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第29話 第68回有馬記念 1番人気:三好鮭


――12月28日 日曜日


有馬記念、当日。


中山競馬場の冷たい空気は、

俺と世界中の心臓までは届かない。


例年、15万人を超える観客で埋め尽くされるスタンドと

盛り上がるテレビ中継。


今年は、規模が銀河級に拡がり、

宇宙人専用の空中観客席が設けられ

中継は地球の端々、

それどころか銀河の彼方まで放映されていた。


「これが年末の総決算、有馬記念」

「ファン投票で出走馬を決めるらしい」

「俺達がファン投票したら、

 全部の票がギャラクシーエンペラーになるな」

「なんで、こんなに選ばれる?」

「地球の競馬は『夢』を乗せるらしい」

「なにそれ?」

「古典に書いてあった」


空中から漏れ聞こえる宇宙人たちの呑気な声。

地球側の事情はお構いなしに

宇宙人たちはいつも通り、観光気分のようだ。


だが俺達、地球はそうもいかない。


「シャケ、緊張しているのですか?」


「そりゃそうだ。なんだよ、この異常なオッズ」


俺の手元には、最新のオッズ表。


毎年ウキウキ気分で見ていた時とは

全く違うものがそこにある。




【第68回 有馬記念-Versus the Universe-(G1) オッズ表】


1番人気:三好鮭 召喚馬 [騎手:不明]単勝 2.3倍


2番人気:マイデュース [騎手:武井裕太]単勝 2.9倍


3番人気:ギャラクシーエンペラー [騎手:キュルテ](宇宙馬)単勝 4.0倍


4番人気:マックシャドウ [騎手:モイ](宇宙馬)単勝 6.7倍


5番人気:スターライトダッシュ [騎手:コッコ](宇宙馬)単勝 7.8倍


6番人気:ジャスティンジョイス [騎手:横山勇]単勝 8.0倍


7番人気:シャフリャー [騎手:松谷]単勝 9.0倍


8番人気:トリプルターボ [騎手:中谷]単勝 18.9倍


9番人気:スターズオングレイ [騎手:メール]単勝 20.1倍


10番人気:ライダック [騎手:宗崎]単勝 23.5倍


11番人気:フラダリア [騎手:三田]単勝 25.9倍


12番人気:ウインマイリン [騎手:モイス]単勝 29.1倍


13番人気:タスエーラ [騎手:ムール]単勝 30.1倍


14番人気:ソイルオリエンス [騎手:河田]単勝 32.8倍


15番人気:アイロンバローズ [騎手:石川]単勝 40.7倍


16番人気:ハーラー [騎手:岩佐]単勝 42.3倍


17番人気:ホウオウステップ [騎手:田尻]単勝 62.9倍


18番人気:ディポンド [騎手:岡田]単勝 79.4倍


19番人気:メイケエール [騎手:福島]単勝 98.1倍


20番人気:ダイコーサク[騎手:熊澤]単勝 137.9倍




まず、20頭立てのレースなんて初めてだ。

海外ではあるらしいが、俺は日本の競馬しか見たことがない。


それと、宇宙の馬に賭けている連中は頭大丈夫か?

負けた時点で、金の意味なくなるぞ多分。


だが、それよりも気になるのは……。


「なんで俺の名前がオッズ表、出馬表に乗ってんの?」


「シャケ、これは合法です。胸を張りなさい」


「いや、違和感しかないんだが……

 あと1番人気?」


「記者会見の結果です。

 貴方への信頼がこの数値となって出ているのです」


俺よりも胸を張っているスズカは気軽に言ってくれるが、

地球の運命だけでなく、

皆さんの財布の中身まで乗っかってしまった。


「シャケ!!頼むぞ!!

 俺はお前の『名前も知らん馬』にスパチャで稼いだ分、

 全額突っ込んでもうたからな!」


「諸星さん!今は大事なときっすよ!」


観客席の最前列から、

格ゲー宇宙一となった諸星さんが

シャインに止められながら叫んでいる。


負けたら地球最後だ。

似たような人が世界中にいるだろう。


よく見たら、諸星さんとシャインの隣には

日本人離れした体格の野球、宇宙一となった

流星さんが熱い眼差しでコースを見つめていた。


「……シャケ、期待しているよ」


かつての仲間たちが、それぞれの戦いを経て

今この場所に集結している。


――そのとき、熱気を吹き飛ばすように

『宇宙一』が競馬場に現れた。


宇宙最強馬 ギャラクシーエンペラー


純白の馬体は、光を散らし輝きを放つ。

真空が本当に発生しているのか

周囲の空間は若干歪んで見える。


背に跨る宇宙人も、

正に宇宙の王子様とでも言うかのように美形だ。


ソイツは銀色の長髪をなびかせ、

誇らしげに俺達へ声を掛けてきた。


「……我が名はキュルテ。

 三好鮭、この『宇宙皇帝』に勝てる馬は存在しない。

 潔くハロン星の軍門に降れば、

 地球を悪いようにはしないつもりだが?」


――憎らしい敵であってほしかった。


この宇宙人、キュルテは恐らく本音でこう言ってきている。


普段の俺なら、宇宙皇帝という二つ名を

笑い飛ばしてやることも出来ただろう。


だが、キュルテが放つ紳士性と

自分の言葉を一切疑っていない瞳に

強敵特有の圧を感じる。


誇りを持つものは地球人だろうが、宇宙人だろうが強い。

それは野球と格闘ゲームで嫌というほど理解していた。


「キュルテさん、申し訳ないけど地球は戦うよ」


「……そうか」


キュルテの顔色は変わらない。

俺は宇宙の最強よりも、地球の最強を信じている。


宇宙最強馬とキュルテがその場から去ると

競馬界の至宝、武井裕太が2番人気のマイデュースと共に現れた。


「こんなことにならなければ

 この子が一番人気だったんだけどね」


「申し訳ありません」


「いや構わないよ、

 悪いけど君が呼ぶあの子にも僕は勝つつもりだよ?」


「……頼もしいです」


出会ってから初めて武井さんの本音が聞けた気がする。

彼は最初から思っていたのだろう

「僕の子、マイデュースが宇宙一だよ?」と。


元々有馬記念出走を決めていた馬たちと

宇宙馬二頭も競技場へと歩を進めていく。


周囲の視線が俺に突き刺さる。

召喚馬はまだか?という声が今にも聞こえてきそうだ。


「三好くん……彼が来たよ」


武井さんが指差す先には、

他のメンバーたちとは違い、徒歩で進む騎手が一人。


「……和田野さん、ありがとうございます」


「お礼はこちらがいいたい、

 アイツに会えるなんて夢にも思わなかった」


和田野さんの言葉に上手く返答ができない。

俺はこの人に『夢』と『絶望』を与えることになるかも知れない……。


再び、出会える夢

再び、別れる絶望


どうなるかなんて想像も出来ない。

だが、それでも俺はこのコンビに希望をみる。


『さあ、やってきました!

 地球存続を賭けた、第三戦!

 今回は競馬、それも有馬記念!!』


最早、聞き慣れた銀河アナウンサーの声が

中山競馬場に響き渡る。


『宇宙代表は

 最強馬ギャラクシーエンペラーと騎手キュルテを代表に三頭!

 対する地球代表は、有馬記念に出走する十七頭!

 中でも注目は、案内人三好鮭が選ぶ召喚馬となります!』


観客の宇宙人は、歓声を上げるが

地球側は静まり返っている。


俺がどの馬を召喚するのか、

その一点に全員が集中しているのが分かる。


『さあ、三好鮭!

 君が選ぶ馬を今こそ召喚する時だ!』


一斉に俺へと視線が注がれる。


冷たい汗が頬を流れていく、

俺は拳を強く握り込むと、全力で声を張って

『覇王』の名前を叫ぶ。


「テイサスオペラオーだ!!」


言うと同時に、中山のターフ

目の前に、黄金の粒子が舞い始める。

冷えた空気が、急激に熱を帯び光り輝く渦となっていく。


そして、その中から

重厚で、美しく、

俺がイメージしていた姿そのもの

正に黄金といえる馬体が姿を現した。

気のせいか、右目を少し怪我している気がする。


オペラオーが完全に姿を見せると

日本中の競馬ファンから唸りが上がる。


「……覇王、オペラオー」

「最強か?」

「いや、最強だ」

「通好みではあるな」

「速いというよりも、強いと呼べる馬だからなあ」

「ティープの方がよかったんじゃ」

「あの案内人が隠しておきたかった理由、少しわかったな」

「そうだな、俺達でも知っている弱点がある」

「普通の人はあまり名前知らないかも」


更に群衆に紛れて、あの関西弁が一段と大きく耳に入ってくる。


「シャケ!オペラオーはナイスや!!

 これはもらったで!!」


大量の馬券を手に持ち、

諸星さんの笑顔が弾けている。


隣のシャインは諦めたように

苦笑いを浮かべるしかないようだ。


今日に限っては、あの人に関わらないでおこう。


俺は騒がしい観客席から

静寂が支配するパドックへと視線を戻した。


気づけば、和田野さんの目尻から

キラリと光る液体が溢れていた。


「……オペラオー」


この会場で、いや世界中で一番

オペラオーを待っていた男。

その人は、オペラオーの前で大きくお辞儀をしていた。


「……」


恐らく、彼にとってオペラオーは

友であり、師であったのだろう。

大きく下げた頭から、その関係性が透けて見えてくる。


和田野さんは数秒続いたその儀式を終えると

笑って顔を上げた。


「やっと会えた……いや、待たせていたのは俺の方か」


そう言うと、マメだらけの指で鼻先に触れる。

オペラオーは嬉しそうに鼻を鳴らすと

かつてと同じように、その指を優しく舐めまわした。


「君に相応しい男になれたかな?」


オペラオーがその言葉に応答し、

和田野さんを見つめる。


その瞳は「走ればわかる」とでも言うかのように

YESともNOとも取れない色をしていた。


「そうだな、結果で示そう」


和田野さんがその黄金の背に跨り、

武井裕太の乗るマイデュースと並ぶ。


俺が選んだ、テイサスオペラオーと和田野さん。


彼らと現役馬たちに地球の未来を託す。

俺は、中山に揃った全頭、全騎手に向かい声を張り上げる、

これが最後に出来る仕事だ。


「皆さん!地球の運命はアナタたちに託されました!

 有馬記念というこの舞台、

 予定通り、『全員』が勝ちを目指してください!」


一頭でいい、

ゴールラインを一番に駆け抜ける馬が地球の馬であれば、

こちらの勝利となる。


相手は宇宙一。

地球側はこの1年を代表する馬16頭と、

俺が召喚した覇王テイサスオペラオー。


その勝利を信じて。


「……宇宙一を決めないか!!

        この有馬記念で!!」


全ての地球馬と騎手がこちらを真っすぐ見据える。

拳を突き上げるものも、声を張り上げるものもいない。


だが、己の勝利を信じているそれぞれの決意が

冷たい空気を沸騰させていく。


『さあ、間もなくスタートとなります!』



――運命の2500メートルが始まる。


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