第41話 スズカ、正月に敗北する
1月1日。
地球が滅びるかどうか瀬戸際の中、新年を迎えた。
その初日は、ここ数週間の激闘が嘘のように、
晴々と突き抜けるような青が空に広がっていた。
俺、三好鮭は例年と違い、
しっかりと正月を味わっていく。
こたつにみかん、
そして奮発して買った、おせち料理。
「……シャケ、これは何ですか?」
当然のように喰らい付いてきた、向かいに座るスズカ。
重箱の中で黒く輝く食べ物を指差している。
「黒豆だよ。豆を甘く煮たものだ」
「……黒豆」
「縁起物で、まめに働けるようにって意味があるらしい。
確か、健康や長寿を願う食べ物って何かで読んだな」
「……長寿」
いつも食べ物の時はテンションが高いスズカ、
今回は少し難しい顔をしている。
「いいから、食べてみろ」
スズカが箸を伸ばし、黒豆を一粒、口に運ぶ。
ゆっくりと噛み締めると頷きながら例の食リポをしてきた。
「甘いです!
見た目は漆黒なのに、味は極上!
この小さな物体には、未知の成分が含まれています!!」
そんなことはありません。
まあ、スズカにとって未知なら、それは正解なんだろう。
気づけば、その箸は伊達巻を持っていた。
「この黄色い螺旋構造体は……」
コイツ、最早無理やり難しい言葉を使おうとしてるだろ。
「ただの甘い卵焼きだよ。
形が巻物に似ているから学問に関する縁起物らしい」
俺が頑張って仕入れたウンチクを聞きながら、
スズカは次々と豊富な種類が揃ったおせち料理を口に運んでいく。
「……これも合法です」
久しぶりに聞いた気がするが、
一つ一つ手に取っては喜んでいる。
……平和だ。
2日後には、人類の運命が決まるなんて信じられないほどに。
「さて、メインディッシュといこうか」
俺はキッチンから、焼きたての餅が入ったお雑煮を運ぶ。
香ばしい醤油の香りが部屋に広がっていく。
「まさか!それは!!」
予想以上の反応をみせるスズカに、
俺はドヤ顔で答えてやる。
「ふっふっふ、餅だ。
正月といえばコレがないとな!」
「ブラボーです!シャケ!!」
アガッてるな、スズカ。
その笑顔で、俺の顔までニヤついてくる。
「これが……日本文化の象徴!餅ですか!!」
「よく噛んで食えよ」
忠告も無視して、スズカは餅にかぶりついた。
彼女の口から箸まで、予想以上に餅が伸びている。
「んぐっ!?」
スズカが目を白黒させている。
頑張って噛み切ろうとするが、中々苦戦しているようだ。
「んんー!!」
「焦るな!ゆっくり噛んで呑み込め」
宇宙人の弱点って餅だったりする?
こんなに苦戦するとは思わなかった。
1分ほどして、スズカがようやく呑み込むと、
肩で息をしながら呟いてくる。
「……恐ろしい。餅の攻撃能力、ここまでとは。
しかし……合法です」
なんか、軽くガッツポーズしてない?
「口の中に広がる、ほのかな塩味と甘みのマリアージュ。
……危険と理解しながらも、手が止められません」
マリアージュって、どこで覚えてきたんだ?その食リポ。
多分、洋風のスイーツとかを食べた時に使う言葉だぞ。
まあ、楽しそうだからいいか。
俺は笑顔溢れるその姿を見守りつつ、正月を堪能した。
漫才が始まっているテレビ、こたつの温もりが心地いい。
一通り食べ終わり、腹が満たされると部屋に静寂が戻る。
俺は、ミカンの皮を剥きながら、
ふと、神宮司さんと赤井さんを勧誘した夜を思い出す。
赤井さんは承諾した後、特訓など必要ないと言った。
代わりに、様々な情報を求めてきた。
その中の一つ、俺とスズカのこれまでを語ると、
赤井さんは鋭い眼光で告げてきた。
「――何かおかしくないか?シャケ」
俺も薄々と違和感を覚えていた。
それをあの人はすぐに見抜いてきた。
……そろそろ、はっきりさせないといけない。
俺はミカンを片手に、さも当然のように呟いた。
「……見てるんだろ?エレン。出てこいよ」
その言葉に、目の前のスズカが驚愕の表情で俺を見つめる。
俺達の沈黙で、テレビから流れる笑い声だけがこだまする。
数秒後、電源が切れたようにテレビがブラックになると、
以前と同じように、様々な羅列が表記された。
Existential Rational Evaluation Network
ID: SZK-99 [CORE: E.R.E.N.]
そして現れる、淡い球体の宇宙最高AI。
――E.R.E.N.――
不意に呼び出したことを意にも留めず、エレンは語り出す。
「三好鮭、新年の挨拶でしょうか?」
「いや、お前からお年玉をもらおうと思ってな」
「私は地球の通貨を所持していません」
「ただの比喩だよ、もっと解りやすく言ってやる。
……お前が隠していることを教えろ」
宇宙最高AIエレン。
俺は感じていた。
地球対宇宙。
違和感の正体は全てコイツに収束すると。
20時過ぎ、不定期更新




