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第26話 召喚する最強は


あの熱狂が嘘のように、

夕暮れどきの宇宙人対策本部は静まり返っていた。


モニターには、

先ほどまで主戦場となっていた秋葉原の街頭が映し出されている。


そこでは自衛隊と宇宙人が長年の同僚であるかのように

和気藹々と巨大モニターを撤去し、民間人の帰宅を誘導していた。


格闘ゲームという文化で

地球を認めた宇宙人の姿がそこにある。


「……三好さん」


聞き慣れない呼び方に俺――三好鮭の肩がわずかに跳ね上がる。

振り返ると、そこには対策本部長の鳥越さんが真顔で立っていた。


これまでの、どこか俺を「腫れもの」として扱う

「三好様」という呼び方ではない。


エリート官僚としてではなく、一人の女性として接してくれている。

それを肌で感じることが出来た。


鳥越さんは俺の正面に立つと、深く、腰が折れるほどに頭を下げた。

野球の時のような形式的なものではない、心からの誠意を感じる。


「この国を、地球を救っていただき

 本当にありがとうございます」


「ちょ、鳥越さん……やめてくださいよ。

 俺はやれることをやっただけです」


(……感謝されるのも、若干恥ずかしいなコレ)


頭を掻きながら目線を逸らすが

鳥越さんは顔を上げようとしなかった。


「いいえ、諸星様の動画も見ていました。

 三好さんが諸星さんを……歴史を動かした」


「……ただ思ったことを言っただけなんだけどな」


俺が苦笑すると、横で腕を組んでいたスズカが

自分の手柄であるかのように鼻を高くしていた。


「それで良いのです、三好鮭」


「お前、いつまで俺をフルネームで呼ぶつもり?」


俺の言葉を聞いているのかどうなのか

スズカを置いて、鳥越さんは話を続ける。


「私たち、対策本部は宇宙人と共に会場をセッティングするなど

 安全面を一番に考え、動いてきました。

 今、現場撤収も彼らと行っています。

 そして、そこで感じたのは

 圧倒的な技術力の高さ……文明のレベルが違います」


「それは、俺もヒシヒシと感じています」


「しかし、彼ら宇宙人は非常に友好的でもあります。

 我々と同じく、ともに感動し、ともに笑う。

 その……地球の侵略というのは……」


「……『競技』で勝たねば、侵略されることは

 依然として事実です」


希望を見出す鳥越さんに向かい

スズカが冷たい言葉を吐く。


俺も感じていた。

ここまで対戦した宇宙人、ゼロ、クリムゾン

二人とも強敵と書いて「トモ」と呼べるような輝きがあった。


だが、味方であるはずのスズカの言葉が

宇宙人の冷酷さそのものを現していた。


「……そうですか。

 残念ですが、次の勝負へ切り替えるしかありませんね」


唇を噛み締め、残念と零す鳥越さんは

手元にある大量の資料から

その一部を俺の前にゆっくりと丁寧に置いていく。


「こちらが2週間後に行われる。

 有馬記念の出走予定リストとなります」


その資料に目を通す。

流石、年末の一大イベントでもある「有馬記念」

俺でも知っている馬がズラリと並んでいる。


「で、相手の宇宙最強馬って言うのは……」


スズカは待っていましたと言わんばかりに

ホログラムを作動させた。


空中を青白い光が舞い、

次の戦場――中山競馬場の立体マップが浮かび上がる。


「……次の相手もまた強敵です。今回の相手はハロン星人」


(……競馬星人ね)


「彼らが乗る最強の馬、その情報を共有します」


ホログラムが切り替わり、

一頭の白く光り輝く馬が映し出される。


その馬体は、地球の馬よりも一回り大きく

全身が鋼のような筋肉で覆われていた。


「宇宙最強馬『ギャラクシーエンペラー』

 前方に真空の壁を作り出し、空気抵抗をゼロに近づけます。

 最大瞬間時速は100km超え

 ……ちなみに地球の馬はどれだけ速くても70km前後です」


(勝てるわけねえだろ)


格闘ゲームの時と同じ絶望が心を占めていく。

それはもはや生物の走る速度ではない。


その速度がもし本当なら、

第一コーナーで既に背中が見えなくなっても不思議ではないのだ。


絶望的なスペックを前に頭を抱えていると

会議室のドアが、静かに重厚な音を立てて開く。


入ってきたのは、日本競馬界の至宝・武井裕太たけいゆうただった。

優しさが滲む、少し垂れた目つき。


身長は低めなのに、その姿からは

大空流星や諸星大と同じ、あるいはそれ以上の重圧を感じる。


「案内人、三好くんだね」


武井裕太の声は驚くほど穏やかだった。


「は、はい」


「今の話、聞こえていたよ。

 相手はとんでもないスピードらしいけど……

 君はどの子を『召喚』するの?」


馬を「子」と呼ぶ武井裕太。

それは、パートナーとして馬を愛してきた男ならではの言葉だった。


「三好さん、過去、優秀な成績を残してきた馬のリストを用意しましたが……」


鳥越さんがレジェンドたちの名が並んだリストを

俺に差し出してくる。


「ありがとうございます」


俺はリストを受け取ると、

そこに並ぶ文字を目で追った。


異次元の逃亡者、英雄、芦毛の怪物、皇帝

金色の暴君、日本総大将、シャドーロールの怪物……。


誰もが納得する100点満点の最強たちが並んでいる。

その中で、一点の馬名が俺には光って見えた。


「……武井さん、アナタならどの馬を選びますか?」


「そうだねえ、僕が選ぶとどうしても

 過去乗ってきた子になるかなあ、

 サイレントスズカ……ティープインパクト……」


多分、その馬たちを選べば誰も文句を言わないだろう。

日々、競馬ファンの間で語られる「最強の馬」議論。

時代を考慮しなかった場合でも、最強に選ばれる馬たち。


だが、相手の宇宙馬が『最速』であることは疑いもない。

その条件を頭に入れると、俺はあの馬しかいないと考えていた。


「俺、この馬だと思うんです。宇宙一になれる馬」


リストの一点に俺は指を静かに置いた。


武井さんは指し示された馬名を見ると

ニヤリと口元を歪ませた。


「……アイツか。そうかあ。

 中々に可愛げのない子を選ぶね、三好くん」


「武井さんがそう言うなら、逆に安心です」


騎手が言う『可愛げのない』はある意味で最高の誉め言葉だ。

それは戦いたくないという意味だから。

言うのが天下の武井裕太なら尚更だ。


「確かにこの子なら死んでもハナ差を譲らないね」


俺は本気だった。

この絶望的なスペック差を埋めて1着でゴールできるのは

世紀末を無敗で駆け抜けたあの『覇王』しかいない。


「あと騎手なんですが……」


「大丈夫だよ、彼はたまたま有馬記念に乗る予定がなかった。

 僕から伝えておくよ……多分、涙を流して喜ぶ」


俺は力強く頷いた。


あの馬ならきっと勝てる、

周りをどれだけ囲まれても勝ってきた。


『最強の馬』議論でもよく言われる。


同世代が弱かった、タイムは出ていない、

馬身を離した勝利が少ない、圧倒的勝利ではなかった。


――それでも結果を出し続けた。

常にその身を一番で駆け抜けた。


恐らくアレは馬自身の勝利への渇望。


「召喚権は当日の使用となります。

 ……恐らくレース終了と共に消えていくことになるでしょう」


か細く消えていくようなスズカの言葉。

語るその姿は、いつになく小さく見えた。



宇宙からの使者を迎える

前代未聞の有馬記念まで、あと14日。



毎日20時過ぎ更新

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