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第32話 heaven pocket


1周目のスタンド前。


トリプルターボが貫いた青い弾丸が去り、

シャケ、スズカ、そして観客の視線が再びターフに戻される。


そこでは、別の戦いが繰り広げられていた。


先頭、遥か彼方を独走するトリプルターボ。


それを追う2番手集団で

不機嫌そうに走る宇宙最強馬ギャラクシーエンペラー。


そのギャラクシーの後ろ、

尻尾が触れ合うほどの至近距離では

二頭が激しく火花を散らしていた。


黄金の輝きを放つ、

覇王、テイサスオペラオー。


足先から頭まで、全てが黒に染まる

漆黒の宇宙馬、マックシャドウ。


『さあ、レースは第1コーナーから第2コーナーへ!

 独走するトリプルターボを追う2番手集団では

 ギャラクシーエンペラーの真後ろ、

 そのポジション争いが激化している!!』



対策本部で、スズカがやはりと息を呑む。


「……始まりました。

 マックシャドウによる徹底的なブロック」


スズカが投影するホログラムに

ギャラクシーエンペラーと

その宇宙最強馬が切り裂いた、空気の流線が表示されている。


そして、流線に包み込まれた空間には

『heaven pocket -天国への案内- 』という文字。


それはギャラクシーエンペラーと

その真後ろ一頭分のスペースに表記されている。


「スズカのデータだと、あのスペースに入るのが

 勝ちへの近道ということだったよな」


シャケは、確認の意味を込めてスズカへ問いただす。


「その通りです。

 真空の膜を作り出すギャラクシーの真後ろ。

 そこにいる限り、宇宙最強馬と同じ環境で走れます」


「ターボが前にいる間は、

 そこが最高のポジションってことか、

 体力を温存しつつ、最後の直線で一気に差し切る、

 オペラオーの勝ちパターン。

 でも今は……」


「ええ、現在、その空間の占有率は

 マックシャドウが90%、オペラオーは10%。

 ……弾き出されるのは時間の問題です」


その空間が許されるのは一頭のみ。

空気抵抗が限りなくゼロに近づく、heaven pocket。


序盤、遥か前方で繰り広げられていた戦いとは別に

2番手集団では、激しいポジション争いが勃発していた。


シャケが和田野とオペラオーを遠く見つめる。


「……和田野さん」


視線をズラすと武井とマイデュースが

後方、外側から二頭の勝負を見届けるように走っている。


「……武井さんはあそこを獲りにいかないのか」


「地球同士の争いは私達にとって何も生みません。

 武井裕太は大人ですね」


「……」


武井の考えは理解できない。


それでもシャケは

和田野、武井を筆頭に地球の騎手、馬たちを信じていた。




『さあ、ターボを先頭に第2コーナーが終わり

 向こう正面、第3コーナーまでの直線に入っている!!』


先頭は変わらず、トリプルターボ。


続いて、2番手集団は

ギャラクシーエンペラー、テイサスオペラオー、マックシャドウ。


そのわずか後方では、ターボに敗れたスターライトダッシュを除いた

15頭が塊を作っていた。


漆黒の宇宙馬、マックシャドウの騎手「モイ」は

オペラオーの真横で、冷静に手綱を操っている。


(……地球人、ここは皇帝のみ許された聖域だ)


彼の役割は勝利ではない。

ギャラクシーの背後を死守し、

地球馬を風圧の強い外側へ弾き続けること。

そして、最終的に空間へ完全に入り込む。


マックシャドウとモイはその戦法で

過去、宇宙のレースで2着を取り続けていた。


(ギャラクシーには勝てるわけがない、

 だが、この位置を奪い取れば2着がほぼ確定する)


冷たい目標が、機械のように正確なコース取りで

和田野とオペラオーの侵入ルートを塞いでいく。


(……くっ、上手い)


和田野は改めて手綱を強く握り込む。


オペラオーの反応は当時を思い出すように完璧。

隙を見つけて馬体を捻じ込もうとするが、

マックシャドウは、それに合わせて進路を妨害してくる。


『テイサスオペラオーとマックシャドウの対決が続いている!!

 直線も半分!まもなく第3コーナーに入るぞ!!』


和田野は手綱を通してオペラオーの苛立ちを感じていた。


(……すまない、オペラオー)


大きな後悔を残した、あの有馬記念。

レース中に諦めてしまった、

それでも勝利したあの有馬記念。その記憶が蘇る。


(また同じことの繰り返しか?俺はあの時のままなのか……)


かつてのオペラオーなら多少の不利など気にもとめず、

馬のパワーだけで強引にこじ開けていただろう。


だが、それを実行しない。


「……そういうことか」


オペラオーの息遣いが

「そうだよ」とでも言うかのように落ち着いている。


ずっと、オペラオーに返したかった恩。

見てほしかった……胸を張る自分の姿を。


やってきたチャンス、レースの勝敗よりも大きなもの。


――果たせなかった約束を、今ここに


「行こうか!!オペラオー!!」


和田野の視線が、ふと足元に向けられる。


12月の中山競馬場。

酷使され、芝が所々剥げ落ち、

土と芝が入り乱れているボコボコのインコース。


宇宙馬マックシャドウは、その汚れた走路を嫌い

無意識に綺麗なラインを選んで走っている。


「……見せてやるよ、俺なりの勝ち方を!!」


20時過ぎ、不定期更新

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