだな」


赤井が上がったのは七対子。

鳴き合いのキーとなりやすい役牌を、

ピンポイントで狙っていたのが誰の目から見ても明らかだった。


『赤井の狙い打ち!

 イーストの親を流す見事なアガリだ!』


・途中から完全に中を狙ってたな

・宇宙人からみると単騎待ち以外には当たらない形か

・生牌でも身内で3枚なら確かに出る

・麻雀警察です、双子は正しく打っています

・結果ロンされてますがww

・この人は相変わらずだな、赤井


赤井は宇宙人の思考そのものを狩りにきていた。

最適解の打ち方をするなら逆算し、そこで待ち構える。


打ち筋に揺らぎや不確定要素が少しでもあれば出来ない。

双子が最効率を常に選択するからこそ、

狙い打つことが可能となっていた。


「……常に牌効率を完璧にこなす。

 ……楽だな、お前らの麻雀は」


赤井が吐き捨てるように呟くと、

イーストの口元が僅かに歪む。

南二局が終了した。


【南二局】

東家:神宮司 32000

南家:イースト 7700(-6400)

西家:ウエスト 36900

北家:赤井 23400(+6400、供託+1000)


続く、南三局。

親はウエスト。


先ほどロンされながらも、

イーストの配牌は凄まじかった。

わずか2巡目にして、テンパイを果たす。


現状、イーストは4着。

親であるウエストの連荘をサポートするか、

ここで地球側への足止めをするために

即リーチをかけるのが、最効率。

彼の視界では、リーチ宣言牌が赤く唸りを上げている。


しかし、イーストの指が

その赤く光る牌を掴み、捨てる直前で止まった。


(ここで手替わりを待てば、三色、純チャンまで見える)


それは、確率論から見れば非合理な「欲」だった。

足止めを優先すべき場面で、

点数の高さ、ロマンを追い求める行為。


ツモアガリの場合、親であるウエストが多めに支払うことになる。

それを考慮すると尚更、

ここでの安めのリーチが正解だった。


(イースト、何を迷っている)

(……一手替わりで高打点がみえる)


脳内で交わされる双子の会話。

互いの手が共有されているからこそ、ウエストは疑問を浮かべていた。


(ここでお前の高得点は必要ない)

(勝つだけならそうかもしれない)

(そうだ、地球さえ手に入ればそれでいい)

(……本当にそうか?)

(お前は今、地球の熱にあてられている)

(……その『熱』を求めて私達は此処に来た)


イーストはそれだけ伝えると、

初めて赤く光る選択を無視した。

リーチをかけずに、牌を捨てていく。

更なる高得点を目指して、ヤミテンに構える。


(イースト!!)

(熱は奪うものじゃない、生み出すものだ!)


「……ほう」


その僅かな変化を、赤井は見逃さなかった。

ニヤリと笑い、イーストを見据える。


「……外れたな……効率の鎖……」


イーストは答えない。


数巡後、彼は見事に手替わりを果たし、

手牌を理想の役まで作り上げた。


(ウエスト、悪いな)

(……好きにしろ)


それだけ脳内会話を交わすと、

イーストはリーチを宣言する。

捨てる牌が強く音を立てて、横へ曲げられた。


「リーチ」


神宮司はそのリーチの異常さを察知し、鉄壁の防御に入る。

だが、赤井は降りない。

彼もまた同じ巡目でテンパイを入れたのだ。


「……折角だ、胸を貸そう……リーチだ」


赤井の手からリーチ棒が投げ込まれる。


二人だけのめくり合い。

最効率を捨てた宇宙人と、非合理の極みを歩く地球人。


勝敗を決したのは、イーストの指先だった。

心意気に答えるように、たった一度のツモでアガリ切る。


「……ツモ」


静かな発声と共に牌が倒された。


「リーチ、一発、ツモ、三色、純チャン。

 倍満4000、8000」


『倍満ツモだ!!

 イースト、ここで見事な大物手を育てあげた!!』


4着だったウエストの強烈なアガリで

点数状況が一気に縮まる。


【南三局】

東家:神宮司 28000(-4000)

南家:イースト 24700(+16000、リーチ棒+1000))

西家:ウエスト 28900(-8000)

北家:赤井 18400(-4000、リーチ棒-1000)


・宇宙人やべええ

・でも、味方が親なのに大物手上がる必要あった?

・イーストの様子がおかしい

・いや、これこそ麻雀だろ

・これ最後までわからんな



神宮司がため息をつきながら、点棒を支払っていく。


「赤井さん、アンタわざと煽ったでしょ」

「……相手がロボットだと、ツマらんだろ?」


確率を捨てつつある双子と、地球の雀士二人。


誰もがトップを狙える位置に迫ってる。

正に全員集合状態。


運命は最終局、オーラスへと託されていく。



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