表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

第23話 紫の深淵


(……好きなのよ。本当に……壊したくなるほどに)


雷鳴走る会場に佇む、紫の深淵。クリムゾン・グランデ。


深く瞼を閉じる彼女が

集中力を高めるにつれて秋葉原は激震していく。


――彼女が愛したのは、辺境の惑星・地球が生み出した

格闘ゲーム「スターファイター」シリーズの歴史そのものだった。


ドット絵から始まり、ポリゴン3D、そしてフォトリアルなグラフィックへ。

地球の人間という短命な種族が、

数十年の歳月をかけて一歩ずつ積み上げてきた進化の軌跡。


それは、何万年もの技術を瞬時にコピーするだけの

無機質な宇宙にはない、泥臭くも輝かしい「生命の躍動」だった。


(銀河中の技術を使えば、

『SF7』どころか『SF100』だって一瞬で作れる。

リアルを超えたグラフィック、完璧なフレーム管理、ラグのないネット環境。

……でも、誰もそれを作ろうとはしなかった)


銀河の掟は無情だ。

「原点を侵すべからず」

未開の惑星の文化は崇拝され、

各種ゲームは「地球産」のものしか宇宙に拡がっていなかった。


作れる技術はある……

しかし、それは全て軍事技術へと回されていく。


そもそも、宇宙で作り上げた「SF」シリーズは本物と言えるのか?

進化を求める心と、それを否定する心。

それでも彼女の格ゲー愛は『進化』を求めていた。


(地球が滅びれば、SFシリーズは地球のものではなくなる。

そうなれば、宇宙の叡智を結集して『続き』を私たちが作ればいい。

……私こそがSFシリーズになる)


そう、クリムゾンは己こそ格闘ゲームの『歴史』になろうとしていた。


僅かに残された否定はこの勝負で潰せばいい。


進化を求めるには

地球を焼き払い、目の前でレバーを握る『伝説』という名の偶像を

粉々に砕かなくてはならない。


完全勝利を胸に抱き、挑んだこの戦い。

だが、もうそんなプライドは必要なかった。

全てを投げ出す、持てる全てを。


それこそ、人知を超えた『予知』であっても……。


「……ただ勝つ。それだけが私の愛よ」


クリムゾンが閉じていた瞼を見開くと

輪のように、闘気の塊が秋葉原を貫いていく。


歴史を作ろうとする彼女と歴史を作ってきた男


格闘ゲームの歴史は、地球の運命をも巻き込もうとしていた。



◆ ◆ ◆



「ゲームの対戦で何でこんなことになるんだよ!」


暴風とも呼べる空気の塊。

シャケは右腕で目を覆いながら叫ぶことしか出来ない。


クリムゾンの全身から噴き出した紫のオーラは、

もはや演出の域を超えていた。


不可視の重圧が物理的な衝撃波となり

堅牢な特設ステージにクモの巣状の巨大な亀裂を走らせる。

会場を囲む群衆は、見えない壁に押し込まれるように後退していく。


残されたのは、ステージ上の諸星、シャケ、スズカ。

あとは空中実況席の二名だけ。


スズカが事前に浴びせた「耐衝撃スプレー」

その目に映らない膜が、宇宙規模の威圧を弾き

バチバチと火花を散らしている。



・サイヤ人みたいになってるwww

・おい、秋葉原で地震が起きてるぞ!

・スズカ様、どうかご無事で

・人間じゃないだろアレ

・ホログラム前で皆、拝んでるんだけど

・ヤンデレ幼女だったか

・それでもモロボシなら

・いやもう許す!諸星逃げろ!

・ここで逃げないのがモロボシなんだよなあ



「……ガハハ!

ほんまに洒落にならんな、ゲーム機が悲鳴上げとるわ」


諸星は、ひび割れたステージ上で

震える指先をそっとアケコンに置いた。

その手は恐怖で震えているのではない。

かつてない強敵、理解を超えた深淵に触れたことへの武者震いだ。


諸星の肩に二つの手が添えられる。

シャケとスズカだ。


「諸星大……

あの状態になったクリムゾンは『予知能力』を発動します。

どんな『読み』も通じないでしょう……

彼女の眼には、数秒後の動きが残像として視えるはずです」


予知。それは格ゲーにおける絶望を意味する。

2ラウンド目に諸星がとった戦法は恐らく通じない。

……彼女には「読み合いの正解」が見えているから。


『……諸星さん、聞こえますか』


それは実況席のシャイン

世界王者としての仮面を脱ぎ捨て

一人の「諸星大に憧れた子供」としての声だった。


『特訓、地獄でしたね……でも楽しかった、嬉しかったっす。

俺たちはあなたの背中を見て、格ゲーを学びました。

決して無敗でも無敵でもなかった……だからこそ、惹かれた。

……予知?なにそれ?

俺達、格ゲーマーの愛を背負う諸星大が負けるわけねえよなぁ!』


諸星は小さく、だが深くガハハ!と笑った。


そして、最後に案内人シャケが言葉を紡ぐ。


「も、諸星さん。

……無茶は、と言いたいところですが

……アナタしか救えません。地球も彼女も」


諸星の肩に添えられたシャケの手が、熱く滾っていく。


「アナタの伝説、もう一度魅せてもらえませんか?」


「しゃあないなあ……お前もやで

……伝説の案内人にしたるわ」


最高の笑顔が弾ける諸星とシャケ。

二人の想いは勝利への道を真っすぐに見つめていた。


「最後に一つ、アナタの背中には

地球人類、全ての想いが乗っています」


「なわけ……あるな……。

そうやな、今この瞬間、最高の姿を魅せんとな~」


諸星がレバーを回す。

カチカチという至って普通のスイッチ音と、乾いたレバー音。

決して華麗ではないその泥臭い音が

不思議なほど、透き通って感じる。


「お前らの『いとしさ』確かに受け取ったで!!」


その言葉を合図に

ステージを包んでいた紫の闘気が弾け飛ぶ。


予知という「確定していく未来」に対し、

諸星は「不確定な未来」を届けることができるのか……。



次回、第24話


いとしさと せつなさと 心強さと』



――紡がれてきた歴史か、先読みする未来か。

ゲームを愛する二人が、最後の「正解」を求めて拳を握る。



毎日20時過ぎ更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ