第46話 ルール
東四局。
親は北家の赤井万吉。
それぞれの牌が開かれ、対局がスタートしていく。
「……君たちさ、こんな麻雀でいいの?」
神宮司が牌を切りながら、対面に座る双子に声を掛ける。
「こんな点数の受け渡し麻雀。
本当にこのまま進んでいいの?」
その問いに、赤井は無言を貫き、
宇宙人二人からは抑揚のない言葉が返っている。
「勝利こそが何よりも優先される」
「勝てば我々の望みも叶う」
「その望み、叶うのかな?こんな戦いで……」
双子は無表情のまま、例の鳴きコンボを行う。
「ポン」「チー」
その連携は止まらない。
二人の手牌があっという間に短くなり、即上がる。
「ロン」
赤井の親番である大事な局。
それをまたしてもウエストがイーストから上がるという、
味方からのロンであっさりと終わらせた。
「タンヤオ、ドラ2。3900点」
形だけに近い点数の受け渡しが行われる。
【東四局】
東家:神宮司 33000
南家:イースト 15100(-3900)
西家:ウエスト 34900(+3900)
北家:赤井 17000
宇宙側の若干のリードで、東場が終了した。
この勝負は1半荘。
最低でも、一人二回は親になるルールで、
1周目は東場、2周目は南場と呼ばれている。
つまり、戦いの半分が終了したことになる。
そして、始まる南場の勝負。
南一局。親は再び神宮司に戻る。
手元の牌を見定め、神宮司の第一打。
嘆きと共に、牌を捨てていく。
「僕が魅せたい麻雀は……」
彼の想いを他所に、
双子は上がりへの必要牌を揃えていく。
ある意味、会話自体の解禁がなされたスタジオ内。
その中だというのに、沈黙だけが拡がっている。
6巡すると、ここまで黙り込んでいた赤井が
抑揚のない声で呟き、牌をツモる。
「……仕方ないな」
それだけ告げると、
またしても右手でタバコを取り出した。
「だから!ダメなんですって!」
「……クセでな」
「吸いたければ吸えばいい、地球人」
「……宇宙人はこう言ってるが?」
「ダメです、それよりも牌を捨ててください」
「……悪いな、捨てる牌がない」
赤井がそっと手元の牌全てを倒していく。
「ツモ。
四暗刻、大三元、ダブル役満だ」
スタジオが静まり返る。
ダブル役満。
滅多に出ない役満、それが重複した奇跡の上がり。
ちなみに過去Mリーグでは一度もダブル役満は発生していない。
『え!?あ、赤井によるダブル役満ツモです!』
・は?
・いやいや、さっきまで上がってなかったぞ
・これもう勝ち確でしょww
・地球人やってくれたな
・だからこの人はヤバいって……
・やっぱりやったか
動揺と歓喜に沸くコメント欄。
しかし、卓上の3人とシャケは全く動かない。
「「……赤井さん」」
神宮司とシャケが、冷ややかな声でその名を呼ぶ。
赤井は点棒を受け取ろうとしなかった。
代わりに、ポケットから新しいガムを取り出し、口に放り込む。
「……ぶっこ抜き、ツモすり替え、河からの拾い。
……この3つで十分だったな」
悪びれもせず、自白した。
そう、これはイカサマだ。
「ふざけんな!何やってんだアンタは!!」
神宮司が思わず立ち上がって叫んでいた。
神聖なMリーグの舞台を汚すその行為。
絶対に許されることではない。
「これは明確に」「ルール違反だ」
双子が冷静に告げると、
赤井は彼らを見据えたまま言い放つ。
「……Mリーグ準拠のルールだったよな?
シーズン中のチームポイントが減らされるという罰則。
……この勝負に関係あるか?それ」
常に放送対局で大勢の目があるMリーグ。
その中において、イカサマという事態は想定していない。
一応、罰則はあるが、
それはその1局の上がりが認められないことと、
所属しているチームのポイントが減らされること。
この1半荘だけに限れば、赤井にとって何の問題もなかった。
「……今回はあえて派手にしたが、
これが満貫や跳満、
俺が自白しなかったら……お前ら、気づいたか?」
双子が押し黙る。
通信対戦が基本の宇宙人にはイカサマを見破る手段がない。
銀河中で放送している以上、
誰かが気づき審判まで届けば、
そこで赤井の手は上がれなくなるが……。
今回上がる瞬間まで誰も気づかなかった事実が、
イカサマを防ぐ可能性の低さを物語っていた。
「……やめてください!」
神宮司が赤井の手元にある牌を崩していく。
「僕は、こんな麻雀を全宇宙に魅せたいわけじゃない」
「……ああ、そうだな。俺もだ」
赤井が声のトーンを落としていく。
そして、双子へ向き直す。
「……宇宙人、お前らもそうだろ?
ただ勝てばいいってわけじゃないはずだ」
「……」
「スズカから聞いている。
……宇宙では麻雀が廃れつつあるらしいな」
その言葉に、双子の表情が初めて崩れた。
「……お前らを見れば理由はそれとなくわかる。
……この戦いで、かつての熱狂を取り戻す。
イースト、ウエスト。
それがお前らの望むことじゃないのか?」
図星だったのだろう。
双子が顔を見合わせ、数秒の沈黙の後、小さく頷いた。
「その通りだ」「宇宙の麻雀は滅亡しかけている」
ここまでの戦い。
それは互いに点数を配るだけ、ただ勝つ為だけの戦略。
そこには、観客を熱狂させるような魂の削り合いがなかった。
「僕は宇宙の麻雀も救いたい。
だから……ルールを決めよう」
麻雀界を背負う男、神宮司が目を輝かせて提案する。
「一つ、味方からのロン上がりは禁止。
一つ、イカサマなし」
赤井がニヤリと笑い、補足していく。
「鳴きによる連携は今まで通りアリだ。
だが、上がりは自らのツモか、敵側からの直撃のみ」
「要するに正々堂々、真正面から殴り合おうって話だね~」
いつもの口調に戻った神宮司が、笑顔で双子を見つめる。
「条件を受けよう」
「そのルールで麻雀の原点、地球に勝てば」「宇宙の麻雀も復活する」
双子が承諾した瞬間、スタジオの空気が変わった。
冷たい戦略と闇に染まる反則で支配されていた卓上が浄化されていく。
『なんと卓上で新しいルールが決まったぞ!
……宇宙議会からもOKが出ました!
先ほどのイカサマが行われた局は無効となり、
南一局からの再開となります!』
「……赤井さん」
シャケは呆然としていた。
この一連の流れ、それはあの闇に溢れる男が作り出した。
恐らく、スズカから聞いた宇宙人のバックボーンとMリーグのルール。
その二つを聞いた時から、この光景を導き出していたのだろう。
その行動は、地球の運命だけでなく
宇宙と地球の麻雀そのものを見通している。
彼は彼で、麻雀という競技を愛しているのだ。
「……さあ、仕切り直しだ」
赤井が手牌を卓の真ん中へ流していく。
ジャラジャラという音が、心地よく響き渡る。
南一局。
麻雀対決は、
ただ一つの競技として新たな局面を迎えていく。
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