第20話 ROUND1
『両者、席に着きました。
まずは、選択キャラに注目ですね!』
銀河アナウンサーの声と共に
巨大モニターにキャラクター選択画面が映る。
秋葉原を埋め尽くす群衆、
そして世界中の空を見上げる全人類が、
固唾をのんでその選択に注目していく。
諸星が選んだキャラクターは
SF6の主人公「リュウガ」
それは、白い道着を纏った拳法家だった。
格闘ゲームの基本が詰め込まれ、
まさに格ゲーの顔と呼べるキャラ。
『解説のシャインさん、この選択をどう見ますか?』
実況ブース内のシャインが当然のように答える。
『ま、そりゃそうでしょうね。
諸星さん=リュウガとイメージする人が大半かと。
飛び道具、対空、無敵技と全てが揃った万能型、
業界では「道着キャラ」とよく言われます。
ですが……裏を返せば、尖った強みがない
純粋なプレイヤーの技術力、忍耐力がそのまま勝敗に直結する
いわば、自分の魂をそのままさらけ出すようなキャラです』
一方のクリムゾンは、
一切の迷いなく画面端のキャラクターを選んだ。
現環境における最強キャラクターであり、
SF6のボスキャラでもある「サイコ」
クリムゾンと同じく禍々しいオーラを纏い、
赤い軍服と軍帽を着こなすキャラクターだが
彼女は「紫」のキャラカスタマイズを重ねていた。
『クリムゾンはサイコを選んだぞ!シャインさん?』
『はい……まあ最悪っす。
現環境、最強ですからね。
キャラバランスが優れたSF6において唯一の強キャラです。
高い機動力、理不尽なまでの攻撃判定とコンボダメージ。
唯一の弱点は飛び道具がないことですが
彼女の戦い方から見て、それは関係ないっす』
シャインはそこまで話すと、唇を嚙み締める。
分かっていたお互いのキャラ選択だが、
諸星が不利な対戦であることも事実。
諸星が使用するリュウガ自体はそこまで弱いわけではない。
実際、SF6キャラクターの中では、ほぼ真ん中に位置する強さ。
しかし、クリムゾンが使用するキャラ、サイコは「最強」
世界王者のシャイン自身も優勝時はサイコを使用していた。
(……あのおっさん、リュウガ一筋だからなあ)
彼の心配を他所に、
ステージでは、対戦する二人のボルテージも上がっていく。
「おじちゃん、そんな弱いキャラでいいの?
言い訳する暇もなく、地球終わっちゃうよ?」
「寝ぼけたこと、ぬかすな。
主人公がボスを倒す……熱いやろが!ガハハ!」
いつものように、笑い飛ばす諸星。
だが、その背中は数日間の不眠不休に近い特訓により、
泥のように重いのも事実だった。
それを見守るシャケとスズカは呟く。
「……いよいよ、はじまりますね」
「うん、あとは信じるだけだ」
――地球の命運を賭けた、格闘ゲームが今始まる。
『ラウンド1……ファイト!』
対戦開始の合図が世界、宇宙へと響く。
会場は一瞬にして静寂に包まれる。
格ゲーマー達は理解していた。
二人の常軌を逸したレベルの場合、
軽く攻撃が入った時点でそこからコンボが始まる。
そして、そのコンボは体力の3分の1を軽く削ってくると。
まずは、諸星がレバーを細かく刻み、間合いを測る。
(……さて、どうなるやら)
諸星が仕掛けた。
牽制の「立ち中キック」
真っすぐに相手へ向かうキック。
それは、格ゲーの定石通り
相手が不要に踏み込めないように空間を制圧する攻撃だった。
だが、相手は宇宙一
リュウガの足が伸びきる前に
クリムゾンのキャラ、サイコの「弱パンチ」が割り込んでいた。
「いくわよ!」
クリムゾンの指が機械のようにレバーを走らせる。
その弱パンチはカウンターとなり
クリムゾンのコンボが最適な形で繋がっていく。
『先制はクリムゾンだ!早速コンボが始まった!』
『これは酷い……』
絶叫する実況の横で、シャインの本音が漏れる。
『いいっすか皆さん、
格闘ゲームは約0.017秒、1フレームという単位で動いています。
今のは諸星さんの中キックが当たる前、
わずかな出始めを
クリムゾンが有利なフレーム数となる弱攻撃で潰したんです。
これは明らかに見てから『差し返して』います。
人間業じゃないっす!』
格ゲーにおける差し返し自体は、一般の格ゲーマーも
勿論、シャインも行う。
しかし、重要なのは『見て』から最速で反応という事実。
『それに、今やっているコンボ、
これ、必ずカウンターが決まると分かっていないと出来ないです』
見守るシャケは冷や汗を止められない。
リプレイを何千回と見たから理解はしていたが……。
(……これが常に起こるのか……後出しジャンケン)
人間は、相手の動きを見てから反応するまでに
どうしても一定の時間がかかる。
それは、どれだけ早くても0.1秒だと言われている
実際、陸上競技では0.1秒未満のスタート、反応は
『音を聞く前に動いた』とされ、フライング扱いになる。
だが、クリムゾンは……格ゲーは違う。
1フレームの反応が許される。
0.017秒の深淵こそ、格闘ゲームの境地なのだ。
「残念ね、おじちゃんの中キック、
発生に7フレームもかかってるわよ?
私のは3フレーム。見てから当てるなんて余裕よ」
クリムゾンの無邪気な声が、
ステージのノイズと共に流れていく。
彼女のコンボがようやく終わった。
諸星は一度距離を取り、体勢を整える。
気づけば、リュウガの体力は残り3分の2となっていた。
「……ええ反応や。
マジで『見てから』やっとるんやな。
……まあええ、俺らプロもたまにやる」
「私は毎回よ?」
クリムゾンの『毎回』という言葉に
会場中の格ゲーマーが凍り付く。
プロが一生に数回、極限の集中状態でしか辿り着けない
『ゾーン』の領域。
それを彼女は、呼吸をするように常態化させている。
地球の住人、ほとんどの者がその絶望を理解できない。
格ゲーを知らないものは、体力が減ったことしか分からないのだ。
――対決は始まったばかり
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