第25話 廻るバトン
『――最終ラウンド、決まったぁぁぁ!!
第二戦、格闘ゲーム
地球代表、諸星大の勝利となります!!!』
(……ああ、終わったんやな)
諸星は深い溜息とともに
これまであえて蓋をしてきた
「30年分の重圧」が抜けていくのを感じていた。
伝説、歴史、日本初のプロ。
そんな仰々しい看板を背負い、
負ければ「格ゲーの終わり」どころか「地球の終わり」
指先は震えて、心臓は壊れそうなほど脈動している。
(……しんどかったわ。ほんま、しんどかった。
けど……最高の気分や)
噛み締める、静かな感動。
苦しみは表に出さない。
皆に届けるのは笑いと格ゲーへの覚悟、それでいい。
それこそ、諸星大。
隣では、クリムゾンが下を向いて動かない。
「お嬢ちゃん、ほれ握手や」
諸星が手を差し出すと
彼女は鼻血を拭い、涙目のまま立ち上がる。
「……死ぬほど悔しいわ。モロボシ」
「……これで笑えたら格ゲーマーやない」
「アンタが私に格ゲー論を語るの?」
「そりゃそうやろ、俺は宇宙一の格ゲーマーやで?」
「……それもそうね」
何かから解放された眼差し
棘が取れたようにクリムゾンが微笑む。
その手は、諸星の手と重なり
果てしない戦い、格闘ゲームの宇宙対地球が終結する。
「まあ、アレや。お前のサイコ、最高にエグかったで。
また対戦したるわ」
「一回勝ったぐらいで調子に乗らないことね!
次は宇宙の果てまでブッ飛ばすから!」
――笑いながらクリムゾンは駆けていく。
その足取りは輝きを放っていた。
きっと彼女の格ゲー愛は、破滅の進化ではなく
地球と……諸星と共に歩んでいくのだろう。
諸星がふと、周りを見渡すと
秋葉原と世界中、宇宙中から歓喜の声が止まらない。
「あれが地球の伝説」
「地球人凄い」
「みろ、地球人のベガ立ちも解除されてる」
「やはり最強の臨戦態勢」
「これでメイドカフェいける」
空中の実況ブースでは
世界王者シャインも涙を堪えている。
『……諸星さん、最高っす』
そして、案内人シャケとスズカも
ゆっくりと諸星の元へ
「諸星さん!今度は受け取ってくださいよ。
……本当にありがとうございました!」
「おう!確かに受け取った!
……シャケ、自分の選んだ男が宇宙一取ったったで!」
「はい、伝説の再来、魅せてもらいました」
「ガハハ!これでお前も伝説の案内人や!
俺からの『称号』受け取れや!」
告げると同時に
諸星はシャケの胸へ軽く拳をぶつけた。
二人の澄んだ瞳が交差する。
「諸星大……配信がとんでもないことになっています」
諸星のスマホをずっと持っていたスズカが
薄く青ざめて画面を二人に掲げる。
・うおおおおおおモロボシィィィィ
・【¥50,000】諸星最強伝説
・【¥15,000】地球はモロボシに守られた
・【¥25,000】母ちゃんからこれ投げろって言われた
・【¥12,345】諸星は宇宙一の称号を手に入れた
・【¥50,000】この金で旨い飯食ってくれw
・【¥50,000】宇宙一見届けたぜぇぇぇx
・【¥50,000】俺達は伝説になったwwww
・【¥30,000】そして伝説へ
・【¥50,000】宇宙一への逆転劇、爆誕!
・【¥10,000】スパチャの嵐で草
「おいおい、みんな無茶すんなよ」
諸星は、留まることを知らないスパチャを見て
先ほどまでの感動を台無しにするような悪い笑顔を浮かべた。
「ガハハハ!みんな、ありがとさん!!」
◆ ◆ ◆
その頃、地球から遠く離れた宇宙。
宇宙議会では、これまでにない変化が起きていた。
「野球に続き、
格闘ゲームという競技においても、宇宙の頂点が敗れた」
「地球は単なる弱小文明ではない。
やはり、原点としての価値がある」
ストライク星、そしてフレーム星。
敗れた側の勢力が、
地球への敬意を示し始めたことで
地球存続の支持率は三割を超えていた。
しかし、過半数には未だ遠い。
議長が告げる。
「……どうやら次の競技も行う必要がありそうだ。
………エレン頼む」
宇宙最高AIエレン
その球体の淡い光がゆっくりと点滅する。
「地球文化は、不完全である」
野球の時と同じように
球体の内部には、諸星とクリムゾンの戦いが流れている。
「だが、その不完全であるがゆえに、
不確定な未来を選択していく。それは私にも読めない。
地球の格闘ゲームは――諸星大はそれを証明した」
淡い光が徐々に光量を増していく。
「次なる競技は――」
◆ ◆ ◆
再び、秋葉原。
街の至る所に『Congratulations!』の文字が投影される中
銀河アナウンサーの声が、次の絶望を告げる。
『地球の皆様、第三戦が確定しました』
「……来ましたね」
「まだやるんかい!」
「ふぅ、もう次か……」
『第三戦は……こちら!』
花火と共に、秋葉原の上空へ
巨大な文字が浮かび上がる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
第三戦
【 Horse Racing 有馬記念 -Versus the Universe- 】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「待て待て待て!有馬記念???競馬!?」
英語は読めないが、有馬記念は一瞬で理解できる。
その四文字にシャケは意表を突かれた。
『今回、2週間後に行われる日本の競馬、有馬記念に
宇宙最強馬を含む3頭が送り込まれます!』
「そんな勝手に……」
「断れば、地球は侵略されてしまいます」
スズカが冷酷に現実を伝えてくる。
『宇宙の馬が一着を取れば、地球滅亡。
その他、地球の馬が一着を取れば、地球存続となります!』
当たり前のように、地球の滅亡だの存続だの告げるアナウンスに
シャケは頭を抱えることしかできない。
『またスケジュール、コンディションにより
地球最強の馬を用意できない可能性も考慮しました。
今回は特別ルールとして“召喚権”を地球側へ提供します』
「召喚権???」
シャケと地球の人間全てが謎の単語に困惑する。
『簡単に言えば、過去・現在
地球で活躍した全ての馬の中から、
一頭を全盛期の状態で召喚することができます』
「何それ?そんなこと出来るの?何でもありかよ」
「……『死』を冒涜する行為……禁忌の一歩手前……一応、合法です」
『ちなみに宇宙最高AIエレンからの指名で
その召喚権を行使できるのは三好鮭のみとなります』
「はあああ?俺が最強の一頭を選ぶってことか?」
「三好鮭……どちらにしろ貴方が選択することになったでしょう」
「ガハハ!スパチャで儲けた分、まるっとお前の選ぶ馬に賭けたるわ」
困惑するシャケを他所に、諸星は笑っていた。
気づけば、地球のマスコミが集まり
カメラが諸星へと向けられている。
「諸星さん!世界中に一言お願いします!」
諸星は少しだけ照れ臭そうに頭を掻き、
そして真剣な眼差しでマイクに答える。
「……格闘ゲームは……地球はこれからも続いていく。
応援してくれたみんな、ほんまおおきに」
世界中の歓声が、再び秋葉原へと向けられる。
「それと格ゲーを初めて見てくれた皆さん
これをきっかけに格ゲーを始めてくれると嬉しいです。
格ゲーは楽しいでぇぇぇぇぇぇ!!」
彼はこれからも格ゲーの伝説を刻んでいくだろう。
格ゲーの歴史は伝説と共に歩み続ける。
「おっと、俺も例のアレをバシッと決めておかんとな~」
その伝説が改めてシャケを見据える。
「――宇宙一を決めようか。
シャケ、次もお前が選んだ奴で」
戦いのバトンが、
再び「30点の案内人」へと託される。
格闘ゲーム編、完結しました。
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【お知らせ】
次章「競馬編」の準備のため、今週はお休みをいただきます。
次回更新は1月19日月曜日の20時過ぎ、
19日以降は引き続き、毎日更新となります。
宜しくお願い致します。




