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第36話 夢を駆ける競技 と 人生の縮図と呼ばれる競技


静寂は、ほんの一瞬だった。


中山競馬場のビジョンに、勝敗の行方が映し出される。


そこには三頭の鼻先が一直線に並ぶ中、

わずか数センチだけ前に出ているマイデュースの姿があった。


1着:マイデュース

2着:テイサスオペラオー

3着:ギャラクシーエンペラー


決着は、ハナ差。

肉眼では判別不可能な僅差だった。


『――確定しました!!』


銀河アナウンサーの声が、激情に跳ね上がる。


『勝ったのは……マイデュース!!武井裕太です!

 競馬界の至宝が、宇宙を捻じ伏せたぁぁぁぁぁ!!』


地鳴りのような歓声が、

中山を、日本列島、地球全土を揺らした。


それは侵略を防いだという安堵の叫びではない。

純粋に地球の競馬が、宇宙一に勝ったという

スポーツとしての熱狂だった。


「……見事だ、地球」


歓声の中、3着に敗れたキュルテが馬上で武井に歩み寄る。

その表情に悔しさは残るが、憎悪など欠片もない。


「我々が競り負けるとは……競馬の原点、地球。

 ……非効率だが、美しい」


「ありがとう、君達も強かったよ。

 おかげで最高の有馬記念になった」


武井は汗で張り付いた前髪を払い、さわやかに微笑んだ。

先ほどまでの、鬼神のような面影はどこにもない。


「そして……和田野。

 貴殿のテイサスオペラオー、生涯忘れることはないだろう」


「俺も忘れないよ、この有馬記念を」


涙を払い、和田野は鞍上のキュルテと握手を交わす。


互いに健闘を称え合うその姿に、

上空の宇宙観客席、中山のスタンドから惜しみない拍手が降り注ぐ。


拍手が落ち着くと、再び和田野は語り出す。


「……武井さんには負けました。でも、不思議と悔いはありません」


澄んだ瞳は、武井だけでなく

周りの騎手とシャケ、スズカを見渡していく。


「オペラオーに俺の成長を見てもらった。

 最後の笑顔で、全てが報われた気がするんです」


「……よかったです」


案内人であり、オペラオーを召喚した張本人シャケは

和田野の笑顔にホッと胸を撫で下ろす。


シャケは、その場に揃った地球の騎手全員に向かって

深く頭を下げた。


「本当にすみませんでした。

 皆さんの有馬記念に地球の命運を背負わせてしまって……」


シャケの謝罪に、武井は拍子抜けしたように言葉を返す。


「何を言ってるの?三好くん」


「え?」


「僕たちは騎手だ。

 地球がどうとか、宇宙一が相手とか関係なく勝ちに行く。

 それだけだよ?実際、君も目にしたよね」


武井の言葉に、和田野は大袈裟なまでに口角を上げ、

ターボの騎手中谷もニッと白い歯を見せる。


「ターボの全力、楽しんだか?」


「オペラオーに会わせてくれて……本当にありがとう」


中谷と和田野のカラッとした笑顔が弾けている。

武井がシャケの肩へ手を掛けると最後に一言添えてくる。


「僕たちは謝ってほしいわけじゃないんだよね~」


「はい!……ありがとうございました!!」


そう、彼らに謝罪はいらない。

ただ感謝を伝えるだけでいい。


それこそが、プロフェッショナル。


彼らは地球を守る為に走ったのではない。

競馬という競技そのもの。

騎手としての誇りのために走ったのだ。


ここまで黙り込んでいた宇宙人スズカも、

その光景を見て、ただ頷いていた。


「……これが、地球の競馬」



一方、スタンドの観客席

その最前列では……。


「うわああああああ!!外れてもうた!!

 紙切れやああああ!!」


絶叫が響き渡っていた。


諸星大が、馬券を紙吹雪のように撒き散らしている。


「オペラオーの単勝に

 こないだのスパチャ全額突っ込んでもうたわ!

 なんでやああああ!!地球は守られても、俺の財布はお陀仏や!」


「……アンタ、感動とかないんすか」


隣ではシャインが呆れ果てていた。

諸星は涙目で声を荒げる。


「感動はしたわ!めっちゃええレースやった!!

 せやから余計に悔しいんや!!

 ……まあええわ、この負け分は次の格ゲー大会で取り返す!」


ちなみに余談ではあるが、

この時の外れ馬券は数年後プレミアが付くことになる。


そして、その騒ぎを他所に

野球宇宙一、大空流星は静かに腕を組み、満足気にコースとシャケを見つめていた。


「魅せてもらったよ、テイサスオペラオーの勇姿。

 ……シャケ、よくやった」


その視線の先にあるコース内では

宇宙人により、特設お立ち台が用意されていく。


瞬く間に完成すると銀河アナウンサーの声が響き渡る。


『さあ、それでは勝利者インタビューとなります!』


普段では考えられない、謎のカクテル光線の中

お立ち台に武井裕太が上がる。


割れんばかりの「ユウタ」コール。

武井は少し照れくさそうに手を振りながら、マイクを握る。


『有馬記念を制した

 武井裕太ジョッキーにお越しいただきました。

 おめでとうございます!今のお気持ちは?』


「いやあ、きつかったですね。

 宇宙も、レジェンドも全部強かった。

 でも……

 今の競馬も強いってことを証明できて、本当に良かったです」


会場中から喝采の拍手。

武井は一呼吸置き、真っ直ぐにカメラへ微笑む。


「やっぱり、競馬はいいなって思います。

 これからもレースを走る子たちと

 騎乗するジョッキーたちに夢を駆けてください!」


そして、彼はコレをやりたかったんだとでも言わんばかりに

悪戯っぽく笑うと、シャケへ手招きをして

お立ち台のすぐ傍まで、呼び寄せた。


「さて、案内人の三好くん。次の競技もあるのかな?」


「……わかりません」


「そうか、でもきっと大丈夫。地球は負けないよ。

 次も――」


シャケと武井の瞳が交差していく。


「――宇宙一を決めようか。

        君が導く地球の誰かで」


その決め台詞が、有馬記念の終わりを告げる合図だった。


シャケは、武井に力強く頷き返す。


バトンは再び案内人へ。



◆ ◆ ◆



遠い宇宙、円卓で繰り広げられる宇宙議会は

宇宙対地球の競馬を見届けていた。


「野球、格闘ゲーム、競馬。全て地球が勝利した」


今回、ハロン星が敗れたことで

多くの星が地球存続へ傾きつつある。

……しかし。


「地球存続支持率……48%。

 まだ地球を試すというのか?」


最早、議長までも地球を滅ぼすべきではないと判断している。

だが、ギリギリのところで過半数に及ばなかった。


「我々の星の競技はまだ負けていない」

「今までの勝負で地球人自体を手に入れたくなった」

「支配さえしてしまえば、競技の原点自体は守られる」

「地球の資源は貴重だ」

「この戦いの視聴率は圧倒的だ、まだ手放したくない」


宇宙人の様々な事情、

その内容はどうであれ、過半数の同意が得られなければ

地球の滅亡は変わらない。


議長は諦めたように、宇宙最高AIエレンを呼び出す。


「……エレン、頼む」


宇宙最高AIエレンの球体が

最初から分かっていたかのように、瞬時に語り出す。


「地球文化は不完全である」


先ほどの有馬記念の様子が、

エレンの球体内部で再生されていく。


「だが、不完全であるがゆえに

 託し、託され、理外の力を超えていく。

 地球の競馬は――それを証明した」


球体が激しく光明していく。


「次なる競技は――」



◆ ◆ ◆



『地球の皆様、

 私はこの有馬記念で終わりだと思っていました。

 ……申し訳ありません』


シャケは、酷く落ち込みをみせる銀河アナウンサーの声に

次なる戦いの覚悟を決める。


「第四戦か……」


「エレンによると、

 次で最後になる可能性が高いということです」


スズカの言葉は、シャケにとって慰めにはならない。

1敗も出来ないこの戦い。

地球全土が巻き込まれる一大決戦がこれで4回目にもなるのだ。


『第四戦は……こちらになります』


過去、派手に打ちあがっていた文字とは違い。

どこか影を落とす巨大な映像が、中山競技場に映し出される。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


               第四戦


             【 麻雀 】


――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……来てしまった、か」


ここまでの競技。野球、格ゲー、競馬。

どれも絶望的だった。


だが、シャケが最も恐れていたもの。

それはテーブルゲームだった。


現段階で、将棋、囲碁、チェスなどの世界最強でも、

地球産のAIに勝てない事実。


対戦する宇宙人のスペック次第では

100%に近い確率で、敗北する。


「まあ、麻雀はまだマシな方かも知れないな」


そっと呟くと、

銀河アナウンサーが説明を続ける。


『今回の対決は1月3日。

 ルールは日本式の麻雀による1半荘勝負。

 宇宙側2名と地球側2名の計4名で戦い、

 1位を取った方が勝利となります』


「……1半荘勝負……短すぎる」


えらく運の要素が強いなとシャケは思う。


麻雀はテーブルゲームの中でも

特に「不確定要素」が高い。

それが1回切りの勝負になるなら、尚更だ。


運、流れ、確率、ブラフ。

中でも「運」が大きく結果を左右する競技。


第四戦、麻雀。


それは案内人シャケに、

この地球対宇宙の意味を問いかけつつあった。


競馬編完結しました。

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