第22話 ROUND2
『さあ、ここで3分間の休憩に入ります』
インターバル、特別ルール3分間の休憩が宣告された。
秋葉原の上空では、
宇宙広告のホログラムが一斉に溢れ出す。
巨大モニターが180秒のカウントダウンを刻む中、
諸星は、スズカとシャケを手招きした。
「スズカ、一つ聞かせてくれ。
あのお嬢ちゃん……対面での対戦経験はどれくらいあるんや?」
「対面……オフライン対戦ですか?ほとんどないはずです。
宇宙はあまりに広いので、
銀河大会も基本は超長距離通信によるリモート対戦になります」
スズカの答えで、諸星の口元が微かに歪む。
「……なるほどな。
シャケ、スズカ。自分ら、何が起きても合法ゆうとけよ」
「それはスズカの……」
「ええから、ええから」
シャケの言葉を遮りつつ、
配信用のスマホを真っすぐ見つめると
諸星は前髪を掻き上げた。
「おい、ずっと俺の配信を追い掛けてくれたみんな……感謝してる。
お前らが見てきた俺の特訓、あれは無駄じゃなかったぞ。
今から、その答えを魅せたるわ」
嵐のように流れていたコメントが一時止まる。
それは画面の向こう、一人ひとりが
言葉の意味を飲み込んでいるようだった。
まもなく、カウントダウンが0へ向かう。
シャケとスズカは邪魔にならないよう
配信スマホと共にステージ横で待機した。
「諸星さん、頼みます」
シャケの呟きと同時にカウントが0になる。
『それでは、第2ラウンド……』
「クリムゾン、お前、ほんまは五十代のおっさんらしいな」
『ファイト!!』
「はぁぁぁぁぁあぁぁ!?誰がオッサンよ!私は――っ!」
クリムゾンの顔が怒りで真っ赤に染まる。驚きと困惑。
彼女は思わず立ち上がり、
手は当然のようにコントローラーから離れていた。
――ガッ
秒単位の棒立ち。
諸星の操るキャラ、リュウガの深く重いパンチが突き刺さる。
「自分アホちゃうか?
試合中にレバー離す格ゲーマーがどこにおんねん。
少なくても地球にはおらんで」
弱攻撃から始まるコンボとは威力がまるで違う。
強攻撃から始まるリュウガ最大コンボが始まっていた。
「この……卑怯な!!」
「卑怯もクソもないねん、
俺らの時代は灰皿飛んできても続けとったわ」
喋りながらも諸星のコンボは止まらない。
決して簡単ではないそのコンボ。
だが、この一番でミスをする男ではなかった。
『……恥ずかしいっす。
これ、世界中で見られてるんすよ諸星さん』
『解説のシャインさんも苦笑いしかできない!!
これは許されるのか!』
『……許されますよ。反応する方も悪いっす』
実況、解説に続くようにシャケは両手を叩いて笑っていた。
「はっはっは!スズカ言ってやれ!」
「……合法です」
ドヤ顔で決め込むスズカの手元では……。
・クソワロタwwww
・さっきのエモい感じ、どこいったwwww
・これかよ見せたかったのww
・草
・特訓の成果→煽り
・モロボシ俺恥ずかしいよ
・幼女可哀そう
・いやいや手段は選んでられない
・半分は削れるな
・チャンネル登録者減ってて草ww
会場がどこか笑いに包まれる中、
ようやく長く続いた諸星のコンボが2ゲージ超必殺技で終わる。
左側の画面端まで派手に吹き飛ばれるクリムゾンのキャラ、サイコ。
気づけば、体力を6割ほど減らされていた。
「何よ何よ何よ!!!
こんなことしても、さっきみたいに虐めてあげるから!!!」
「それはどうかな~」
格闘ゲームでは画面端を背負うと不利になる。
つまり、絶好の畳みかけるチャンス。
諸星は、このまま追撃を……仕掛けなかった。
それどころか一歩引いて完全に立ち尽くしている。
「はああ?余裕あるわね」
「いやいや、真剣やで」
怒りに燃えるクリムゾンは
1ラウンド目のような超反応で距離を詰めようとする。
しかし、それを遮るように蒼い衝撃が弾ける。
諸星……リュウガの放つ弾「波動撃」
その弾は完璧なタイミングでクリムゾンの足を止める。
そして、距離を取ったリュウガは更に波動撃を連打する。
(……思い知れや。俺の30年)
諸星の体には過去幾度もなく打ってきた
飛び道具「波動撃」 対空技「昇竜撃」
この二つの技が染みついていた。
常に課している特訓で、放つタイミング、距離感は
「絶対領域」として染みついていたが
今回の相手、クリムゾンが
1フレーム見てから飛んでくるなら事情が変わる。
普段の対戦において、
この飛び道具、波動撃を攻略するにあたって
プレイヤーたちは「読み合い」で攻略をしてくる。
撃ってくるタイミングを勘や経験値で予想して対応する
もし、それが読み合いではなく
『毎回必ず1フレーム見てからしか動かない』なら?
波動撃の予備動作を1フレーム確認して
クリムゾンが飛びこむ、
しかし着地際を諸星の対空「昇竜撃」が迎撃。
またしてもキャラ2名の距離が空く。
「……やってくれるわね」
「見てからどうにかなるほど安くないんよなあ」
この状況は、絶対的な距離感と技の入力時間など
1フレームの妥協も許さない諸星ならではのものだった。
この完全な飛び道具と対空を攻略するには
弾をジャンプで躱して攻撃、
弾をすり抜けるような必殺技を使用する。
もしくは、ゲージを使用する特定の超必殺技を当てる。
ジワジワと画面端まで追い詰めて、逃げ道を塞ぐ。
この辺りが候補に挙がる。
そして、クリムゾンが使用する「サイコ」には
『弾をすり抜けるような必殺技』と『飛び道具』がない。
「……私の方が速いのに」
「1フレームを舐めすぎやで自分」
焦るクリムゾン。
彼女が「後出しジャンケン」を成立させるには
どうしても近づく必要がある。
だが、諸星はその距離をミリ単位で調整し
波動撃を散らしてくる。
飛べば対空、地面ではジリ貧。
ゲームを、今、諸星が支配していた。
そして、例のコメント欄は
諸星の言葉の意味と、「基礎」の暴力に震えていた。
・こんな単純な……
・タイミング、距離、入力時間、全部完璧
・俺達が何万回も見てきた練習か……
・モロボシの対空は宇宙一!
・見てから飛んでも遅いんだよなあ
・あの地味な練習、このためだったのかよwww
・これは読み合いしないと攻略できんぞw
・目から液体が
クリムゾンは仕方なく、
正攻法、画面端へ追い込むように歩いて詰めていく。
進めば、諸星は距離を取る。
だが、間に挟まれる波動撃がその進行スピードを操作する。
「面倒臭いわね!」
「超必殺技ぶっ放せばええやん?」
それは出来ない。
ゲージを使用する超必殺技、
それを使ってもコンボにならず単発ダメージで終わる。
既に3割ほどしか残っていないクリムゾンの体力では
ダメージを与えても状況が良くなるわけではなかった。
『シャインさん、これ攻略方法ないのでしょうか?』
『余裕でありますよ、波動撃を読んでジャンプ攻撃。
さっき諸星さんが言った
超必殺技で無理やりこじ開ける、
そして、その後、起き攻めをする。』
『何故、クリムゾンはしないのですか?』
『ジャンプ攻撃、起き攻め、
ともに1フレームの待ちが許されない読み合いが発生するからっすよ。
クリムゾンは『見てから』の完璧な勝利に固執するあまり、
不確実な『読み合い』を拒絶しています』
実況解説を背景に
画面上ではクリムゾンがガードを固め、
じりじりと距離を詰めて、ようやく画面端まで追い込んでいた。
「……やっとね、ここからが勝負よ」
「えらい時間掛かったな、お嬢ちゃん。
でもな……ここからじゃなくて、ここまでや」
会場に無情な電子音が鳴り響いた。
『TIME OVER!』
画面上の体力ゲージは、圧倒的に諸星がリードしていた。
格闘ゲームは1ラウンドごとに制限時間がある。
そして、そのタイムオーバー時は体力の多い方が勝つルールなのだ。
つまり……
『第2ラウンド!諸星大の勝利です!!』
会場の格ゲーマーたちは、爆笑しながら叫んだ。
「汚ねええええええ!!!!」
「最高だ諸星!恥を知れええ!」
シャケとスズカも笑いながらガッツポーズをしている。
・草
・相手したくねえええwww
・反射よりも反復の方が強いんや
・特訓の成果あらわる
・宇宙のモロボシ
・2ラウンド目とったあああ!!
・よく相手の弱点わかったな
・読み合いしてこないんか
・まあ運の要素も絡んでくるからな
・アホみたいに見てきた波動撃と昇竜撃が……
諸星のあまりに泥臭く、執念深い勝利に
地球の皆が笑い、感謝し、希望を見出していく。
(……さてと、ビンビンと伝わるわ。お嬢ちゃんの殺気)
諸星の背筋を冷たい震えが走った。
次の瞬間――秋葉原に雷鳴走る。
閃光と怒号、紫の光がクリムゾンを貫いていた。
ステージの電磁ノイズは弾け、
秋葉原の巨大モニターが激しく明滅する。
クリムゾンの全身から溢れ出した紫のオーラが、
物理的な圧力となって諸星を襲った。
「……分かったわ、おじちゃん。もう『見てから』なんて言わない」
クリムゾンがゆっくりと顔を上げる。
その瞳は濁った紫に染まり、
ピンクのツインテールも、逆立ちを止められない。
会場中から火花が散る。
常軌を逸した「本気」のプレッシャーに諸星は思わず笑みをこぼした。
「……これはアカンわ。流石、宇宙一」
第二戦、格闘ゲーム
その終わりが近づきつつあった。
毎日20時過ぎ更新




