第21話 伝統芸
『またクリムゾンのコンボが決まってしまったぁぁ!』
銀河アナウンサーの絶叫が、秋葉原の空にこだまする。
諸星の操るリュウガが、紫の炎に包まれて
ステージ端まで吹き飛ばされた。
体力ゲージは残り3分の1、あと一回のコンボでほぼ終わってしまう。
悲痛な顔のスズカが持つスマホからは
諸星の配信が続いている。
・幼女つよすぎww
・モロボシ……
・これどうやって勝つん?
・コンボ安くね?
・弱攻撃がウザすぎるww
・無駄な行動が一切ない
・舐めプか?起き攻めしてこない
・草
・気づけば画面端
実況席のシャインは、軽く水を飲む。
異常な光景に喉が渇いて仕方ないのだ。
『……諸星さんの動きが悪いわけではありません。
全盛期以上の集中力を発揮しています。
……でも、届かない。
ボタンを押した1フレーム後に正解を出してくる。
こんな理不尽の塊……しかし、これが格ゲーです』
苦笑いを浮かべる諸星は、レバーを強く握り
必死に勝機を探る。
(……見てからやっとるなら、意識を散らすしかない)
諸星は飛び道具、波動撃を放ち、すぐさま前へステップした。
意識を揺さぶり、接近戦へ持ち込む。
だが、クリムゾンは分かっていたかのように嘲笑った。
「遅いってば!」
クリムゾンの操るサイコが、紫のオーラを纏い飛び上がる。
更に、空中から重力を無視する角度で襲いかかってきた。
ステップに合わされたその攻撃は
無残にも新たなコンボとして繋がっていく。
その光景を眺めていた若手プロゲーマーたちは言葉を失っていた。
「嘘だろ……。
あの諸星さんが、読み合いにすらなっていない」
彼らには分かる。
諸星がどれだけ高度なフェイントを織り交ぜ、
どれだけ精密に間合いを管理しているか。
その全てがクリムゾンの「1フレームの暴力」に無力化されている。
「……これが宇宙一。
俺達が積み上げてきた技術は通用しないのか」
諸星は、クリムゾンの体力を1ミリも減らすことが出来なかった。
コンボの最後はサイコの1ゲージ超必殺技が決まり
リュウガを紫の炎が焼き尽くした。
『K.O!
第1ラウンド、クリムゾン・グランデのパーフェクト勝利です!!』
会場に静寂が訪れる。
秋葉原に集まった数万人の格ゲーマーたちは
ベガ立ちのまま石のように固まっていた。
彼らが信じた『伝説』は今、銀河の最強という現実の前に
粉々に砕け散ったように見えた。
諸星はアケコンから一度手を離し、
深く椅子に背を預けた。
その顔、上半分は影になり、表情は読めない。
「あはは!おじちゃん、もう終わり?
地球ってこんなもんなの?」
クリムゾンの無邪気な煽りだけが、冷たく響く。
――だが、『わかっている』格ゲーマーほど内心笑っていた。
ベガ立ちをしている格ゲーマーたちは思う。
(……まあ、モロボシさんだからなぁ)
(あの人、1ラウンド目、遊ぶんだよなあ)
(いや、別に負けたいわけじゃないんだろうけど)
(ひとつの華だよな、アレ)
配信コメントも謎の盛り上がりをみせる。
・お約束キター!
・草
・1ラウンド目は遊ぶ(笑)
・あの俺達の運命が掛かっているんすけど
・どうやって勝つのか楽しむのがプロ
・↑何のプロだよwww
・いつでも俺達のモロボシ
・みんな絶望的な顔してて草、これからやぞ諸星は
・むしろ一戦目勝ってた方が不安まである
そう、諸星が『伝説』を刻むとき
『必ず1ラウンド目を落とす』
それは一種の伝統芸として語り継がれていた。
諸星の顔に掛かった影はまだ晴れない。
しかし、その口元は何かを嘲笑うように吊り上がっていた。
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